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遺言

死後、理想どおりの寄付行為を実現するには~遺贈寄付~


いつもお読みいただきありがとうございます。


さて、今回は"寄付"についてのお話しです。
なんだかんだで10年以上司法書士をやっていますが、生前や死後等これまで様々なケースで寄付のお話しに関わらせていただきました。
また、実際に寄付行為を行ったことがなくとも、それに対して強い関心を持たれている方が多くいる印象です。


何とも素晴らしい話しですよね。


尚、僕自身の話しで言えば、ほぼほぼ寄付を行ったことはないです。
それこそ、コンビニでの小銭寄付(最近では電子マネーの利便性に負け、ほぼできてませんが・・・)や、チャリティーイベントの物品購入ぐらいでしょうか...
あと、ふるさと納税か...
まあ、そんな残念な感じです。

いつか、僕もそういった境地に至れるよう精進していきたいものです。

では、そろそろ本題に入らせていただきますね。
少しでも寄付に興味を持っていただけると幸いです。

<目 次>




1.そもそも寄付とは

せっかくですので、この辺りから説明していきます。
(ある意味、雑学に近い内容なので、遺贈寄付のみ興味のある方は読み飛ばしていただいて結構です。)



"寄付"
"寄附"
"募金"
"義援金"
"贈与"



一見してどれも似たような感じがしますが、それぞれの違いって知っていますか??
ちなみに、"寄付"は一般的に以下のように説明されることが多いです。

寄付:金銭やその他の財産などを公共事業、公益・福祉・宗教施設などへ無償で提供すること


おそらくは、皆さんが思い浮かべる一般的な寄付のイメージと大きな乖離はないと思われます。
あえてもう少しだけ法律っぽい言い方をするならば、「寄付を行いたい者が、善意や好感、もしくは共感をもって金銭や不動産等を無償で相手方に提供する行為」とでもなるのでしょうかー


では、募金は?
意味合い的にはほぼ同じような気もします。
義援金はどうでしょう?
もっと言えば、贈与とは何が違うのか?


色々な疑問が浮かびますよね(少なくとも僕はそうでした。)。

ともあれ、遺言で行う寄付手続(遺贈寄付)のご説明の前に、まずはこの辺りから整理していきましょう。
知識が増えて無駄ってことはないでしょうから。



1-1.寄付と寄附

結論からすると、これらの意味は同じです。
ややこしいのですが、漢字が違うだけです。


厳密に言うと、利用される場所の違いとでもいいましょうか・・・


例えば国税庁なんかが使うのは、寄付ではなく"寄附"です。
実際にホームページ等でも使われています。


まあ、単に公の場で使われるのが"寄附"一般的に使われるのが"寄付"という認識で問題ないかと。
その昔、"附"という文字が常用漢字が外されたことがあるので(今は復活してます)、その関係もあるのかな(?)と思っています。

とは言え、既述のとおり意味は全く同じものですので、別にどちらでもいいかと。
ちょっと固めに"寄付"表現してみたい時に"寄附"使ってみてはいかがでしょう?



1-2.寄付と募金

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似ているようで、これは全く違います。
意外かもしれませんが、それこそ寄付と募金は別物なのです。


そもそも募金とは、
金銭を募って集めること」自体を指す言葉です。


ようするに、街頭で箱を持って声をかけている方が募金。
そこに、金銭を投じている方が寄附。


立場の違いですね(募る方と寄附する方)。
そうなると、金銭を投じている方が「募金した」と言うのは日本語的におかしいような気もしますね・・・
正しくは、「寄付した」と言うべきなのでしょう(細かい話ですが)。



1-3.寄付と義援金

義援金は寄付の一種です。
震災の時とかにニュースなどで使われているのを耳にした覚えはありませんか?


支援団体そのものに寄付するのか、そうではなく、国や自治体、支援団体を介して直接被災者に寄付するかの違いで使い分けられているようです。


前者が単に寄付(もしくは支援金)。
後者が義援金というわけです。

ちなみに、被災地で活動する支援団体そのものに寄付する行為を"支援金"と言ったりもするようです。
まあ、この辺りは寄付にも種類がある程度の理解で大丈夫かと思います。



1-4.寄付と贈与

いずれの手続も自身の財産を第三者に対し無償で提供する点は同じです。
とは言え、当然ながら同じものではありません。


大きく異なるのは、"目的""その対象"でしょうか―


既述のとおり、寄付とは、公共的な慈善目的のための財産の無償譲渡行為です。
公共的な目的か否か、ここが贈与との大きな違いですね。

尚、原則、寄付先となる対象も贈与とは異なってきます。
具体的には、公共の目的のために活動している国や地方公共団体、公益法人、NPO法人などが寄付先になるケースが多いわけです。


ちなみに、贈与の場合は無償であればよく、贈与先の制限等はありません。
ただし、受贈者側(贈与を受ける側)からの贈与を受けることに対する承諾は必須です。

また、寄付は贈与とは異なり、
寄付をおこなった側に税制上の優遇措置が設けられていたりもします。




2.遺贈寄付(遺言で寄付)とは

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ここからが今回のブログの本題となります。


昨今、僕自身の体感でも、世間の寄付に対する関心が高まっているのを感じます。
また、実際に相談を受ける機会もそれに比例し多くなってきました。


とは言え、それでも欧米に比べれば、日本はまだまだ寄付文化が根付いていない国に分類されてしまうそうです。
意識の問題だけではなく、おそらくは慣れや手続上、税務上の問題もあるのでしょうが...

確かに募金箱への寄付はできても、寄付団体に直接自身で寄付するとなると、いまいち二の足を踏みそうなのも分からなくはないです。
実際は少額の寄付金額から受けつけてくれる所も多くあるので、そんなにハードルが高いわけではないんですけどね。
興味のある方は、まずは生前の少額寄付から始めてみるといいと思います。


まずは寄付に慣れること。
加えて、寄付先の団体を自身でよく知ることも大事かと。


大切な財産を寄付するわけですから、寄付先は厳選すべきです。
選択肢は相応に多いので迷ってしまいそうですが、例えば、思入れのある自治体に寄付を行い、自身の財産を有効活用してもらう方もいれば、貧困学生の支援をしているような団体への寄付される方もいらっしゃいます。

僕自身が携わった経験はないですが、地球温暖化防止や野生動物の保護活動に寄付される方も―


その他にも多くの寄付先があるので、色々探してみてはいかがでしょう?


尚、言うまでもないでしょうが、寄付金額は無理のないように。
このご時世、何歳まで生きるか分かりませんし、そうでなくとも病気や怪我を負ってしまう可能性もあるでしょうから。


そして、この部分(将来の不安)こそが、寄付をしたくとも、なかなか実際の行動に移せない要因になってしまっているのではないでしょうか?


よっぽどのことがない限り、最優先すべきは自身の生活でしょうから、それも致し方ないと思います。
僕だってそうです。
どこかのCMじゃないですが、お金は大事です。本当に。


ただ、実際に寄付をするのが、自分の死後であればどうでしょう?


付き合いが希薄な親族等に相続させるのではなく、社会貢献のために寄付を行いたいという方は多いと思います。
生前の寄付については、慣れと寄付先を探す意味合いで、そして、死後の寄付で本懐を遂げる方法もあるのです。


ここでは、遺言書で行う寄付手続(遺贈寄付)や、それに伴う諸々の注意点等をご紹介させていただきます。



2-1.遺言書で寄付手続(遺贈寄付)を行うには?

シンプルにその旨の遺言書を作成することから始まります。


ただし、遺言の種類としては、公正証書遺言での作成を強く推奨します。
尚、自筆証書遺言が駄目というわけではありません。
ただし、寄付先や寄付内容によっては財産の換価業務(預金の解凍手続や不動産の売却等々)が必要になってくることがあり、最悪の場合、自筆証書遺言では想定していた結果にならないことも―

その点、公正証書遺言は、しっかりとした遺言内容であれば、あらゆる場面に対応可能ですので、通常時でもそうですが、遺贈寄付時にその進化を十二分に発揮するわけです。


また、遺言書の記載内容についてですが、寄付先の特定をしっかりと行うようにしましょう。
例えば、寄付先がNPO法人であれば―

  • 商号名:特定非営利活動法人〇〇~
  • 主たる事務所:埼玉県川口市~
  • 会社法人等番号:○○〇〇‐〇〇‐○○〇〇〇〇


最低限、この辺は外さずにおきたいです。
尚、自治体の場合は住所等はないので、単にどの自治体か特定できていれば問題ないです(「埼玉県川口市」等々)。

その他については、一般的な遺言書と大きく異なる点はありません。
イメージとしては、対象となる相手が「相続人又は受遺者」から「寄付先」に変わるだけです。


そうです。
単に作成するだけなら、それほど難しいものではないのです。


ただしー
注意点はもちろんあります。


尚、それは遺言による寄付手続(遺贈寄付)特有の注意点というわけでもないのですが、通常よりも慎重に検討すべきとでも言いましょうかー
以下、ご説明致します。



2-2.遺言執行者を定めておきましょう

当ブログではすっかりお馴染み(?)の遺言執行者ですが、遺言による寄付手続(遺贈寄付)では、その存在価値がこれまで以上に高まることになります。
(むしろ必須と言っていいぐらいです。)


遺言執行者とは、"遺言書の内容を実現する者"です。
遺言内容が寄付手続(遺贈寄付)であれば、もちろんその役割を担うのは遺言執行者となります。


大事さが伝わりますか?


仮に遺言執行者が遺言者の期待する動きをしなかったすればどうでしょう?
どれだけしっかりした遺言内容であっても、最悪、寄付行為が頓挫してしまうかもしれません。
特に事後確認ができない自身の死後のことですから、ここはより慎重になりたいところです。

尚、民法上、未成年者と破産者以外は誰でも遺言執行者になれます。
ただし、求められる業務内容は、誰しもが対応可能かと言うとー


特に寄付行為が絡むと遺言執行者の業務は複雑になりがちです。
例えば、寄付先にもよりますが、現金の寄付は受け付けてくれるけれど、不動産などは受付けてくれなかったりするところも多いです。
また、不動産の寄付を受付けてくれるところであっても、前提として個別の調査を要するケースがほとんどでしょう。

預金にしたってそうです。
単に通帳を渡せばいいわけではありません。
その前提として、対象となる金融機関での相続手続が必須となってくるのです。


結果、遺言執行者が各相続手続を行った上で、預金であれば解凍手続を、不動産であれば売却し、現金化することを求められることもあると。


そうです。
結構な負担と責任が遺言執行者にかかってしまうわけなのです。


以上なようなことから、遺言による寄付手続(遺贈寄付)に関しては、なるべくその分野に強い専門家に依頼することをお勧めします。
(もちろん、当事務所でも対応可能ですので、興味のある方はご相談ください。)

寄付先と並行して、早めに決めておきたい部分ですね。



2-3.遺留分に十分留意しましょう

特定の団体に寄付すること。
相続人以外の者に遺産を残すこと。
相続の内、一部の者だけに遺産を残すこと。


当然ながら、いずれも遺言者の自由です。
何ら制限されるものではありません。
自分の財産なわけですから、それをどうしようがその方の勝手です。


その点に問題はありません。


しかしながら、その内容によっては、遺言をあげる側ではなく、むしろ受ける側がトラブルに巻き込まれてしまうことも...
その原因となるのが、"遺留分"という権利なのです。


遺留分とは、相続できる権利を侵害された相続人(兄弟姉妹を除く)が、法律上、最低限保証される遺産の取得分のことを言います。
本来、相続できる権利を期待していた相続人に対する法律の救済措置のようなものですね。

極端な例を挙げるとすれば、愛人に熱を入れ過ぎた夫が全財産を愛人に遺贈する遺言書を残し、かつ、死亡してしまったとしましょう。
確かに誰に財産を遺すかどうかは遺言書の自由です。
ただし、すべての遺産を持っていかれたのであれば、生計を共にしていた妻や子供等はたまったものではありません。

尚、この際、救済措置として妻と子は遺留分を夫の愛人に対し主張することが可能です。
結果、遺贈された遺産の一部(法定相続分の半分)を返してもらえる権利を得るとー


と、まあ、遺留分は家族のためには必要な権利なのでしょう。
ただし、この遺留分は関係性や状況に関わらず、兄弟姉妹以外の相続人が皆平等に持ち得る権利でもあります。

仲が良かろうが悪かろうが、親の世話をしていようがそうでなかろうがお構いなしです。
日々、親の介護に明け暮れていた娘が、一切、何の手伝いもしていなかった息子から遺留分侵害請求を受けるようなことも...


そして、これは遺言による寄付手続(遺贈寄付)にも言えることなのです。
たとえ寄付という本来称賛されるべき行為であったとしても、それだけで遺留分から逃れられるわけではありません。


そのため、遺留分に配慮した遺言書にすることも大事なのです。


尚、遺留分はその権利を侵害されたものから請求できるというものであって、必ずされるわけではありません(知らない人も多いですから。)。
ある意味、ケースによっては事前の話し合い等で解決できることもあるでしょう。

「遺留分なんて知らない!」と目を背けるのではなく、それを意識し、より良い遺言書を作成することもまた大事になってくるのです。



3.まとめ

今回は寄付にまつわるお話しでした。
ちょっと長くなり過ぎるので割愛した部分もありますが、大まかな流れを感じることができたでしょうか?

そもそも、遺言内容も寄付内容も人それぞれです。
相続関係等も少なからず関係してくる部分がありますので、一律にどうこう言うのは難しいというのが実際のところです。

ですので、細かい点はさておき、まず興味を持っていただければ。
その先は専門家と個別によく相談すべきです。
当事務所での相談も可能です。
ご興味のあるられる方はご連絡いただければ。

それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一