ブログ
不動産登記登記簿上「田」や「畑」になっている土地の売買等について
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は田畑の売買についてのお話しになります。
或いはマニアックに思えるテーマかもしれませんが、意外とそうでもありません。
埼玉県や千葉県はもちろんのこと、東京都内の案件であっても田畑の売買は多く存在します。
少なくとも僕自身、毎年少なくとも2~3回は出くわしていますので...
果たしてそれはどういうものなのでしょうか?
<目 次>
- 1.土地の地目とは
- 2.登記地目が「田」、「畑」である場合の登記上の注意点について
2-1.田畑(農地)の取得原因が「売買」、「贈与」、「交換」等である場合
2-2.田畑(農地)の判断基準について
2-3.登記簿上は宅地、評価証明書上は農地の場合はどうなる? - 3.田畑(農地)であっても農業委員会の許可等が不要なケース
3-1.当事者の意思に基づかない権利の取得原因(相続・時効等) - 4.まとめ
1.土地の地目とは
まずはここからの説明です。
登記上、土地には必ず「地目」というものが定められています。
具体的には、どのような用途で利用されている土地なのかによって、以下の23種類(意外と多いのです。)に分類されることになります。
以下、参考までにご紹介致します。
宅地 | 建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地 |
田 | 農耕地で用水を利用して耕作する土地 |
畑 | 農耕地で用水を利用しないで耕作する土地 |
牧場 | 獣畜を放牧する土地 牧畜のために使用する建物の敷地、牧草栽培地および林地などで、牧場地域内にあるもの |
原野 | 耕作の方法によらないで雑草・灌木類の生育する土地 |
塩田 | 海水を引き入れて塩を採取する土地 |
鉱泉地 | 鉱泉(温泉を含む)の湧出口およびその維持に必要な土地 |
池沼 | 灌漑用水でない水の貯留地 |
山林 | 耕作の方法によらないで竹木の生育する土地 |
墓地 | 人の遺骸、遺骨を埋める土地 |
境内地 | 社寺の境内に属する土地 本殿、拝殿、本堂、社務所、庫裏、教団事務所などの建築物がある一画の土地や参道として用いられる土地 |
運河用地 | 運河法第12条第1項第1号又は第2号に掲げる土地 第1号では水路用地および運河に属する道路、橋梁、堤防、護岸、物揚場、繋船場の築設に要する土地 第2号では運河用通信、信号に要する土地 |
水道用地 | もっぱら給水の目的で敷設する水道の水源地、貯水池、濾水場、そく水場、水道線路に要する土地 |
用悪水路 | 灌漑用または悪水排泄用の水路であり、耕地利用に必要な水路 |
ため池 | 耕地灌漑用の用水貯溜池 |
堤 | 防水のために築造した堤防 |
井溝 | 田畝(でんぽ)または村落の間にある通水路 |
保安林 | 森林法に基づき農林水産大臣が保安林として指定した土地 |
公衆用道路 | 一般交通の用に供する道路(道路法による道路であると否とを問わない) 個人の所有する土地であっても、一般交通の用に供される土地は公衆用道路となる |
公園 | 公衆の遊楽のために供する土地 |
鉄道用地 | 鉄道の駅舎、付属施設および路線の敷地 |
学校用地 | 校舎、附属施設の敷地および運動場 |
雑種地 | 以上22の地目のどれにもあてはまらない土地をいう。 |
とは言え、僕自身、実際にこのすべてを目にしてきたわけではありません。
例えば、塩田、鉱泉地、運河用地、堤等は知識としてはあっても、実務で取り扱った経験は皆無です。
池沼(ちしょう)、井溝(せいこう)に至っては、漢字として読めるかどうかも怪しいクラス・・・
まあ、そんなものなのです。
尚、上記の内、一般的に多く見られるのは、やはり「宅地」、「公衆用道路」でしょう。
その他、「雑種地」、「山林」等もそれに次ぐ感じでしょうか―
もちろん、地域によって異なってくる部分も多々あるでしょうが、少なくとも一都三県ではそう大きく異なる結果にはならないと思われます。
※これについての統計があるわけではありません。あくまで経験則でしかないため、参考程度としてください。
そして、「田」、「畑」です。
地域によっては、「雑種地」、「山林」等を凌ぐこともあるでしょう。
実はそれ程この国において、「田」、「畑」はメジャーな地目なのです。
2.登記地目が「田」、「畑」である場合の登記上の注意点について
現行の取扱いにおいては、登記地目が「田」または「畑」になっている土地の場合、諸々の注意が必要になってくることがあります。
では、いったいそれはどのようなケースなのか?
具体的にはどのような注意点が生じるのか?
以下、検証していきましょう。
2-1.田畑(農地)の取得原因が「売買」、「贈与」、「交換」等である場合
田畑に限らず、不動産の名義を変更するには必ず何かしらの"原因"が存在します。
ただ単に不動産の名義を変更できるわけではないのです。
尚、これを「登記原因」と呼ぶのですが、今の時点ではそんなに難しく考える必要はありません。
例えば、対価(お金)を支払って権利を取得する場合には、"売買"、対価なく(無償で)権利を取得する場合は、"贈与"、ひとまずはそうした理解で十分です。
とは言え、売買や贈与の対象となる土地が"田畑"であったなら―
要注意です。
なぜなら、田畑はたとえ土地の所有者であれど自由に売買したり贈与したりすることができず、それを実現するには、とある手続を介す必要があるです。
具体的には、農業委員会への届出や許可がそれに当たります。
加えて、その農業委員会への届出や許可の書面が、法務局での名義変更時の添付書類となるのです(それを添付しなければ、田畑の名義変更登記ができないという趣旨です。)。
尚、農業委員会への届出なのか許可なのなかの違いは、対象となる不動産(田畑)が市街化区域か調整区域等かによって異なってきます。
特に許可は期間的にも要件的にも、届出とは大きく異なってきますので、より注意が必要でしょう。
2-2.田畑(農地)の判断基準について
田畑の売買や贈与について、農業委員会への届出や許可が必要になる旨、また、その基準の一つが登記されている登記地目である旨は記述のとおりです。
では、現況が農地ではないが登記地目が田畑である場合や(例えば現況は宅地であるが登記地目が田畑のままになっているような場合です。)、逆に登記地目は宅地になっていても現状が農地である場合などはどうなるのでしょう?
これに対する基本的な考え方は、"現況主義"です。
実際は、農地なの?どうなの??という趣旨ですね。
そのため、登記地目が宅地になっていても、現況が農地であれば農業委員会への許可・届出が必要になるというのが原則です。
であれば、現況が農地ではないが登記地目が田畑である場合には、それらが不要なようにも思えますが・・・
この辺が実に面倒なところなのですが、仮にそういったケースであっても、あくまで登記地目が田畑である以上、法務局で登記名義を変更する上では農業委員会の許可や届出が必要になってくるのです。
なぜかと言うと、現況主義に違いはないのですが、法務局側の判断材料が登記情報によるため(直接現地に行くわけではないため)、登記地目が田畑である以上、形式的に農業委員会の許可書や届出書が登記上必要になると...
もちろん、事前に地目変更の登記を行えば、届出書等は不要です。
ようするに、東京都内等にも割とよくあるのですが、以前は畑として利用していたが現況は宅地、ただし地目変更を行っていなかったため、登記地目は畑のままになっているような場合は、地目変更を行わない限り売買や贈与の登記時に農業委員会の届出書等は必須というわけなのです。
尚、非農地証明書を農業委員会の届出書等に代えて登記手続をすることはできません。
その点、ご注意ください。
2-3.登記簿上は宅地、評価証明書上は農地の場合はどうなる?
せっかくですので、もう少し踏み込んだ話題について少し。
"評価証明書"、正確には固定資産評価証明書という書類があります。
登録免許税を算定するために必要となる書類であり、法定の添付書類ではありませんが、売買や贈与等の移転登記にあたりほぼすべての法務局から提出を求められる書類なのです。
尚、この評価証明書、登記上の地目の他、課税地目が記載されていることが多くあります。
ちなみに、これらの記載は必ずしも一致するとは限りません。
例えば、登記上は「宅地」であっても、課税上は「私道」というのは珍しくないのです。
尚、そのような場合の納付すべき登録免許税は、宅地ではなく道路としてのものになります(少し安くなります。)。
では、「登記地目=宅地」、「課税地目=畑」であった場合、農業委員会の届出等はどうなるのでしょう??
結論は僕が知る限りグレーです。
既述のとおり、基本的な考え方は現況主義ですので、おそらく農業委員会の届出等を要するというのが正しい答えになるのでしょう。
(少なくとも私的にはそう思います。)
とは言え、今現在の取扱いがどうなっているかまでは把握できておりませんが、かつてはこのようなケースでも農業委員会の届出等は不要というケースもありました・・・
そのため、上記のようなケースでは、登記申請をする前に管轄法務局に事前に確認というのが、ある意味、本当に正しい答えなのかもしれません。
3.田畑(農地)であっても農業委員会の許可等が不要なケース
これまでの説明は、対象となる田畑を売買や贈与、もしくは交換等によって取得する際の話しでした。
尚、これらはいずれも当事者の意思に基づく取得原因です。
売りたい、買いたいという意思や、あげたい、貰いたいという意思ですね。
任意に何かをしたいという当事者の意思がそこには介在しているのです。
また、少しマニアックになってしまいますが、この他に田畑に対する地上権や賃借権等の設定時にも同じく農業委員会の許可等が絡んでくることになります。
いわゆる、土地の使用収益に関する部分の問題ですね。
ともかく、田畑の権利取得等は何かと要注意なわけです。
では、田畑であれば、ありとあらゆるケースで農業委員会が絡んでくるのか?
結論からすると、もちろんそれが不要なケースも存在します。
3-1.当事者の意思に基づかない権利の取得原因(相続・時効等)
基本的な考え方としては、上記の"逆"をイメージすると分かり易いと思います。
いわゆる、当事者の意思に基づかない取得原因だったり、土地の使用収益にも関わらない登記であれば農業委員会への届出書等は不要になるというわけです。
具体的な事例をあげると、前者の代表例は"相続"です。
相続は、被相続人死亡時に相続人となる者がその権利を当然に承継します。
(そこに当事者の意思は介在しません。)
そのため、権利取得にあたって農業員会の許可等は不要になるわけです。
尚、相続は相続でも、遺言書による"遺贈"の場合は注意が必要になってきます。
まず、遺贈の相手方が相続人である場合は、結論は変わりません。
常に不要です。
相続人である以上、遺贈であれなんであれ、相続には変わりないとの趣旨でしょう。
ただし、遺贈は相続人以外の第三者に対しても行うことが可能であり、また、遺贈は、"包括遺贈"と"特定遺贈"というものに分別することができます。
ちなみに割合を指定して(財産の〇分の〇を~遺贈する等)遺贈するケースが包括遺贈、農地などの財産を具体的に特定して遺贈するのが特定遺贈です。
これらを前提として―
遺贈を受ける者が相続人以外の第三者であり、かつ、その遺贈が特定遺贈だった場合に限り、売買や贈与同様、権利取得時に農業委員会の許可等を要すことになるのです。
(包括遺贈の場合は、包括遺贈を受けた者は、相続人と同様の地位を有するという見解から農業委員会の許可等が不要になるとの考え方です。)
また、遺贈同様、状況によって結論が異なるのが、離婚に伴う"財産分与"です。
なんと、裁判や調停による場合と、当事者の協議による場合とで結論が異なってくるのです。
尚、前者(裁判や調停)の場合には不要、後者(当事者の協議)の場合には必要というのがその結論です。
おそらく、裁判所の方で判断されているので、改めて農業委員会の出る幕はないとの趣旨なのでしょう...
その他、田畑を"時効取得"する場合も農業委員会の許可等は不要です。
また、地上権や賃借権ではなく、抵当権を田畑に設定する際も同様です。
時効取得は期間経過の問題であり、相続同様当事者の意思に基づくものではないからです。
抵当権の方は、後者に該当し、土地の使用収益の問題になります。
当然、抵当権は地上権や賃借権とは異なり、それには該当しませんので、自ずと農業委員会の許可等は不要だとー
なかなかに面倒いて、分かり難いですよね...
ともあれ、田畑には細心の注意を払いつつ、事案に応じて適宜判断するのが賢明でしょう。
4.まとめ
さて、今回は田畑の売買等に関するお話しでした。
今は当てはまらない方でも、将来、田畑を相続することがあるかもしれません。
それをその後、処分等する場合には―
ちなみに、僕の親は田畑を所有しています。
加えて、調整区域の田畑なので、処分等には農業員会の許可を要すると...
許可の業務的には行政書士の職域なので、そこまで詳しいわけではありませんが、結構、大変なんですよね...
まあ、どうするかはその時に考えることと致します。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一