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不動産登記

離婚時の財産分与に基づく登記手続のあれこれ



いつもお読みいただきありがとうございます。



今年に入ってから有名人のビックカップルが多く誕生していますね。
結婚の記者会見なんて久々なのではないでしょうか?
それが短期間の内に数件も...
元号が変わった影響もあるのでしょうか?
一般人の婚姻届出数も増えているような話も聞きますし―



そんな幸せムードを壊す気なんてさらさらないのですが、今回は離婚に伴う財産分与についてのお話しを少し。


結婚と離婚は表裏一体です。
結婚しない限り離婚はできません。


そして、決して離婚自体は珍しいものではありません。
統計では、日本の離婚率は約35%、年間で20万件を超えているわけですから...


ちなみに今回は、離婚に伴う財産分与の内、不動産の名義変更を軸にお送りさせていただきます。





<目 次>






1.そもそも財産分与とは何か?

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まずはここからでしょう。



財産分与を簡単に説明すると―

夫婦が婚姻中に築いた財産を、離婚する際に分配する制度です。
皆さんのイメージそのままなのではないでしょうか?


ちなみにもっと詳しく言うと、財産分与は、『清算的財産分与』『扶養的財産分与』『慰謝料的財産分与』の3つに分類することができます。


なんとも難解そうな表現ですよね...


これ以上、突き詰めていくと実際にそうなってしまいますので、この辺はごくごく簡単な説明にとどめさせていただきます(なにぶん本題は不動産ですので)。


  • 清算的財産分与
    離婚時に不動産、動産、現金、預金、有価証券等を清算する財産分与です。
    夫婦が婚姻中に形成した財産は、実質的には夫婦の共有財産とされます。それを離婚時にしっかり清算しようというものなのです。
    そのため、婚姻前から有していた財産や、婚姻後に相続等により取得した財産などはこれには該当しません。それらは夫婦が協力して形成した財産とは言えないからです。



  • 扶養的財産分与
    専業主婦等、離婚によって生活が苦しくなってしまう配偶者に対してなされる財産分与です。
    生計を補助するという扶養的な意味での財産分与ですね。



  • 慰謝料的財産分与
    慰謝料と財産分与は本来別物です。
    ただし、いずれも金銭請求という点では変わりないため、慰謝料と財産分与を明確に区別することなく、それらをまとめて"財産分与"として請求をしたり、支払をしたりすることがあります。
    そのような場合に、慰謝料を含んだ財産分与として、こう表現されることがあるわけです。





尚、当ブログでは、上記清算的財産分与のうち、その対象が不動産であった場合の手続について諸々検証していきます。


いかなる手続が必要で、いかなる注意点があるのでしょうか―




2.不動産の財産分与にはその旨の登記が必要になる

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確かに最も重要なのは財産分与の協議そのものでしょう。
それに異論はありません。


話が付かなければ何もできませんから。


ただし、財産分与の対象に不動産が存在する場合は、協議だけで済むわけではありません。
それとは別に他の手続が必要になってくるのです。


端的に言えば、その旨の登記です。
具体的には、"財産分与"を登記原因とする所有権移転登記(共有であった場合は持分全部移転登記)が必要になります。


協議による財産分与であれ、裁判による財産分与であれ、この辺に変わりはありません。
少なくとも、協議終了後に勝手に不動産の名義が変更したりはしないのです。


ちなみに、『いつまでに~』と、いったような期間の定めはありません。
極端な話、数年後でも、数十年後でもいいのですが、私的には長期間の放置はリスクしかないので絶対にお勧めしません。

離婚協議中に準備を進め、離婚後直ちにその旨の登記手続を行うのがベストと言えるでしょう。




2-1.登記が第三者対抗要件になる

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これは財産分与に限った話ではありません。
相続であっても、売買であっても同様です。


不動産を購入した際、売主の名義から買主の名義に変更しますよね?
財産分与に基づく登記を勧めるのもあれと同じ理由なのです。


では、そもそもなぜ名義変更の登記が必要なのか?


答えは非常にシンプルです。
誰がその不動産を所有しているかを対外的に明らかにするー
これに尽きます。


仮に登記をしていないとすればどうでしょう?
対外的な不動産の所有者は前所有者のままですので、やろうと思えば別の第三者に売却したり、不動産担保ローンを設定したりすることも現実的には可能なのです。

また、悪意はなくとも、税金の滞納や借金等に基づく差押えの登記が入れられてしまうことも考えられます・・・


基本的に登記は早い者勝ちです。
しかも、原因日(例えば売買日や財産分与成立日)ではなく、登記された日付でその優劣が決してしまいます。


いわゆる上記のようなケースでは、自身の権利を第三者に対抗できなくなってしまうわけです。



なんとなくイメージできましたでしょうか??



売買同様、財産分与の協議は当事者間では有効ですが、その効果を第三者に対抗するにはその旨の登記が必要となる―

で、あれば、財産分与に基づく登記を放置しておくリスクの高さも理解できるのではないでしょうか。




3.財産分与に基づく登記を行う上での注意点

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財産分与に基づく登記自体はそれ程難しいものではありません。
ただし、それに至るまでの注意点は幾分多めなので、事前にしっかり確認しておきたいものです。


3-1.財産分与の登記原因日付は?

基本的に登記にはその原因となる日付が必要となります。
相続の場合は死亡日、売買の場合はお金を支払った日等々、それらは行う登記によって異なってきます。


では、財産分与の場合はどうでしょう―


結論からすると、財産分与の協議が成立した日です。
ただし、協議離婚の場合で、離婚届提出前に財産分与の協議が成立していたときには、離婚届を提出した日が財産分与の日付となります。

つまり、財産分与の登記原因日付は離婚日より前になることはあり得ないのです。
離婚によって財産分与が生じるわけですからそれもそのはずでしょう。


実務上では離婚日にするケースが多いですが、離婚後の協議成立日が基本なんです。


ちなみに、離婚する前に財産分与をしてしまうと、税務上贈与とみなされる恐れがありますのでご注意を。



3-2.裁判上での財産分与(調停・審判・訴訟)の場合

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裁判をしたからと言って、財産分与に基づく登記をしなくていいわけではありません(もちろん、裁判所がかわりにやってくれるわけはありません。)。

協議の場合とそこまで大きな違いはありませんが、幾つか異なる点があるのでご紹介致します。


<登記原因日付>
・裁判や審判が確定した日
※調停調書等の最終頁に記載ある日付となります。

<登記形態>
・財産分与を受ける側の単独申請
※登記は共同申請が原則ですが、裁判よる場合は例外として単独申請が可能となります。



異なる点はこれぐらいです。
他は協議の場合と同様です。


単独申請は便利ですよね。
離婚の裁判まで発展してしまっているわけですから、そんな状態で互いに協力して登記を行うのはそもそも無理があるでしょう―


ただし、裁判だからと言って常に登記の単独申請ができるわけではないので、その点は要注意です。
なんと調停調書や和解調書、審判書等の書き方によって、その結論が異なってくるのです。



例えば、よくある次のような記載方法では―

『~申立人は、相手方に対し、離婚に伴う財産分与として、別紙物件目録記載の不動産につき財産分与を原因とする所有権移転登記手続を行うものとする。』



これに基づく単独申請が可能です。
書面上でちゃんと登記手続をしろと言ってますから。

ただし、次のような記載方法では―


「~申立人と相手方は協力して財産分与に基づく所有権移転登記をする。」



なんと単独申請ができず、登記の原則どおり共同申請によらなければなりません。
協力して~と、言い切ってしまっていますからね...


しかも、これ、たまにですが実際に目にすることがあります。


弁護士さんが好きな表現なんですよ実は(努力義務ですねいわゆる。)。
登記実務に精通している人ならまずこうは書きませんが、専門外でしょうから仕方ない部分もあります。

最初から弁護士と司法書士が連携して動けていればそんな心配もないでしょうが、そうでない場合は面倒なことにも...


とにかくご注意ください。




3-3.財産分与によって税金はかかるのか?

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まず、これについて特に気になる方は、税理士等の専門家に直接ご相談することをお勧めします。
あくまでここに表記しますのは一般論でしかないからです。
また、僕自身が税務相談にのれるわけではないので、その点、ご了承ください。


それを前提としまして―


基本的に財産分与によって贈与税等の税金はかかりません。
する方も、受ける方も同じです。



ただし―


  • 社会通念に照らして著しく過大な財産分与の場合は、多過ぎる部分につき贈与税が課税されることがある
  • 贈与税や相続税逃れのために行われたと認められる場合には、その全額について贈与税が課税される
  • 不動産取得税も課税されないことが原則だが、慰謝料や離婚後の扶養として財産分与がされたような場合(慰謝料的財産分与に該当する場合)には、不動産取得税が課税されることがある
  • 不動産を購入した時の価格より財産分与時の不動産時価が高い場合は、譲渡所得税が課税されることがある



この辺はほんとはっきりしないんですよね。
まあ、一概に言えるものではないでしょうから、それも仕方ないのでしょう。

ともあれ、財産分与の内容や対象となる不動産によっては税金についての注意も必要になってくるわけです。



4.その他、手続上必要になる登記手続等について

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実のところ財産分与に基づく登記を行う場合、名義変更(所有権移転登記等)だけで済むケースは極めて稀です。
ほとんどすべての場合において、その他の登記も必要になってきます。



まず最も多いのが財産分与をする側の"住所変更登記"です。
離婚後も住所を同じくするケースはそうないため、ほとんどセットと言っていいでしょう。

また、これと同時に"氏名変更登記"が絡むケースも多いです。
離婚によって以前の苗字に戻るためです。
そのため、"離婚の際に称していた氏を称する届出"を行い、婚姻中の氏を引き続き使用する場合はこれには該当しません。



その他、忘れてはいけないのが住宅ローンの存在です。

ペアローンや連帯債務である場合はもちろんのこと、登記手続自体は必要なくとも、金融機関に対し諸々の届出を行う必要が生じるのです(詳しくは後述します。)。




4-1.裁判上での離婚の際に必要となる住所変更手続について

先にご説明したとおり、調停調書等の記載内容に問題がなければ、その旨の登記は単独申請を行うことが可能です。

ただし、だからと言って住所変更登記が不要というわけではありません。
登記簿上の住所と調停調書等に記載ある住所に相違がある場合には、原則どおり住所変更登記が必要となります。



であれば、住所変更登記は裁判に基づく単独申請なのでしょうか?
それとも原則どおり共同申請なのでしょうか?



そもそもの話ですが、元より所有者(共有者)の住所変更登記は単独申請で行うものです(数少ない例外の一つなのです。)。

ですので、共同申請ではありません。



結論からすると、原則どおりの単独申請はもちろん可能ですが、その場合、登記を行うのは財産分与をする側になってしまいます。

裁判するまでもつれにもつれた案件で住所変更と言えど、うまく調整できるのか...


そう思われるかもしれません―


ただし、このような場合においても、調停調書等の記載内容に問題なければ、相手方(財産分与をする側)の関与なく、財産分与を受ける側が単独で住変更登記を行うことができるのです。


具体的には、確定した調停調書等を基に相手方に"代位"し、財産分与を受ける側が単独で住所変更登記を行うことになります。
尚、氏名変更が必要な場合も、同様に"代位"し、その変更を行うことが可能です。




4-2.住宅ローンには要注意

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財産分与の対象となっている不動産に住宅ローンが設定されていることが多々あります。
そのような場合、どうしても所有権だけを変更しておけばよいと思われがちですが、それは大きな間違いです。


むしろ、財産分与の協議が整ったのであれば、その旨の登記を行う前にまず住宅ローン先に連絡すべきです。
そして、再度、住宅ローンの中身を確認すべきなのです。



その理由のとしましては―



そもそも、住宅ローンの設定された不動産の所有者が変更する場合は、その旨を住宅ローン先である銀行等に伝え、その了承を得る必要があるからです。


最初の契約でそうなっているはずです。
むしろこれまでそうなっていない契約書を見た記憶がありません。

仮にこれを破ってしまうと、最悪の場合、住宅ローンの残額の一括請求を受けてしまうこともあります。
面倒に思われるかもしれませんが、必ず銀行等に報告するようにしましょう。



そして、もう一つの理由は、保証人の有無の確認です。
簡単な事例を基にご説明します。


離婚時に妻は財産分与によって夫名義のマンションを取得した。
当該マンションには夫を債務者とする住宅ローンが設定されている。
その住宅ローンについては、離婚後も夫がその支払いを継続することになっていた。
数年後、夫が再婚したことを境に、住宅ローンの滞納が始まってしまう。
マンションに競売が開始ししてしまい、やむなく転居するも問題はそれだけに留まらなかった。
どうやら妻が住宅ローンの保証人になっていたのである。
結果、妻は競売後の住宅ローンの残債務の支払義務を負うことに...


悲惨な話ですよね。
でも、これ、そんなに珍しい話でもありません。
僕自身、これに似通った債務整理の案件を数件こなしてきましたから。


この夫婦の失敗は銀行への届出を怠ったことに尽きます。
もっと言うと、それと合わせて住宅ローンの保証人の変更をすべきでした。


本来、そう簡単に保証人の変更はできないものですが、離婚が原因である場合は別です。
別の保証人を要求されることはあっても、離婚した配偶者を変更すること自体を拒否されることはまずないでしょう。


よく分からない方は、この段階からご相談いただいて結構です。
本当に大事な部分ですので...




5.登記に必要となる書類

財産分与に基づく所有権移転登記に必要な書類をご案内します。
※あくまで、基本的なケースを想定していますので、事例によっては別に追加書類が生じることがあります。



~協議による財産分与~


<財産分与を受ける側>

  • 住民票(本籍地が記載されており、マイナンバー表記がないもの)
  • 認印



<財産分与をする側>

  • 登記済権利証(登記識別情報)
  • 印鑑証明書(発行日から3ヶ月以内のもの)
  • ご実印



<その他必要になる書類>

  • 離婚日の記載ある戸籍謄本
  • 離婚に伴い氏名変更がある場合は、名字変更後の戸籍謄本
  • 離婚に伴い住所変更がある場合は、登記簿上の住所から現在の住所までを繋ぐ書類(住民票、戸籍の附票等)
  • 対象となる不動産の最新年度の固定資産評価証明書




~裁判上での財産分与~


<財産分与を受ける側のみ>

  • 調停調書、審判書、和解調書等
  • 住民票(本籍地が記載されており、マイナンバー表記がないもの)
  • 認印



<その他必要となる書類>

  • 離婚に伴い氏名変更がある場合は、名字変更後の戸籍謄本
  • 離婚に伴い住所変更がある場合は、登記簿上の住所から現在の住所までを繋ぐ書類(住民票、戸籍の附票等)
  • 対象となる不動産の最新年度の固定資産評価証明書




6.まとめ

さて、今回は財産分与に基づく登記手続のお話でした。


あまり縁起の良い話ではないのですが、離婚がごくごく身近にある以上、知っておいて損をするものでもありません。
また、そこまで大変な登記手続でもありませんが、初動を誤ってしまうと結構苦戦することもしばしば...

なるべく早めのご相談をお勧めしております。



尚、司法書士九九法務事務所では、係争中である離婚手続そのものについての業務は取り扱っておりません(裁判や調停業務等々)。
それらは、僕なんかよりも家庭裁判所で代理人となれる弁護士が行った方が良いと考えているからです。


ただし、離婚協議成立後の登記業務や公証役場での各種手続等につきましては、通常どおりの対応が可能ですので、お気軽にご相談ください。


それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一