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相続放棄

相続放棄をしても不動産の管理義務は残る?



いつもお読みいただきありがとうございます。



ようやっと非常事態宣言が解除されたかと思ったら、今度は東京アラート...
Jリーグの再開が決定したと思ったら、新たにJリーガーに感染者が...
良いニュースを打ち消すようなニュースばかりで気が滅入ってしまいます。
北九州市も心配ですよね。
良いニュースが続く日々が訪れるのを待つばかりです。



さて、今回は相続放棄後の管理義務についてのお話しです。
単純でいて非常に厄介な問題です。
出口がないわけではないのですが、ハードルが高いと言うか何と言うか...

また、なるべく分かり易く書いているつもりですが、元々の内容の難しさもあり、いつもに増して複雑な中身になってしまったような気がします。
その点、ご了承いただければ...


果たしてそれはどのような内容なのでしょうか?




<目 次>

1.相続放棄をしても免れられない責任とは?

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当ブログでも何度か紹介しておりますが、基本的に相続放棄の効果とは、「最初から相続人ではなかった状態」になることです。
結果、不動産や預貯金等のプラスの財産を相続できない代わりに借金等のマイナスの財産も相続しなくて済むとー



「相続人じゃなくなったのだから私には関係ない!」という状態ですねいわゆる。



実際に相続放棄をすることで、借金や滞納税金等の支払義務を免れるのは事実です。
しかも、基本的に相続放棄後に家庭裁判所で取得できる"相続放棄申述受理通知書"を各債権者に提出するだけで済みます。



ただし、注意点がないわけではありません。
それだけでは済まない、仮に相続放棄をしても免れられない責任も存在するのです。





1-1.相続放棄をした者による管理義務について

相続放棄手続の多くは、書類だけならかなり簡単な部類に入ると思います。
反面、特殊な判断を要することも多いので、安易に個人で行うことはあまりお勧めしない手続でもあります。



その典型例とも言えるのが、この管理義務なのです―



まずは例のごとく該当する民法の条文を見てみましょう。


民法第940条第1項
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない



一見すると、なんてことのない内容に思われるかもしれません。
意味合い的にも分かり易い感じがしますしね。

ただ、そう思われる方はもっとよく読んでみてください。
結構なことが書かれていますので...


もう少し簡単に表現してみましょうか―



この条文は、「相続放棄をしても、それによって相続人になったものが相続財産を管理できるようになるまでは、あなたが責任を持ってその財産を管理しないさい」と、言っているのです。



相続放棄後の管理義務の話ですね。
相続放棄をしても相続財産の管理義務だけは残ると...


これに対し、そうか、そうか、と思う方も、とある疑問が頭をよぎる方もいることでしょう。


それでは、相続人全員が相続放棄したケースを想像してみてください。
ちなみに、それ自体が珍しわけではありません。
少なくとも借金等、相続放棄したい事情があるからこそ相続放棄をするわけであって、その事情は他の相続人にとっても同じであることが多いですから。


と、なると、相続財産の管理義務はいつまで続くことになるのでしょうか?
相続人が全員相続放棄したとなると、もはや相続放棄によって相続人になる者は出てこないはずです。
※一般的な家庭を例にとってみますと、父が死亡し配偶者と子が皆相続放棄すれば、相続権は父の両親または祖父母に移ります。そこで、父の両親または祖父母が既に死亡または相続放棄をした場合は、父の兄弟姉妹またはその者が既に死亡している場合には甥姪へと更に相続権が移ると...。この段階で相続放棄を行えば更に相続権が他に移ることはありません。


また、相続財産の管理中はどのような事態が想定されると言うのでしょうか?




1-2.遺産に不動産が存在する場合は特に注意が必要

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不動産ではなく、預貯金や株式等の有価証券のみが遺産の対象であるならば、相続財産の管理義務はそれほど気にする必要がないかもしれません。
基本的に管理する手間も費用もかからないでしょうからー

特に預貯金は、2019年より
休眠預金等活用法が開始していますので、"休眠預金"として取り扱われ、10年の経過の後、預金保険機構へ移管、民間公益活動に活用されることになります。
そのため、仮に相続人全員が相続放棄したとしても、そこまで大きな問題にはならないわけです。



では、不動産の場合はどうでしょう?



まず気になる固定資産税についてですが、これはあくまで不動産の所有者、もしくはその者が亡くなっている場合にはその相続人に課せられることになる税金です。
そのため、相続放棄後の元相続人はそのいずれにも該当せず、固定資産税を支払う義務は一切生じません。


この点はとりあえず安心ですね。


では、対象の不動産がマンションだった場合に、管理組合に支払う管理費や修繕積立金などはどうでしょう?
税金同様、これもコンスタントにかかってくる出費ですから気になるろところでしょう。


結論からすると、考え方は固定資産税と同様なので、これも同じく支払義務は一切生じません。


なんだ、そんなに大したことにはならないじゃないか―
そう思う方もいるでしょう。
確かにここまではそうですね。


では、相応の築年数を経た古家をイメージしてみてください。


確かに税金等の支払義務はありません。
ただし、管理義務には当然修繕義務等も含まれます。
しかも、この管理義務には、『自己の財産と同一の注意義務を持って~』というそこそこの責任をも付加されているのです。



仮にそれを怠っていると...
例えば、何ら不動産の管理を行わずボロボロの状態のままにしておくと...



以下のようなトラブルが生じる可能性があるのです。


  • 空家等対策特別措置法に基づき行政指導を受ける可能性がある
    平成26年11月に成立したこの法律が、相続放棄後の管理義務責任をより重いものに変えた印象があります。
    ただし、空き家はもはや大きな社会問題になってしまっておりますから、それも致し方ないことなのでしょう...
    ともあれ、空き家の管理状況等によっては、行政からの助言・指導・勧告・命令を受けることがあるのです。
    また、行政指導に従わず特定空家に認定されてしまと、最悪の場合、行政代執行を受けることも...
    具体的には、市町村が何ら管理しない管理者に代わって空き家を解体するなどの状況の改善を図り、それにかかった費用を請求してくるわけです。
    市町村の負担ではありません。
    建物の解体等、実際に行う内容や対象家屋にもよるでしょうが、その請求金額は場合によっては数百万に及ぶこともあるそうです。
    相続放棄をしたにも関わらず、多額の費用を請求されてしまう最悪のケースですね。

  • 損害賠償請求される可能性がある
    家は人が住んでこそのものです。空き家になると急速に傷みが進行します。
    結果、崩れた壁や屋根等が通行人に当たって怪我をさせてしまうようなことも...
    このような場合、相続人がいない以上、相続放棄後の元相続人が管理責任を問われ、損害賠償請求を受けるリスクが発生してしまうわけです。
    それこそ死者が出るような事態にでもなってしまうと...



  • 近所からの苦情
    直接的な損害はなくとも近所の目というものがあります。
    空き家によって景観が悪化してしまうでしょうし、火災や浮浪者等が居着き治安が悪化する可能性もあります。
    逆の立場だったらどうでしょう?嫌ですよね...
    そのため、法律は別にしても、ご近所トラブルに巻き込まれてしまう可能性があるわけです。




恐ろしい話ですね。
尚、あくまでこれは可能性の話です。
もちろん、全部が全部そうなるわけではありません。

ただし、可能性がある以上は把握しておくべきですし、警戒しておくべきです。
特に空き家問題が騒がれて久しい昨今、今後、行政の動きが活性化しないとも言い切れませんから。


ともあれ、相続放棄後にこのような事態に巻き込まれないようにするには、お金と手間をかけてでも空き家の適切な管理を続けていくか、後述する相続財産管理人を選任する他ないわけです。




1-3.相続放棄後のマンションはどうなる?

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それでは対象となる不動産がマンションだった場合はどうなるのでしょうか?


戸建てならまだしも、マンションの管理義務と言われてもあまりピンときませんよね。
少なくとも室外は共有部に当たりますので、元より手を加えられるものではありません。
そうなると室内になるのですが...

おそらくは管理組合と話し合いつつ、定期的な室内の点検等を行ったり、室内やバルコニーの清掃を行ったりする形になるでしょうか。


戸建てに比べると随分軽い責任に思えなくもありません。



ただ、マンションの管理組合としては大打撃になりかねません。
なにせ相続人がいないのですから、適切な処置を講じない限り、いつまで経っても管理費・修繕積立金を支払ってもらえません。
それが短期間ならまだしも、数年、数十年となれば...


ある意味、マンション全体の価値を下げかねない事態なわけです。


本来、得られるはずだった管理費・修繕積立金を受領できず、かつ、所有者がいないため次に売却もできない。
仮に対象の室内に配管等のトラブルがあったとしても、最悪、その処置すら問題になってしまうことも...


八方塞がりに近い状況ですね。


おそらく管理者に対する風当たりも強くなるのではないでしょうか?
そういったトラブルを生む可能性があることも、十分、把握しておくべきなのです。


尚、余談ですが、僕自身一度、とあるマンションの管理組合からの依頼で相続財産管理人の申立業務を行った経験があります。
時勢的に今後も増え続けていくかもしれませんね。


1-4.管理義務はいつまで続くのか?

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では、次にそうした管理義務がいつまで続くかの話です。


基本的な考え方は先にご紹介した条文のとおりです。
他に管理する人が現れれば何の問題なくその時点で終了です。
ただし、相続人が全員放棄してしまった場合では、そうそう簡単にはいきません。


なにせ、新たな相続人が現れる余地がありませんからー


そうであるとすると、管理すべき相続財産が存在する以上は、ずっと管理義務を負う形になってしまうようにも思えます。
そして、基本的にはその考え方が正解なのです。


結構、とんでもない話ですよね。


ただし、もちろんそうした責任を免れる方法は存在します。
問題の根幹は、相続放棄によって相続財産の管理者がいなくなることです。
で、あれば、シンプルに相続財産を管理する者を別に用意するればいいわけです。

とは言え、誰でもいいわけでは決してありません。
今後はお隣の方が管理してくれるからとはいかないのです。


相続人でない以上、公的な立場の人物が求められます。
そして、それが先ほどからちょこちょこ話に出てきている、"相続財産管理人"なのです。


家庭裁判所により相続財産管理人が選任さえされれば、例え相続人が全員相続放棄しようとも管理義務を負うことはありません。
こと管理面の問題に関しては万事解決するわけです。



しかし―



そこまでが大変というか、大きな壁があるというか、負担が大きいというか、そこには諸々の問題が内在しているのです。




1-5.相続財産管理人はどのようにして選任されるのか?

どうやら、世間的には相続人のいない不動産などは自然に国庫に帰属(国のものになる)するようなイメージを持っている方が多いようです。
実際に不動産等が国庫に帰属することはあるので、極端に大きな間違いではありませんが...


ちなみに、
持ち主のいない相続財産が自然に国庫に帰属することはあり得ません。
仮にそうであるならば、相続放棄後の管理義務は元より問題にもなりませんし...
あくまでそれら一連の手続を行うのが相続財産管理人なのです。


では、どのようにして相続財産管理人は選任されるのでしょうか?


具体的には、次の者による家庭裁判所への申立てが必要になります。
相続人がいない(相続放棄によりいなくなった)からと言って、当然に選任されるわけではない点に注意が必要ですね。


  • ①利害関係人(債権者、受贈者等)
  • ②検察官



ちなみに検察官とありますが、実際にはよっぽどのことがない限り検察官が申立てをしてくれることはありません。
そのため、基本的には利害関係人から申立する他なく、申立にかかる費用も利害関係人が負担することになります(行政が負担してくれるわけでがありません。)。

尚、債権者とは、亡くなれた方(被相続人)に何らかの権利(貸したお金を返してもらう権利等々)を持っている者であり、受贈者とは、遺言で亡くなられ方から遺産をもらった者です。
例えば、債権者は貸金を回収したいという面で、受贈者は遺言どおりの権利を受けたいという面でそれぞれ利害が存在するとー


また、相続放棄後の元相続人も相続財産管理人申立上での利害関係人に該当することになります。
既述のとおり、相続放棄後の元相続人は相続財産管理人が選任されるまでは相続財産を管理する義務が生じる点で利害関係人になり得るわけです。

ともあれ、ここでは受動的に相続財産管理人が選任されるケースは極めて稀であり、利害関係人から家庭裁判所への申立てが必要である点、理解しておいてください。




1-4.相続財産管理人の選任費用は多額になりがち

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さて、相続財産管理人の申立にかかる費用は利害関係人が負担する他ないと書きましたが、実はこれが一番の問題になりがちです。


家庭裁判所への申立書類作成費用だけであればそこまでではありません。
司法書士等の専門家に依頼しても、その報酬は10万円前後といった感じでしょう。

その辺は手続を依頼する専門家や案件によっても異なってくるので、あくまで参考程度としてください。
また、必ずしも司法書士等に依頼しなくとも、手間はかかるでしょうが、頑張れば個人で作成できないこともないかと思われます。



ただし―



申立時に家庭裁判所へ納める予納金というものがあるのですが、これが高い...
ちなみにいうと、直近で僕が相続財産管理人を申立た時の予納金は100万円でした。


もちろん、これも案件によって異なります。
30~50万円ぐらいで済むこともあるでしょうし、100万円以上かかることもあるでしょう。


そもそもこれは何の費用かと言うとー


家庭裁判所から選任されることになる相続財産管理人の報酬等なわけです。
そのため、プラスの財産が多く、内容的にもそんなに複雑ではなければ、自ずと予納金も少額になりがちです。
相続財産管理人としては、管理する財産の中から報酬や活動実費を拠出できますので。


しかしながら、今回のお話しは相続人が全員放棄してしまうような案件です。
プラスの財産は見込めず、むしろ借金等の負債が多いケースの方が格段に多いと...



結果、申立人側にしわ寄せがきてしまうというカラクリなのです。



それでも、私的にはいつゴールを迎えるか分からない管理義務を負い続けるよりはまだマシなのかな?と思っています。
もちろん、置かれている状況や案件にもよるでしょうが...




2.相続放棄の判断基準

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とにかく状況を把握することです。


遺産の種類、負債の有無、自身が相続放棄した後に誰が相続人になるのか(これも忘れずに)、また、その者が更に相続放棄をする可能性があるのか等々。
「借金がありそうだし、面倒だから相続放棄をしておこう」では、手痛いしっぺ返しをくらうことがある旨、よく認識しておくべきです。


とは言え、相続放棄は原則、死亡の事実を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。
そうです。あまり時間がないのです。

であれば、相続放棄の期間伸長手続を活用しましょう。
うまくいけばある程度の時間を稼げることがあります。


また、既述のとおり遺産に不動産がある場合は特に注意です。
その際は、まず幾らぐらいで対象の不動産が売却可能なのか調べましょう。
評価額や路線価等よりは、実際の取引金額を把握しておくことが大事です。

それには不動産仲介業者に査定依頼をするといいでしょう。



そして、計算しましょう。



その結果次第では、対象となる不動産が大した金額では売れずに手間ばかりがかかったとしても、長い目でみれば大きなプラスになることも考えられます。
相続放棄をしてしまった後では、任意に不動産を売却することすらできなくなってしまいますからー


ともあれ、不動産絡みの相続放棄は、いち早い専門家へのご相談をお勧めします。





3.まとめ

今回は相続放棄後の管理責任を中心にお送りしました。
相続放棄を検討する側にとっては、実に面倒な問題ですよね。


ちなみにこの責任、緩和する方向での法改正が予定されているそうです。
確かに現行法では、面識の薄い親族の不動産にさえ管理義務が課される可能性もあるので、その辺を考慮した結果なのでしょう。

ただ、まだまだ草案の段階であり、その内容は確定していません。
改正内容や施行時期等、諸々明らかになった段階で、あらためてご紹介させていただく予定です。


さて、どうなることやら―


それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一