ブログ
不動産登記子や孫名義に不動産を変更するには ~相続時精算課税制度~
いつもお読みいただきありがとうございます。
さて、今回は子や孫名義に不動産の名義を変更する方法や、その際の注意点等についてのお話しです。
年々、似たような相談が増えています。
一昔前に比べたら、遺言書を作られる方はもちろんのこと、生前に不動産の名義を子や孫に移しておきたいというご相談が格段に増加したように思います。
それもこれも"終活"が世間に浸透してきた結果なのでしょうー
流れ自体はとても良いものだと思います。
ただし、遺言書も単純に書けばいいだけではないのと同じで、不動産もただ単に名義を変えればいいわけではありません。
税金面やその他の事情をしっかり加味しておかなければ、後になって後悔することだってあり得るのです。
ただでさえ税金は分かりにくいですからね...
以下、諸々検討していきましょう。
※注
当ブログ記事内容は僕自身の勉強と備忘録的な側面が多くあります。
テーマ的にも税金面に触れざるを得なかっただけであり、税理士のようにその分野の知識に精通しているわけでは決してありません。そのため、相続時精算課税制度そのもののご相談に乗れるわけではなく、業務として取り扱えるのはあくまでそれに基づく不動産の名義変更手続のみとなります。その点、ご理解いただければと。
<目 次>
- 1.不動産の名義を変更する方法
- 2.不動産を贈与する際は特に贈与税に注意
- 3.贈与税を支払わずに不動産の名義変更するには
3-1.非課税になる贈与額は無制限ではない
3-2.限度額内であれば回数や財産の種類に制限はない
3-3.相続時精算課税の適用範囲について
3-4.法務局への贈与の登記手続は通常どおり
3-5.税務申告が必要 - 4.相続時精算課税制度は人によってはデメリットが生じることも
- 5.まとめ
1.不動産の名義を変更する方法
どうすれば不動産の名義を変更できるのか?
基本中の基本ですが、まずはここからはじめましょう。
もちろん、名義を変えたいと思ったからと言って、自然に変わるものではありません。
特にその対象が不動産ともなると、法務局でのその旨の名義変更手続が必要となってきます。
とは言え、具体的にどうすればいいかイメージしにくいかもしれませんねー
ちょっと難しい説明になってしまいますが、不動産を名義変更するには、"登記原因"なるものが必須となります。
有名なところで言うと、「売買」、「贈与」などでしょうか。
その他、この辺の詳しい説明は割愛しますが、「代物弁済」、「財産分与」、「交換」、「共有物分割」、「時効取得」等、登記原因と言うものは数多く存在します。
もちろん、対象者の死後に行う「相続」や「遺贈」なども同じく登記原因です。
いわゆる、希望する手続がどの登記原因に該当するのか、まずはそこを確認する必要があるわけです。
不動産の名義を子や孫に変更することによって、具体的に何かを得る形になるでしょうか?
例えば、名義変更の結果ー
金銭を授受することになるのであれば、それは"売買"です。
単に無償で子や孫名義にするのであれば、それは"贈与"です。
一般的に名義変更の対象が子や孫であるケースでは、趣旨的には圧倒的に後者の贈与が多いのではないかと思います。
面倒な話に思えるかもしれませんが、無償で子や孫名義に不動産の名義を変更するには、ちゃんとその旨の贈与契約書を作成し、法務局でそれに基づく登記申請を行う必要があるわけです。
と、言うことで、本ブログでは、孫や子に対する贈与に基づく不動産の名義変更のあれこれをご紹介させていただきます(その他の登記原因に基づく不動産の名義変更につきましてはまた別の機会で。お急ぎの方は個別にご相談ください。)。
2.不動産を贈与する際は特に贈与税に注意
贈与とは、対象となる者(今回で言うと、子や孫)に無償でその権利(所有権)を譲る行為です。
貰った方は、丸儲けです。
なにせ、タダですから。
とは言え、安易に行ってしまっては大きなしっぺ返しを食らう可能性があります。
もちろん、分かった上でなら問題ないのですが、仮にそれを知らないとすれば...
そうです。
"贈与税"の問題です。
ちなみに、贈与税の請求を受けるのは、財産を貰った方のみです。
あげた方に請求されるわけではありません(財産を無償で手放しておいて、かつ、税金を支払えとはなりませんさすがに。)。
ご存知の方も多いでしょうが、何よりこれが高い...
以下、贈与税の計算方法についてご紹介します。
「贈与税の計算と税率(暦年課税)/国税庁ホームページ」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
どうでしょう??
結構な税率だと思いませんか?
また、たまに勘違いされている方がいますが、贈与税の課税対象は何も第三者に限られるわけではありません。
子や孫への贈与についてもそうですし、配偶者に対する贈与についてもそうです。
家族であれ何であれ、差別なく課税の対象になってしまうわけです。
尚、夫婦間の贈与については、過去記事がありますので、興味のある方は次のリンクを参照してみてください。
「夫婦間であっても贈与税はかかる?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_46/
ともあれ、今の段階ではそのすべてを理解できなくても、「贈与税=かなり高い」と言う認識を持っていただければ十分です。
安易に贈与を行ってしまうと、問答無用に贈与税の対象になることがあると...、そして、その対象が不動産ともなると...
はたして幾ら課税されてしまうのでしょうね。
そして、これが安易に不動産を贈与すべきではない最大の理由なのです。
贈与すること自体は簡単かもしれませんが、それに伴う贈与税の支払いは非常に大変でしょうから。
ただし―
だからと言って不動産の贈与を諦めてしまうのは時期早々なのかもしれません。
夫婦間贈与同様、一定の要件に当てはまる場合であれば、贈与時に贈与税を支払わなくても済むケースが存在するからなんです。
長い長い前振りになってしまいましたが、それが今回のメインテーマとなります。
3.贈与税を支払わずに不動産の名義変更するには
"相続時精算課税制度"というものをご存じでしょうか?
税金の話になりますので、まずは例のごとく国税庁のHPを紹介致します。
「相続時精算課税の選択/国税庁HP」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
まあ、ここに書いてることがほとんどすべてなのですが、せっかくなので改めて分かり易く説明させていただきます。
相続時精算課税とはー
「一定額については贈与時に贈与税が発生しないが、そのかわりに贈与した方が亡くなった時点で、その遺産だけでなく、過去の生前贈与分も含め相続税を課税しますよ」という制度です。
我ながら分かり難い日本語だと思います。
とは言え、僕の能力的な問題もあり、なかなか短文で表現できるものでもなくて...
簡単な事例を基にもう少し踏み込んでみることにしましょう。
例えば、Aさんが、その子であるBさんに1,500万円相当の不動産を贈与したとします...
- ①本来であればこの時点でBさんは贈与額1,500万円に応じた贈与税を納める必要が生じます
- ②ただし、相続時精算課税制度を利用できれば、贈与時に贈与税が発生することはありません
- ③その後、Aさんが死亡(贈与者した方がなくなった時点)―
※贈与時ではなく、このAさんが死亡した時点が相続時精算課税制度を理解するポイントです。 - ④Aさんの遺産総額に、相続時精算課税制度を利用した分の1,500万円(過去の生前贈与分)が加算され、相続税の有無が判断されことになります
※贈与時の財産を贈与がなかったものとして、相続時に合わせて相続財産として清算するわけです。 - ⑤尚、仮に④の時点で相続税が発生しなかった場合(その合算額が相続の基礎控除額を超えなかった場合)は、相続税の支払いは元より相続時精算課税制度を利用した過去の生前贈与分の贈与税についてもその支払いを免れることができるのです
※もちろん、「遺産総額+相続時精算課税適用分」が相続税の基礎控除額を超えれば相続税の納付義務が発生します。
繰り返しになりますが、相続時精算課税は贈与税がかからない制度ではありません。
贈与の時には贈与税がかからないが、相続時にその分を他の遺産と合わせて(贈与税ではなく相続税という形で)清算しようという制度であり、もっと言うと、相続時に引き継がれるであろう財産を、前倒しで生前贈与してもいいよという制度なのです。
3-1.非課税になる贈与額は無制限ではない
贈与の対象が不動産である場合、その贈与額はどうしても大きくなりがちです。
他の財産に比べると一般的な価値が高いですからね不動産は。
そこでご注意いただきたいのは、相続時精算課税制度における贈与額の上限です。
残念ながら無制限ではなく、きっちり数値化されています。
- 最大2,500万円迄
それを超える贈与分については(例えば、3,000万円の不動産を贈与した場合の500万円分)、相続時精算課税制度を利用したとしても、一律20%の贈与税が課税されてしまいます。
対象となる不動産によっては簡単に超えてしまうこともあるでしょうから、よく注意しておきたい点ですね。
3-2.限度額内であれば回数や財産の種類に制限はない
上記のとおり、金額には上限がありますが、回数や財産の種類にこれと言った制限はありません。
最大2,500万円迄と言うのは、一度の贈与額を対象にしているわけでないのです。
あくまで生涯合計2,500万円という趣旨です。
そのため、合計2,500万円に満までは何度でも利用できますし、また、贈与する財産の種類にも制限はありません。
本ブログのテーマ上、不動産の贈与をメインに話を進めていますが、相続時精算課税の対象は現金や預金等のその他の財産であっても構わないわけです。
3-3.相続時精算課税の適用範囲について
通常の贈与(暦年贈与)であれば、贈与者(贈与する方)及び受贈者(される方)は誰であってもかまいません。
ただし、相続時精算課税制度を利用する上では、贈与者と受贈者に一定の要件が課されることになります。
具体的には―
- 贈与者 ⇒ 60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者 ⇒ 20歳以上の推定相続人または孫
※厳密には、贈与した年の1月1日時点で判断
既述のとおり、相続時精算課税制度は、相続時に引き継がれるであろう財産を前倒しで行う生前贈与ですので、その関係性は第三者間ではなく、相続人等に限定されてしまうわけです。
ちなみに、これ、以前よりも適用範囲が拡大されています。
平成27年に改正されるまでは、その範囲はもっと狭いものでしたし、幾分、不便でした。
贈与者の年齢は65歳以上と言うのに加え、何より受贈者側に"孫"が含まれていなかったためです。
孫に財産を移したいと言う要望は少なからずあるので、良い改正だったのではないでしょうか―
3-4.法務局への贈与の登記手続は通常どおり
相続時精算課税を利用するからと言って、法務局へ特別な登記申請をするわけではありません。
登記の申請書はもちろんのこと、贈与契約書の内容も一般的なものでかまわないのです(登記原因証明情報も同様です。)。
あくまで登記手続自体は通常どおり行えば事足ります。
3-5.税務申告が必要
相続時精算課税を適用するには、贈与を受け取った年の翌年、2月1日から3月15日迄に必要書類を添えて税務申告をする必要があります。
登記手続は一般的なものでかまいませんが、必ずその旨の税務申告を行う必要があるわけです。
仮にその期間内に申告をしないと、その年に相続時精算課税制度を利用することができなくなってしまいます。
少なくとも申告までは気を抜かずにいたいものですね。
4.相続時精算課税制度は人によってはデメリットが生じることも
仕事柄、生前贈与の相談は多く受けますので、これまで相続時精算課税制度については僕なりに勉強してきましたし、税理士等の助言をもらうようなケースも多くありました。
私的には良い制度だと思っています(メリットについては記述のとおりです。)。
また、この制度をつくった国の狙いもなんとなく分かります。
相続が発生する迄眠ったままになっている可能性の高い財産を生前に動かし、経済活性化を狙う意図なのでしょう―
それ自体も、大いに賛成です。
ただし、相続時精算課税制度を手放しで誰にでも勧めれるか、と問われると、今の段階での答えはNoです。
将来的に相続税は発生しそうにない家庭であれば、あれこれ考える必要はそんなにないと思います。
相続時精算課税制度は良い制度のままでしょう。
反面、将来的に相続税が発生することが確実そうな家庭に関しては、実際に利用するか否か、最新の注意を払った方がいいのではないかと考えています。
相続時精算課税制度の恐い点は、一度その制度を選択すると、そのまま継続される点です。
端的に言えば、暦年贈与が使えなくなってしまうわけです。
110万円以内の非課税枠が一生使えなくなってしまうとしたら...
困ってしまう人も多いのではないでしょうか??
僕の立場で言えることがあるとすれば、良い制度であることは間違いありませんが、安易に相続時精算課税制度を用いるのではなく、まずどういった制度なのかを再度じっくり理解することです。
税務の専門家である税理さんに相談するのもいいでしょう。
司法書士は登記の専門家です。
生前贈与に基づく不動産の登記手続に関しては何でも相談に乗れますし、専門知識も有しています。
ただし、簡単なアドバイスはできたとしても、税務相談自体には残念ながら乗ることができません。
その点、ご理解いただけると幸いです。
5.まとめ
今回は子や孫への贈与における注意点等々についてでした。
難しいですよね税金関係は...
僕も苦手です。
ただ、相続時精算課税制度は登記業務に多分に絡んできますので、なんとか理解しようと四苦八苦...
その他、マイホームを売った時の特例(3,000万円控除)なども、もう少し勉強しなければな...と思っていますが、なにぶんあれも細かくて...
そのうち、相続登記と絡めた記事を書けるようしっかり勉強しておきます。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一