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相続相続により土地を取得した者が相続登記をしないうちに死亡した場合の登録免許税の免税措置
いつもお読みいただきありがとうございます。
あっ、という間に年末ですね。
"師走"と呼ばれるのも納得なドタバタぶりです(それでも去年よりはまだマシか?)。
まだまだ忘年会漬けの日々を送っているという方もいるでしょうが、体調もそうですが、体重の増加にはお気をつけください。
さて、今回は自身への備忘録も兼ねて、相続登記の税金が免除となるケースについてお話させていただければと思っています。
先に言っておくと、今回はいつにも増してかなり実務的な内容になっています(超実務的と言ってもいいかも...)。
前提知識がない方にはかなり分かりにくい内容になっていますが、なるべく分かり易くご紹介させていただきますので、どうか最後までお付き合いください。
<目 次>
- 1.一定の要件を満たす場合、相続登記の登録免許税(税金)が免除されます
1-1.そもそも登録免許税とは?
1-2.土地の相続登記の登録免許税が免税となる要件 - 2.所有者不明土地問題を解消するために
- 3.まとめ
1.一定の要件を満たす場合、相続登記の登録免許税(税金)が免除されます
利用者にとっては良い話です。
なんと言っても、本来かかるはずの税金が免除されるという話なのですからメリットがないはずはありません。
対して、デメリットは??
考え得る限りまずありません(少なくとも僕には思い浮かびません。)。
知っていて損する話でもなかえれば、実際に利用して損する話でもないのです。
では、具体的にどういった話なのでしょうか?
まずは次の引用文をご覧ください。
個人が相続(相続人に対する遺贈も含みます。)により土地の所有権を取得した場合において,当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは,平成30年4月1日から平成33年(2021年)3月31日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については,登録免許税を課さないこととされました。
※法務局のHPより引用
ほぼこれがすべてです。
なんとなくイメージはできるでしょうが、前提知識がないとすべてを理解するのは困難かと思われます。
そのため―
何を得して、何に注意すればいいのか?
その他、今回の免税処置の制度趣旨等も含め、諸々、紐解いていくこととしましょう。
1-1.そもそも登録免許税とは?
免除の対象となる税金は"登録免許税"というものです。
そもそも、これはなんなのでしょうね?
たまに勘違いされている方がいますが、"相続税"とは直接関係ありません。
(税金という括りでは一緒ですが、決してイコールではありません。)
登録免許税とは、法務局での登記申請の際等に納める相続税とは全く別の税金なのです―
尚、登録免許税は相続登記だけに限られるものでもありません。
売買や贈与、住宅ローンを設定する際にも登録免許税はかかります。
(ごく一部の例外を除いて、法務局への登記申請には予め定められた額の登録免許税を納める必要があるのです。)
その他、なにも登記手続だけではなく、特許や許可、認可等についても課税の範囲となっており、あまり意識していないかもしれませんが、結構、多くのケースで登録免許税を納めているわけです。
余談ですが、皆さんが司法書士からの請求が高いと感じる多くの要因は、この"登録免許税"が請求に含まれているからです。
登記申請時に収入印紙等にて登録免許税を法務局に納める必要があるため、司法書士報酬と税金が合算された金額を請求せざるを得ないわけなのです(司法書士が全部もらってるわけではないですよ...)。
尚、登録免許税がどのくらいかかるのかと言うと―
相続の場合ですと、固定資産評価額の0.4%となりますので、仮に1,000万円の土地であれば、登録免許税は金4万円となります(ちなみに土地の売買だとこれが1.5%となります。相続は他の手続に比べ登録免許税が安めなのです。)。
これが1億の土地ともなれば...
なんとも馬鹿にできない金額になってしまいますね。
平成30年度の税制改正は、特例でこの登録免許税がある要件を満たしている場合に免税されるというものなのです。
1-2.土地の相続登記の登録免許税が免税となる要件
まず、期間が定められています。
私的には、おそらく今後延長されるのでは?
と、思っていますが、まだその旨の発表はされておりません。
- ①適用期間:2018年4月1日から3年間
遡って登録免許税の還付を受けられるわけではありません。
あくまでこの期間に登記申請される相続登記のみがその対象となります。
- ②対象不動産:土地(建物は含まれません)
あくまで土地についてのみの規定です。
建物はこれに含まれてはいません。
どうして?
そう思われるかもしれませんが、理由は当ブログの後半部分を読んでいただければある程度伝わってくると思います。
とは言え、それでも私的には建物についても同様の要件を満たした上で、かつ、土地と併せて相続登記するような場合には、同じく登録免許税の免税を受けることができるようにした方がよかったのでは?
と、思っています。
その方がより効果も、インパクトも大きいですから...
今のところ、そのような変更案を聞き及ぶことはありませんが、もしかしたら将来的にはそんな感じになっているかもしれませんね。
適用期間と土地。
ここ迄はそんなに問題があると言うわけではないでしょう。
分かりにくくもないはずです。
対して、最後の要件はと言うと―
- ③対象となる相続案件:相続により土地を取得した者が相続登記をしないで死亡した場合に、その者名義で相続登記を行うケース
ここで再び法務局の資料を引用させていただきます。
※法務局のHPより出典
添付画像のように、該当するのは放置していた相続登記分の登録免許税についてのみです。
全部の登録免許税が免税されるわけではありません。
あくまで免税対象となるのは、図で言うとBさんを登記名義人とする相続登記についてのみです。
Cさんを登記名義人にする相続登記分については、従前どおりの登録免許税がかかってしまいます。
AB間の土地の相続については登録免許税を免除するが、BC間の相続についてはちゃんと登録免許税を納付しなさいよ、という話なのです。
重複しますが、良い話であることに違いはありません。
本当にそうなんですが、相続登記業務に慣れていればいるほど、実際にこの免税制度を使用する機会は少ないなと思ってしまいます(ちなみに現時点迄でこれを行う機会はありませんでした。)。
なぜなら上記図のようなパターンだと、ABの相続登記とBC間の相続登記の2つの登記申請を行うのが原則なのですが、多くのケースで我々司法書士は遺産分割協議を工夫することによって、Bさんを経由せず、Aさんから直接Cさん名義の相続登記を行ってきたからです。
手間云々ではなく、その方が依頼者の金銭的な負担が少なくなりますから...
ようは放置された相続案件であっても、元よりその部分の登録免許税を納めずに済んでいたケースが多かったわけです。
では、そもそも今回の税制改正の特例は無用のものなのか??
そんなことはありませんし、仮に何の意味もないものであれば、当ブログで取り上げることもありません。
かなり限られてはしまいますが、これが活きるケースは存在するのです。
それらを把握しておきつつ、免税を受けられるところはしっかり受けておく。
今のところはそんな感じの活用方法となるのではないでしょうか。
以下に使用が予想されるケースを簡単に列挙します。
(突き詰めると他にもあると思いますが、とりあえずは思いついたもののみ。)
<使用が予想されるケース>
- 生存中にBさんが対象土地を相続登記未了のまま売却していたような場合の相続登記
- 最終の相続人が1人である場合の相続登記
- 時効取得の前提で行う場合の相続登記
※これらのケース等では、相続登記の省略ができず、一度Bさん名義の相続登記を入れる必要性が生じることがあるため、その部分の登録免許税の免税を受けることが可能となります。
2.所有者不明土地問題を解消するために
使用頻度はさておき、国がなぜこのような制度を作ったかにも少しだけ触れておきましょう。
それは偏に所有者不明土地問題の解消のためです。
今現在、誰が所有しているか分からない土地。
所謂、"所有者不明土地"が全国的に増え続けているそうです。
それらの土地を合わせると、その広さは九州本土を超えるとも...
凄いですよね実際。
正直、想像以上です。
まあ、それほどまでになるとさすがに捨て置けない社会問題でしょうね。
そして、"所有者不明土地"が生じる原因となっているのが、"相続登記の放置問題"です。
それを少しでも解消、もしくはそうなる切っ掛けの一つにしようと国が試みたのが、今回ご紹介させていただいた土地の登録免許税の免税制度となるわけです。
とは言え、建物についてはその対象になりませんでした。
土地の問題がメインだからなのか、建物は朽ち果てればOKとしているのかは分かりませんが、少なくとも今のところはそんな感じです。
ちなみに、既述の土地の登録免許税の他にも免税処置を受けた事項があります。
一応、ご紹介しておきますと―
市街化区域外の土地で市町村の行政目的のため相続登記の促進を特に図る必要があるものとして法務大臣が指定する土地のうち、不動産価額が10万円以下の土地に係る登録免許税についてこれを免除すると言うものです。
いや、免除されなくとも、元よりほとんどかからないのでは登録免許税?
僕の理解が間違っていなければ、1,000円を免除してくれるという制度ですね...
3.まとめ
制度の中身はどうあれ相続登記を促す動きは大賛成です。
司法書士としての商売的な部分を抜きにしても強くそう思います。
相続登記の放置は誰も得をしません。
国が危惧している所有者不明土地の問題だけでなく、親族間トラブルの発端にもなり得ます。
仮に大きな問題が起こらずとも、手間が増えます。
必要書類が増えます。
程度によっては司法書士等の報酬が増えるかもしれません。
何にも良いことがないのです。
いつかは誰かが相続登記を行う必要性が生じます。
で、あれば下の世代に迷惑をかけないよう、なるべく早い段階で相続登記を行うようにしましょう。
それが最善です。
尚、今回ご紹介した登録免許税の免税制度は、知らなければ使えません。
相続登記の登録免許税の免税措置については、「租税特別措置法第84条の2の3第2項により⾮課税」と登記の申請書に記載する必要があり、仮に要件を満たしていた場合であっても、その旨の記載がない場合は免税措置は受けられません。
自身で相続登記を行われる場合はもちろんそうですが、すべての司法書士がこの制度を把握できているわけでもないでしょうから、専門家選びにも注意が必要になるかもしれませんね。
では今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一