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不動産登記不動産仲介業者を使わずに行う不動産の売買~個人間売買~
目次
いつもお読みいただきありがとうございます。
さて、今回は不動産仲介業者を使わずに行う不動産売買、いわゆる”個人間売買”についてのお話しです。
私的にはこれまで定期的に携わってきましたが、ここ最近、明らかにその件数が増えているような気がします。
いまいちその原因は分かっていませんが、需要が高まる何かしらの理由があるのでしょうねー
そのため、今回はその詳細や注意点等をご紹介させていただくことにします。
なんでもかんでも個人間売買でやればいいわけではないので…
大事なことは単に経費削減ではなく、仲介業者の役割や有用性等も踏まえた上で、案件に応じて無駄なく安全な不動産売買を行うことなのです。
不動産仲介業者を使わない個人間売買は可能です
可能か不可能かの話しになれば、不動産仲介業者を使わない個人間売買は当然に可能です。
(まあ、僕が携わることがあるくらいですからね…)
何らの制限もありません。
ここで少しだけ難しい話をさせていただきますね。
民法上、売買契約の成立要件は、①目的物(不動産)と②代金(売買代金)が定まっていることです。
あと、③支払条件も大事ですね。
ケースによっては、①、②だけでは売買が成立しないこともあるので…
他は必須ではないのです。
ちょっと退屈かもしれませんが、ここで該当する民法の条文(売買)をご紹介致します。
(今回のテーマからすると流し見でもいいかもしれません。)
民法第555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
不動産仲介業者は出てきませんよね?
あくまで手続介入の可否は法律上の要件ではないのです。
結果、不動産仲介業者を介さない不動産売買は可能という結論を導き出すことができます。
しかしながら、注意すべき点はこれはあくまで法律上の要件でしかないということです。
実態上の諸問題はそんなにシンプルではないですから―
事実、僕自身としても、極力、不動産売買にはその道のプロである不動産仲介業者を介入させるべきだと思っています。
少なくとも、メリット・デメリットをよく吟味した上で個人間売買を実行すべきです。
それでは次に不動産仲介業者の役割をご紹介致します。
(この辺りの部分をよく理解した上で個人間売買をご検討いただければ。)
不動産仲介業者の役割
そもそも売買の成立要件に関係ないはずの不動産仲介業者が、なぜこれほどまでに重宝されているのか?
それには相応の理由があるのです。
以下、ぱっと思いつく不動産仲介業者の役割となります。
- ①広告販売活動(不動産の買手を探す活動)
- ②対象物件の調査
- ③重要事項説明書・売買契約書の作成
- ④住宅ローン手続のサポート
その他、これらに付随する業務を一手に担ってくれるわけです。
良い営業マンであれば、その他、諸々の相談にも乗ってくれるでしょうし、各種紹介も行ってくれるはずです。
基本的には、金額なりの役割と仕事を全うしているのが不動産仲介業者というわけです。
ただし、個人間売買を検討されている方は、上記の内、①の必要性がない方が多いと思います。
そして、おそらく④の住宅ローンを組むケースも少ないかと…
そうなると、わざわざ不動産仲介業者に依頼し、その報酬を支払うのが馬鹿らしいと思われるのも分からなくはありません。
(そこそこしますからね仲介手数料…)
とは言え、②、③を蔑ろにしていいわけでは決してありません。
むしろ不動産売買において最も大切と言っていい部分なので。
では、その部分についても次項で軽く触れてみることにしましょう。
不動産取引の安全性を高めてくれる役割
そもそも物件調査とは何をやっているのでしょうか?
もちろん、対象の不動産がマンションなのか、戸建てなのかによっても異なってきます。
さすがに専門外なのでその詳細は割愛させていただきますが、端的に言えば、売主及び買主の不動産取引における安全性の担保なのです。
購入した中古戸建が将来建替えができないものだとしたら?
建替えはできても相応の制限がかかるものだったら?
マンション自体に問題はなくとも、修繕積立金の問題等、管理組合上の問題が生じていたら?
その他、室内の設備の問題も生じかねないでしょう。
いずれも決して珍しい話ではありません。
それら諸々を事前に調査し、当事者間の調整を行い、双方、不利益のないように手続を進行する大事な役割が不動産仲介業者にはあるのです。
結構、重要な役割だとは思いませんか?
また、ざっくり言うと、これらを書面にしたものが『重要事項証明書』となります。
そして、これは宅地建物取引士(宅建士)にしか作成が許されておりません。
仮に宅建士以外の者が作成した重要事項説明書には法的な効力がなく、正確な内容であったしても法的には買主に重要事項説明をしたことにはならないのだそうです。
尚、個人間売買の場合は、どうしてもこの点が欠けてしまいます。
結果、親族等、勝手知ったる仲ならまだしも、第三者間の売買には不向きと言われる所以なのです。
個人間売買を決断する前に確認しておきたいこと
既述のとおり、個人間売買はやればいいわけではありません。
むしろ不動産仲介業者を介入させた方がよいケースの方が圧倒的に多いです。
では、実際にどういうケースで個人間売買が行われているのか?
実際にあったケースを幾つかご紹介致します。
尚、これに類似するからと言って、安全・安心のお墨付きを得るわけではありませんよ。
あくまで、希望があれば個人間売買を検討してみてもいいのでは?というだけです。
その点、ご注意ください。
個人間売買を検討してみても良いケース例
- 私道等の持分売買
- 親族間での売買
- 法人と法人代表者間での売買
もちろんこれ以外のケースもありましたが、圧倒的に多いのはこの3つですね。
(あくまで僕が担当した個人間売買での話です。)
まず、私道等の持分売買から簡単に説明します。
ようするに売買代金が低いケースです。
500万円以下の売買、特に100万円を切る売買などは、不動産仲介業者も快く受けてくれませんからね(ビジネス的には仕方ないでしょうが…)…
尚、このケースは売買でなく、贈与になることも多いと言えます。
売買代金が発生するなら『売買』、無償であれば『贈与』と言った具合です。
次に親族間の売買です。
単に親族と言うだけではなく、関係性の近しい親族を指します。
将来、個人間売買によってトラブルが生じる相手か否かという点が重要です。
家族間の売買なのに仲介手数料を支払うのは勿体無い…そう思える案件ですね。いわゆる。
最後に法人と法人代表者間での売買です。
ある意味、主体が同じですので売買のリスク自体は少ないと言えます。
ただし、一般的な売買とは異なる部分で何かと注意すべき点が多い…
例えば、代表者と法人間での利益相反の問題です。
(必ずしも株主と法人代表者はイコールというわけではないでしょうから…)
株主総会を開催し(取締役会を置く会社の場合は、取締役会の決議が必要)、その承認を得る必要があるのです。
その他、売買代金が安価過ぎると税務上の問題が生じる恐れもあるので、合わせて注意するようにしましょう。
それでは次に個人間売買を行う際に要検討すべきケース例を簡単にご紹介致します。
個人間売買を行うにあたって要検討すべきケース
- 買主が親族以外の第三者
- 売買代金に不安がある
- 不動産購入にあたって住宅ローン等を組みたいと思っている
軽く補足しますね。
買主が親族以外の第三者の場合については、既述のとおりです。
不動産仲介業者が介入しない以上、対象物件の調査は十分ではないはずです。
そのため、当事者間の関係性は重要になります。
この点で不安が生じるようであれば、なるべく個人間売買は控えた方が良いかもしれませんね。
また、売買代金も捨て置けない問題です。
少しでも価格に不安があるのであれば、不動産仲介業者へ依頼を検討しましょう。
尚、事前に査定を取っておくのも手ではあります。
ただし、対象がマンションであればそれもいいかもしれませんが、戸建ての場合は机上査定だけでは不安な点が多いのも事実です。
購入資金を金融機関からの借入れに頼る場合、個人間売買では対応してくれないケースがほとんどです。
それもそのはずで、当事者間でのトラブルもそうでしょうが、何より物件調査が出来ていない点が大きいと思います。
対象不動産に担保価値があるかどうかの判断には、重要事項説明書は大きな役割を担っているのです。
これらはあくまで代表的な事例です。
他にも注意すべき点は色々あると思われます。
そのため、少しでも不安がある場合は、そのまま個人間売買を進めるのではなく、一度、立ち止まって不動産仲介会社の介入も検討してみましょう。
司法書士が行う個人間売買とは?
さて、助走が思いの外、長くなってしまいましたが、ここでようやっと本題です。
(ある意味、助走部分の方が大事なので、その点、ご理解いただければ…)
不動産仲介業者を介さずに個人間売買を行うというのは、具体的にどういうものなのか?
気になる点かと思います。
せっかく依頼したはいいが、思い描いていたイメージと違うというのはあれなので、僕が個人間売買の業務を受任した場合の手続の中身をご紹介させていただきます。
- ①売買契約書の作成
- ②登記申請
この2つの作業はマストです。
まず、諸条件をお伺いして①を作成致します。
尚、売買当事者の関係性からして、『現状有姿売買』(不動産を現況のまま引き渡し、何ら売主が責任を負わない形態)になるケースが大半です。
また、当然、①の後、法務局への登記申請も行います。
売買契約書と登記委任状への押印を合わせて行うようなイメージです。
その他、ご要望に合わせて色々やります。
売買代金の領収書を作成したり、固定資産税や管理費・修繕積立金の精算を行う場合には、その清算書を作成することもあります。
マンションの場合は、管理組合に区分所有者変更届出等の提出が必要になるため、その辺のご説明ももちろん致します。
その他、状況に応じて税理士や土地家屋調査士のご紹介なんかも…
まあ、要するに物件調査や客付け以外はだいたいなんでもというイメージです。
(もちろん、僕ができる範囲内ではありますが…)
だいたいどれぐらいの費用がかかるのか?
ここも気になるところでしょう―
もちろん、案件によって異なる部分は多少あります。
尚、多くの場合は、司法書士報酬が『8万円~10万円』に収まります。
これは売買契約書等の作成と法務局への登記申請をすべて合わせたお値段です。
これを安いとみるか高いとみるかは人それぞれでしょうが、少なくとも売買代金の何%といった報酬形態ではありません。
あくまで、僕が行うのは書類作成と登記申請だけなので…
ただし、ご注意いただきたいのは、かかる費用はこれだけではありません。
上記報酬に加え、実費が発生するからです(あくまで実費です。ご自身で行う場合も同様に発生します。)。
具体的には―
・登録免許税
※土地の場合は不動産評価額の1.5%、建物の場合は不動産価格の2%(ただし、住宅用家屋証明書の適用がある場合は0.4%)
・売買契約書貼用の就任印紙
※売買代金に応じた金額
・その他、実費
※送料や登記簿等の取得実費等々…
その他、売主側に住所変更登記を行わなければならないケースや、消し忘れていた担保(抵当権等)を抹消するケースもございます。
それらにつきましては、その分の報酬と実費が別に発生しますので、その点、ご了承ください。
尚、ご相談の後、事前にお見積書を作成し、内容をご説明した上で登記申請等を行わさせていただきますので、あまり不安になる必要はないかとー
まとめ
さて、今回は不動産仲介会社を介さない個人間売買のお話しでした。
確かに安価に済むケースは多いですが、個人的に推奨しているわけではありません。
不動産は財産の中でも特に高価なものですからね…
よくよく、ご検討の上、個人間売買を選択ください。
尚、僕から不動産仲介会社をご紹介させていただくことも十分可能です。
仲介会社を介すか、もしくは個人間売買を行うかお悩みの方は、とりあえずご相談いただく形でも結構です。
状況をお伺いしてベストな選択肢を模索しましょう。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一