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遺言

相続と遺贈の違いについて~登録免許税や登記申請人等が異なることがあります~


いつもお読みいただきありがとうございます。


さて、今回は「相続」と「遺贈」についてのお話しです。
まあ、ある意味、迷宮のような分かりにくい部分なのですが、ここ数年の間に色々テコ入れがされてきた部分でもあります。
僕自身の備忘録も兼ねていますので、いつもより分かり難いかもしれません…

ただ、遺言書を作成する際に使用するケースが多い文言なので、概要だけでも触れておいていただけると幸いです。

なるべく分かり易く整理しながらご紹介させていただければと思っていますが果たして―


1.相続と遺贈は何が違うのか?

正直、似ていると思います。
少なくとも、一読した感じではよく分からないぐらいに似ているのではないでしょうか―


そのため、双方に共通する部分と異なる部分をそれぞれご説明しますね。
その対比である程度はイメージし易いかと。


まずは共通する部分についてですが、どちらも、遺言者が死亡した場合に、特定の者が遺産を取得する点です。
遺産を貰うという観点では差異はないと。
例えば遺産の種類なんかも何ら影響しません。


では、その差異は何か??
もちろん、明確に違う点があるのです。


端的に言えば、上記の「特定の者」が誰になるのかによって差異が生じます。
もっと言えば、その者が相続人なのか否かがポイントなのです。


『相続』という文言は、相続人にしか使えません。
相続できるのは、法定相続人としての権利がある者のみなのです。


対して、『遺贈』は、特に制限はありません。
法定相続人に対しても使えますし、それ以外の第三者や、法人、団体であっても使用可能なのです。


まとめますと、遺言書を作成する際、法定相続人以外の者に対しては「遺贈する」としか書けませんが、法定相続人に対しては、「相続」、「遺贈」のどちらでも書けるということになります。

尚、既述のとおり法定相続人に対してはどちらも使用可能ですが、あえて「遺贈する」と書くことに大きなメリットはないように思えます。
その理由は次項にてご案内しますが、よっぽどのことがない限り相続人に対しては、「遺贈する」ではなく、「相続する」と記載するようにしましょう。



2.登記手続等での違いについて


「相続」と「遺贈」ですが、実は登記手続等、幾つかのケースで相応の違いが生じます。
詳細は後述しますが、遺贈の方が色々面倒な点が多かったり、かかる費用が高かった、結構な差が出る部分も―

項目ごとに分けてご説明しますので、それを参考にしていただき、せっかく書いた遺言書が想定外の事態を引き起こさないよう注意しましょう。




2-1.登記の申請人が異なる

本来、登記は共同申請が原則です。

簡単な例としては、売買などが分かり易いでしょうね。
売主と買主が共同して登記申請を行う形になります。
ちなみにこの場合は、売主が登記義務者、買主が登記権利者です。
加えて、登記申請時に登記義務者の権利証(登記識別情報通知)の添付も必要となってきます。



では、相続の場合はどうでしょう?



相続は相続人が単独で申請することが可能です。
いわゆる、登記申請の例外ですね。
売買等の法律行為とは異なり、「死亡」という原因をもって当然に生じ得る行為だからです。
また、それに伴い権利証(登記識別情報通知)の添付も不要です。



では、遺贈は?



遺贈は売買同様、共同申請が原則となります。
尚、その際の登記義務者は例外を除いて相続人全員になります(登記権利者はもちろん受遺者です。)。
また、共同申請である以上、権利証(登記識別情報通知)の添付も必要です。


相続人全員は面倒ですよね…
相続トラブルでも起こりようものなら…


ただし、例外もあります。
対象となる遺言書で遺言執行者を定めていた場合です。
このケースでは、登記義務者は相続人全員に代わり、遺言執行者と受遺者での共同申請が可能となります。
(ほんと、便利です遺言執行者は。うまく活用しましょう。)



と、ここまでがこれまでの決まりでした。
相続は単独申請、遺贈は共同申請、ただし遺言執行者がいる場合は、多少、遺贈時の負担が少なくなると…



それが不動産登記法の改正により少しだけ変わっていますのでご注意を。
具体的には、以下のような感じになりました。



従来は遺言執行者と受遺者との共同申請する必要のあった遺贈の登記が、受遺者が相続人である場合に限り、単独で申請できるようになったのです―



ようするに、相続人が受遺者だった場合に限り、遺贈であっても相続と変わらない形で登記申請を行うことが可能になったわけです。
(※あくまで対象は相続人のみであり、それ以外の受遺者の場合は通常どおり共同申請する必要がある点は要注意です。)
手続を簡略化し、相続登記手続への着手を促す動きなのでしょう―
ちなみに、対応する条文は以下のとおりです。


不動産登記法第63条3項
 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第60条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。


尚、遺贈を原因として相続人からの単独申請を行う場合の添付書類(登記必要書類)は、対象となる遺言書を登記原因証明情報として提出する他、被相続人の死亡の事実の記載ある戸籍謄本等に加え、被相続人と相続人の関係が分かる戸籍謄本等で足り、必ずしも出生時から死亡時迄の連続した戸籍謄本等を揃える必要はないようです。

もちろん、単独申請なのですから、権利証(登記識別情報通知)や印鑑証明書なども原則必要ありません。
相続の場合と同様に考えるといいでしょう。




2-2.登録免許時が異なる

基本的に不動産登記を行う際、法務局に対し登録免許税というものを納付することになります。
ちなみに、相続の場合は次のような算出方法になります。


固定資産税評価額×0.4%=登録免許税



では、遺贈の場合はどうでしょう?

結論からすると、結構な差が出ちゃいます。
以下、その計算式です。

固定資産税評価額×2%=登録免許税



その差、実に5倍です。

尚、遺贈であっても、受遺者が相続人であった場合は、それを証する戸籍謄本等を添付することで相続と同様の登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)にすることができます。
実はこれも変更点であり、以前は相続人への遺贈であっても2%でした…
対象となる不動産の価値にもよりますが、だいぶ差がでるところなので良い変更点だとは思いますね。




2-3.対象不動産が農地の場合も違いがある

意外と見逃されがちなのがこの点です。

対象不動産が「農地」であった場合、その取得原因によっては農業委員会の許可等を要することがあります。
売買や贈与する時なんかは、当該手続が必要となるわけです。

対して、相続の場合は、農業委員会等の許可等は不要です。
相続によって当然にその地位を承継することになるため、別に許可等はいらないという趣旨かと思われます。



ただし、遺贈の場合は注意が必要です。
農業委員会の許可等を要す場合と、要さない場合が存在するからです。


その判断基準としては、まず『受贈者が誰なのか?』という点です。
仮に相続人が受贈者であった場合、農業委員会の許可等は常に不要です。

次に遺贈が【特定遺贈】なのか、【包括遺贈】なのかによっても結論が異なります。


  • 相続人以外の者に対する特定遺贈 ⇒ 農業委員会の許可等が必要
  • 相続人以外の者に対する包括遺贈 ⇒ 農業委員会の許可等が不要



ちなみに、何度が当ブログでご紹介したような気もしますが、特定遺贈とは、財産を指定して行う遺贈です(Ex.○○に、~銀行の預貯金を遺贈する等
)。
対して、包括遺贈とは、財産内容を指定せずに行う遺贈です(Ex.全財産を○○に遺贈する、遺産の内、2分の1の割合で遺贈する等々)。

尚、包括遺贈は遺言者の債務も引き継ぐ等のデメリットもありますが、その効果としては相続人と同様の権利義務を有することになるため、農地法の許可等にもそれが影響するわけです。


ともあれ、相続人以外の者に対する特定遺贈は、受遺者が非農業従事者の場合には、農地法の許可が下りずに登記ができない可能性も…
ご注意を。


ちなみに、かつては相続人に対する特定遺贈についても、農地法の許可等を要するという取扱いがされていましたが、特定遺贈を巡る判例や登記先例の変更により現在は不要になっております。




2-4.権利主張問題の違い

「対抗要件」という言葉があります。
その権利を第三者に対して権利主張できるか否かの問題ですね。


尚、不動産の場合、通常、その旨の登記を受けることによって対抗要件を備えることになります。
ちなみに、相続の場合は、仮に所有権移転登記をしていなくても第三者に対して権利主張が可能です。
(※ただし、法定相続分についてのみの話しであり、それを超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができません。)


対して、遺贈の場合は原則どおり、その旨の
登記をしていなければ、第三者に対して権利を主張することができません
売買等による権利取得と同様の考え方であり、ある意味、早い者勝ちの理論ですね。


そのため、遺贈を受けた場合は速やかに登記を行うことを推奨致します(相続もさっさと行うに越したことはありません。)。



2-5.借地権や借家権での違い

賃借人の承諾の有無の違いです。


端的に言えば、対象となる遺産が借地権、もしくは借家権であった場合、遺贈の場合は賃貸人の承諾が必要になってきます。

相続の場合は、賃貸人の承諾は不要です。
そのため、賃料等を適切に支払っている限り、賃借人の死亡によってその家族が追い出されてしまうような事態は避けられるわけです。


遺贈は、第三者が賃貸契約に絡んでくることになりますからね。
賃貸人側にも受遺者と契約を継続するか否かの選択権を与える趣旨なのでしょう―

ともあれ、これもケースによっては大きな違いになってくると思われます。



3.まとめ

今回は相続と遺贈の違いについてのお話しでした。
しかも、ほんの触り部分です。

にもかかわらず、我ながら分かり難い内容になってしまったような気がしています…
ほんと、この辺は難しいんですよね…

そのうち、もっと分かり易い内容にリニューアルし、内容も充実させていきたいと思ってはいます。


それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一