ブログ
不動産登記不動産は安易に贈与すべきではない?
いつもお読みいただきありがとうございます。
さて、今回は不動産の贈与についてのお話しです。
どうしたことか、このところ不動産贈与(生前贈与)についてのご相談を多くいただいております。
これまで個人のお客様からのご相談は、相続や遺言、それに次いで借金関係のものが多かったのですが、最近はそのバランスが僅かに崩れてきたような...
不動産贈与(生前贈与)が流行ってきたのですかね?
なんであれ、ご相談いただけること自体、本当に有難い限りです。
そんな事情もあり、ここで改めて不動産贈与(生前贈与)の注意点等をご紹介したいと思っております。
基本的に僕は不動産贈与(生前贈与)のご相談は、「まずは思いとどまらせると言うか、改めてよく考えてもらうスタンス」で話すことが多いです。
もちろん、それ自体が悪いことだからではないですよ。
不動産贈与(生前贈与)は、適法であり、有効な手続であることに違いありません。
ただ、注意すべき点が多いので、「本当にそうするのか?他に代用できる手続はないか?よく検討しましょう」という趣旨なのです。
では、そんな不動産贈与(生前贈与)には、どのような注意点があるのでしょうか―
例の如く検証してみましょう。
<目 次>
- 1.不動産を贈与する時の注意点
1-1.兎にも角にも贈与税に注意
1-2.誰に対する贈与なのか?~贈与者と受贈者との関係性~
1-3.子や孫に不動産を贈与する場合~相続時精算課税制度~
1-4.配偶者に不動産を贈与する場合~配偶者控除制度~
1-5.コスト面にも注意 - 2.遺言書をうまく活用することで問題解決できる場合もある
- 3.生前贈与は決して悪い手続ではない~生前贈与のメリット~
- 4.まとめ
1.不動産を贈与する時の注意点
贈与と言えども立派な法律行為であり処分行為です。
形式上ではありますが、その結果、一方(贈与者)は財産を失い、もう一方(受贈者)は無償で大きな利益を得る―
このような重大な行為に注意点がないわけがありません。
不動産贈与(生前贈与)の手続自体はもちろんのこと、メリットばかりを見るのではなく、デメリットについても正しく理解することが重要と言えます。
では、不動産を贈与するに際して、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか?
1-1.兎にも角にも贈与税に注意
贈与税は高いです。
きっと想像されている以上に高いです。
なんと、その最高税率は55%(贈与対象が3,000万円超の場合)にも及ぶのですから―
そして、その税金納付は原則一括払いです。
要件が整っていれば延納も可能みたいですが、それなりの利子税が発生したりも...
これだけでも、不動産贈与(生前贈与)を安易にやっていいものではないと分かるはずです。
対象が不動産であっても、贈与は贈与です。
加えて、不動産は一般的にはかなり高価な財産と言えます。
もちろん、ないわけではありませんが、その価格が基礎控除額である110万円を下回る不動産は稀と言っていいでしょう。
(廃屋や私道部分、一部の農地ぐらいのものでしょうか?)
そうなると、不動産の贈与では、常に贈与税を気に掛ける必要があるというわけなのです。
1-2.誰に対する贈与なのか?~贈与者と受贈者との関係性~
ただし、だからと言って、不動産の贈与を諦めるべきだと言っているわけではありません。
高額な贈与税を納付してでも、得が生じる案件かもしれませんし、得はなくとも何かしらの精神的な安定をもたらすものかもしれません。
事情は人それぞれあるでしょう。
大切なことは、あくまでそれらを理解した上で行うことです。
また、そもそもの話し、贈与者と受贈者の関係によっては、贈与税を納める必要がないケースもあるのです。
例えば、次のようなケースです。
- 子や孫に不動産を贈与する場合
- 配偶者に不動産を贈与する場合
多くの場合において、贈与の相手方は親族であることが、それも配偶者や子であることがほとんどです。
それはそうでしょうね。
よっぽどの事情でもない限り、なかなか大切な財産を第三者にはあげないでしょうから―
結果、常に贈与税を気に掛ける必要のある不動産贈与ですが、その問題を解消できるケースも多いと。
1-3.子や孫に不動産を贈与する場合~相続時精算課税制度~
以下、過去に投稿した当サイトのブログ記事をご紹介致します。
それ自体にも注意点は多いので、じっくり参照いただければ。
「子や孫名義に不動産を変更するには~相続時精算課税制度~/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_117/
1-4.配偶者に不動産を贈与する場合~配偶者控除制度~
婚姻年数や居住用に限定される点等、相続時精算課税程には使い勝手が良くないかもしれませんが、夫婦間においても贈与税が控除されることがあります。
上記同様、以下に過去に投稿した当サイトのブログ記事をご紹介致します。
不動産贈与に限らない夫婦間贈与についての記事になっておりますが、参照していただければ。
「夫婦間であっても贈与税はかかる?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_46/
1-5.コスト面にも注意
極端に高額になるわけではないので、そこまで気を付ける必要はないかもしれませんが、不動産贈与手続は相応にコストがかかってくるので、その点にも注意が必要です。
具体的には、不動産の名義変更時に法務局に納める登録免許税です。
ようするに登記手続に最低限必要となる実費なわけですが、僕の報酬なんかよりよっぽど高くつきます。
算定方法としては、不動産の評価額に2%を乗じるだけなのですが、これがバカにならない...
例えば、対象となる不動産の評価額が1,000万円の場合では、「1,000万円2%」になりますので、その額、実に20万円です。
ちなみに、相続の場合であれば、税率が下がりますので(不動産評価額の0.4%)対象が同じ不動産であれば4万円で済みます。
まあ、単純に贈与は相続の5倍の登録免許税(実費)がかかると...
また、残念ながら、この贈与に基づく登録免許税の軽減は今のところありません。
それを行う以上、必ず納める必要のあるコストなのです。
もちろん、不動産の評価額があがれば、登録免許税もあがります。
贈与税の問題をクリアしたとしても、相応の費用負担をせざるを得ないわけです。
細かい話になってしまいますが、不動産の贈与の場合は、こうした細かいコストも事前にある程度は把握し、損得勘定をしておくことも大事なのです。
2.遺言書をうまく活用することで問題解決できる場合もある
こればかりはケースバイケースですので、一概にどうこう言えるものではありません。
ただし、内容によっては不動産の贈与以外の手続で問題解決できるケースも多くあります。
なぜ、不動産の贈与を行おうと思ったのでしょうか?
将来的に相続でもめそうな要素がありますか?
節税のためでしょうか?
今一度検討してみてください。
特にこれといった理由がないのであれば、遺言書の作成を検討するのも手です。
不動産の生前贈与であれば、確実にその名義を変更することが可能ですが、その他の財産については、それ以上何もしなければ、ある意味、手つかずになってしまいます。
対して、遺言書であれば、名義変更自体は死後になってしまいますが、対象不動産以外の財産についての取り決めも可能なのです。
案件にもよりますが、手続開始段階でかかるコストについても、不動産の贈与よりはだいぶ抑えることができるケースが多いと言えます。
ちなみに僕の場合は、まず依頼者の目的をしっかり確認するようにしています。
その上で状況によっては税理士も交え諸々の問題点を検証し、不動産の生前贈与をすべきか、遺言書を作成すべきか、もしくは他の手続を選択すべきかを話し合う感じです。
どっちが良いとか、どっちが悪いとかではありません。
あくまで目的に合わせる感じです。
場合によっては、両方の手続を取ることだってあります。
大事なのは、ただただ「安易にやるべきではない」という点に尽きるです。
3.生前贈与は決して悪い手続ではない~生前贈与のメリット~
最後に不動産を含めた生前贈与のメリットを簡単にご紹介します。
真意としては、不動産贈与を慎重に進めて欲しいという趣旨なのですが、ここまでの内容的には思い止まらせる感じになっていましたので、そのフォローと言うか、何と言うか...
うまく活用できさえすれば、有用な手続である点に違いありません。
具体的には以下のようなメリットが挙げられます。
- 高い節税効果が生じることがある
※これについてはケースバイケースですし、そもそも僕の専門外である税務の話しになってしまうので、詳細は割愛させていただきます。 - 財産取得者を確実に選べる
※遺言についても同様なのですが、遺産分割協議を行う必要がないため、贈与者が自由に財産を与える相手を選ぶことが可能です。 - 相続トラブル回避に有効
※事前に不動産の名義を変更することができるため、ある意味、遺言よりも更に相続トラブルを回避できる可能性が高くなると言えます。
しつこいようですが、その仕組みを正しく理解し、使いこなすことが何より大事なのです。
4.まとめ
さて、今回は不動産の生前贈与のお話しでした。
ちなみに実際の案件としては、兄弟姉妹間の仲が悪いパターンや、自宅が夫(または妻)名義であり、底地が父(または義父)名義であるようなパターンが多いですね。
特に後者の場合なんかは有用な手続と言えます。
(憂いが解消でき、安心しますからね。)
ただ、相続時精算課税制度は必ずしも万能ではない(使わない方が良いケースもある)ため、よく検討すべき点は変わりません。
お悩みの方がいらっしゃれば、お気軽にご相談ください。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一