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相続放棄

意外と知らない相続放棄のあれこれ


いつもお読みいただきありがとうございます。



新型コロナウィルスが猛威を奮っていますね。
少なからず僕の仕事にさえ影響が出てきていますので...
どうやら、絶望的に建材が不足しているらしく、建売業者やリフォーム業者が四苦八苦しているそうです。
そうなってくると、新築・中古を問わず、しばらく不動産の流通が鈍くなってくるのではないでしょうか?
イベント業者や外食産業だけではなく、他の多くの産業にも大打撃を与えてしまっているわけです。
僕の立場としては、ただただ、いち早い事態の終息を願うばかりです。



さて、そんな中、今回のテーマは"相続放棄"についてです。
より掘り下げた内容をお送りできればと思っております。

尚、基本的な相続放棄の考え方や注意点ついては、次の業務案内をご確認ください。
当記事とあわせてお読みいただくことで、より知識が深まるものと思われます。



「相続放棄手続/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/service/succession/post_24/






<目 次>




1.3ヶ月経過後であっても相続放棄が認められることがある

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この情報自体、耳にする機会はそれなりに多いのではないでしょうか?
では、具体的にどのようなケースで相続放棄が認められたり、認められなかったりするのかー


相続放棄は、『自己のために相続の開始があったことを知ったとき』から3カ月以内に行うもの。


あくまで、それが原則です。
そのため、可能な限り早めに手続を行うことこそが最善策であり、それは揺るぎません。
わざわざリスクを冒す必要などなく、3ヶ月と言わず、もっと早められるのであれば早めるべきです。


ただしー


何らかのやむを得ない事情(特別な事情)により、それができないケースもあるでしょう。
まずは、そうした状況下における救済策をご案内できればと思っております。


では、どういったケースであれば、期間経過後の相続放棄が可能となるのか?
やむを得ない事情(特別な事情)とは具体的にどのようなケースを指すのか?


以下、検証していきましょう。



1-1.法の不知はこれを許さず(相続放棄が認められないケース)

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このような言葉をご存じでしょうか?
法律のことわざみたいなものですね。

尚、この項では上記で言うところの、"やむを得ない事情(特別な事情)"に該当しないケースのご紹介となります。


"法の不知はこれを許さず"


元ネタは、刑法38条3項の、「仮に法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」からきています。


至極、当然のことです。
でないと、世の中、犯罪だらけになってしまいますからー
盗みは駄目だとは知らなかったから盗んだんだ、と、言われても、それがとおる道理などありません。


ちなみに、これ、何も犯罪がらみのものに限定されるものではありません。
他の法律行為はもちろんのこと、当然に相続放棄手続にも当てはまってくるものなのです。


極端な話、例えば夫が死亡したとして、同居の妻や子が相続放棄をする際に、「3ヶ月以内に手続をしなければならないなんて知らなかった!」、と、主張したとしましょう。
確かに知らない人もいるでしょうから、不思議な話ではありません。


ただし、残念ながら、その理屈は通らないのです...
相続放棄という"法律の不知"は、上記と同様の理由から許されない(理屈にならない)ためです。



また、子のいない者が死亡し、その両親または兄弟姉妹が相続人になるようなケースでは特に注意が必要です。



ある程度相続手続等に精通している者にとって、子がいない方の相続人が両親やその兄弟姉妹(または姪・甥)になり得ることは、もはや常識に近い話です。
ただし、それが一般常識かと問われるとするならば、さすがにそう言い切るのは酷でしょう。
なにせ義務教育では教わらない部分ですから。

とは言え、たとえそのようなケースであっても、相続があったことを知ってから3カ月経過後に、「自身が相続人なるとは知らなかった」ということを理由に相続放棄をすることはできないのです。
なぜなら、少し酷なようにも思えるかもしれませんが、これついても"法の不知はこれに許さず"に該当するからなのです。


このように、亡くなられた方に借金があるような場合だと、まず、いったい誰が相続人になるのか?
その点を正しく判断していきたいものです。




1-2.3ヶ月経過後に死亡の事実を知ったような場合

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それでは少しパターンを変えてご説明することとします。


上記事例は単に法律の不知から、死亡の事実は知っていたものの、具体的に何をすればいいのかを、また、自身が相続人になっていることを認識できていなかったケースでした。
ここでご紹介するのは、何らかの理由で死亡の事実を(自身が相続人になっていることを)知らなかったケースについてです。


例えば、生前、両親の離婚で離ればなれになっていたり、不仲等で長年にわたって疎遠であったりするようなケースです。


対象者(例えば父)が死亡後、同居もしておらず、誰からの連絡もなく、葬儀にも参列していない等々の理由で、死亡の事実を後になって知ることは決して珍しいものではないでしょう。
では、そうした事例であっても、死亡後3ヶ月が経過してしまっているのであれば、上記同様、もはや相続放棄を行うことはできなくなってしまうのでしょうか?



結論からすると、必ずと言うわけではありませんが、そうした場合であっても相続放棄を行うことができるケースもあります。



理由としては、相続放棄を行うことができる期間が、単に「死亡後3ヶ月」ではなく「自己のために相続の開始があったことを知ったとき(自身が相続人になったことを知ったとき)から3ヶ月」であるためです。


ようするに、たとえ既に死亡していたとしても、何らかの正当な事情でその事実を知り得ない状況にあったすれば、時計の針が進むことはないのです。
相続の開始も、自身が相続人になったことも知りようがないため、あくまでそれを知った段階からカウントが始まるとー


対して、同居の親族などは、通常、実際の死亡日に、他の親族などは葬儀関連の連絡を受けた時点で死亡の事実を知ることが多いでしょう。
その場合はもちろんその時点からカウントがスタートします。


以上のような理由から、仮に実際の死亡時から3ヶ月経過後であっても、正当な事情で死亡の事実を知り得ないのであれば、その時点であっても相続放棄を行うことができるのです。


ただしー


その"正当な事情"をうまく疎明しないと、手続的には必ずできるとは言えなくなってきます。


なにせ、家庭裁判所はそうした事情を知る由もありません。
そのため、相続放棄を行う側から、"一応確からしい"と思わせる必要があるわけです。


ほんとにこの辺はケースバイケースなので、「これをこうすれば大丈夫!」といった画期的な方法はありません。


あえて言うとするならば、死亡の事実を知り得なかった諸々の事情をしっかり申述書に記載することです。
いつから、どういった事情で会っていなか等々、まったくの第三者がそれを聞いても納得するぐらいの情報をなるべく綿密に...

そして、疎明資料があればそれを必ず添付するようにしましょう。

例えば、被相続人が生前不動産を所有しており、市役所からの"納税義務者の届出"(代表相続人に宛て固定資産税を支払う者を届け出るよう促す書類)でその事実を知ったのであれば、それらの書類一式がそれに該当します。

そうすれば手続の成功率は、より高まることでしょう。

ともあれ、難しい判断が伴うことは間違いないので、自身で行うのではなく、できる限り経験のある専門家に手続を依頼することをお勧めします。




1-3.死亡ではなく借金の存在を知ってから3ヶ月以内の相続放棄

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既述のとおり、相続放棄を行える要件はー

『自己のために相続の開始があったことを知ったとき』から3カ月です(ちなみにこの期間を"熟考期間"と言います。)。


ただし、なんと、これにも例外があるのです。
それが具体的にどういうケースかと言うとー


随分古いものにはなりますが、昭和59年の最高裁判決により次のような判断がなされています。


相続人が、相続開始の原因たる事実、およびこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った場合であっても、上記各事実を知った時から3ヶ月以内に限定承認、または相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において上記のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時、または通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和59年4月27日判決)。




これだけだと分かり難いと思いますので、上記からキーとなる部分を抜粋し、なるべく簡単に解説してみます。

  • 被相続人に相続財産が全く存在しないと信じて~
    ※プラスの財産だけではなく、借金等マイナスの財産も含め、何もないと思っていたという趣旨です。

  • 被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて、相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって~信ずるについて相当な理由があると認められるとき
    ※例えば、両親の離婚や失踪、その他、不仲で何十年も顔を合わせたことがない等々、一般的にみて相続財産の有無を知り得ないような事情があって、それを信じているという趣旨です。


まあ、何らかの事情でずっと疎遠であり、財産も借金も何も無いと思っている状況なら、相続放棄をするか承認するかも判断できないのは当然でしょう。
なので、熟考期間は死亡時ではなく、相続財産を認識した時点から起算する感じでいいよとー

尚、相続財産と言っても、プラスの財産があったから相続放棄をするとはあまりならないでしょうから、その多くはマイナスの財産である借金や保証債務を理由に相続放棄が行われています。

また、仮に上記の要件をきっちりと満たしていなくても、例えば相続財産が「全く存在しないと信じていた場合」だけではなく、プラスの財産が多少なりとも存在すると知っていたときであっても、それ以上の借金が後に発覚したような場合には(あくまで借金の存在は知らないことが前提です。)、実際に相続放棄が受理されるているケースが多いというのが現在の取り扱いです。


ともあれ、期間経過後の相続放棄については、すぐに諦めるのではなく、可能性を模索することが重要なのです。
その結果、たとえ死亡後3ヶ月を経過していても、借金の存在を原因に相続放棄が認められることがあるのですから。




2.相続放棄をしても生命保険を受領できる場合がある

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1とは、少しニュアンスを変えた内容になります。
今度は相続放棄後の話ですね。

  • 相続放棄後であっても、生命保険を受領できるケースがあります


これについて違和感を覚える人も多いことでしょう。
簡単に言うと、プラスの財産もマイナスの財産も、相続財産はすべて相続できなくなるのが相続放棄という手続です。


そうであるにもかかわらず、生命保険は受け取れる??


確かに一見するとおかしな話ではあります。
ただし、それにはもちろん相応の理由があるのです。



2-1.死亡保険金は相続財産にならないケースがある

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よければ自身で加入している保険の内容を確認してみてください。
そこには、『保険契約者』『被保険者』『受取人(保険金受取人)』という項目があるはずです。

簡単にそれらを説明するとー

まず、それが誰のもの(誰の財産)にあたるのかが、『保険契約者』であり、誰を対象とした保険なのかが、『被保険者』の項目です。
そして、死亡時、誰に保険金が支払われることになるのかが『受取人(保険金受取人)』の項目なわけです。


まあ、ここまでは特に問題ないでしょう。
何を今さらといった感じでしょうか?


ただし、相続放棄時には、『受取人(保険金受取人)』が誰になっているのかで、その結論が大きく異なってくるのです。



先に結論から言うとー

  • 『受取人(保険金受取人)』=『被相続人』の場合は相続財産になる
  • 『受取人(保険金受取人)』=『被相続人以外』の場合は相続財産にならない


元より相続財産でないのであれば、それを受け取るのに相続人か否かは問題になりません。
よって、相続放棄後であっても問題なく死亡保険金を受け取ることができるわけです。


では、なぜ、このような結論になるのでしょうか?


特にロジックなんかはありません。
保険金請求権(死亡保険金を受け取るかどうか請求する権利)は、受取人固有の権利です。
それは相続によって得た権利ではなく、あくまで保険契約時に得た権利であり、それを保険契約者の死亡後に行使しているに過ぎないわけです。


そのため、死亡保険金は被相続人の財産にはならず、保険金受取人の固有の財産とみなされることになります。


対して、保険金受取人が被相続人であった場合は、その権利(保険金請求権)自体を相続することになるのです。
相続によってはじめてその権利を得て、そこから保険金を請求する流れになると...


大きな違いですよね?
元々保険の契約で決まっていたのと、相続によって得た違いですから。


それでは、「受取人(保険金受取人)」の指定のない生命保険はどうなるのでしょうか??
たまにありますよね。

これについては、対象となる保険の約款等に左右されることとなります。


いわゆるー

  • 『受取人(保険金受取人)』=『記載なし』の場合は相続財産になるケースもならないケースもある


と、言うわけなんです。
具体的には、受取人が指定されていなくとも、相続人が受取人となる旨が約款等で定められている場合については、相続放棄をしても生命保険金を受け取ることができます。

その考え方自体は上記と同様です。
わざわざ受取人を指定しなくとも、元々保険契約自体が契約時にそうなっているので、保険金を受け取る相続人はその権利を行使しているに過ぎないとー

今はどうかは分かりませんが、昔の県民共済保険などは、確か保険証券の裏面に取得できる者を順位が記載されいたように思います(第一順位 配偶者、第二順位 同居の親族~)。
保険会社や保険の種類によってもじゃっかん異なるものと思われますので、それについては直接保険会社に問い合わせてみるのもいいかもですね。


尚、受取人が指定されておらず、保険約款等でも定めらていないケースの考え方も上記と同様です。
規定がない以上、相続人はその権利(保険金請求権)自体を相続することになってしまいます。
結果、相続放棄をするとその権利も失ってしまうと...


死亡保険金は故人が残してくれた大切な財産です。
相続放棄をしたからと言っても、もらえるものであれば忘れずに請求するようにしましょう。




2-2.税金等の注意事項について

職種的に税金については専門外なので詳しい説明は割愛させていただきますが、ここについても注意事項が存在します。

生命保険金にかかる相続税の計算方法は、保険金の受取人が相続人であるかそうかで異なってきます。
端的に言うと、相続人であれば一定額まで非課税になるわけです。


では、受取人が相続放棄をしていた場合はー


相続放棄の効果は、はじめから相続人ではなかったことになりますので、もちろん、この部分においても相続人としての扱いはされません。
結果、受領金額の全額が課税対象とるわけです。

とは言え、貰った額以上に税金が発生することはありませんので、そこまで気にする必要はないかもしれませんが、知識としては持っていた方が良いかもしれませんね。



2-3.その他、相続放棄をしても失わない権利

せっかくなので最後に死亡保険金以外に相続放棄をしても受け取れる権利の一部をご紹介します。

  • 遺族年金
  • 死亡一時金
  • 未支給年金
  • 死亡退職金


おそらく他にもあるでしょうが、僕が真っ先に思い浮かぶ有名どころを列挙してみました。
特に遺族年金や死亡一時金は、相続放棄をしても確実に受け取れるので忘れないようにしたいものです。

尚、死亡退職金については要注意です。
受け取れるケースと、そうでないケースがあるからです。
考え方は死亡保険金と同様であり、その受取人が被相続人になっている場合や、定められていない場合には相続財産に該当してしまうわけです。
いわゆる、受取人が相続人になっている死亡退職金のみ受け取れるとの理解ですね。

受け取ってはいけない権利を受け取ってしまった場合は、相続の単純承認に該当するため、相続放棄ができなくなってしまったり、既に家庭裁判所に受理された相続放棄が無効になってしまったりすることがあるため、細心の注意をもって事に当たりたいものです。




3.まとめ

今回は相続放棄は相続放棄でも、少し踏み込んだ内容をお送り致しました。


複雑な相続関係でもない限り、必要書類等、手続的な面で言えば、わりと簡単な部類に入る相続放棄ですが、その実、注意点が多く、一筋縄ではいかないこともしばしばです。
また、家庭裁判所で手続が却下されてしまうと、再度の申立てができないという大きなデメリット等もあるので、決してやっつけで行っていいものでもありません。

ほんと、何かにつけて気をつかう事が多い手続なのです。

その点からすると、相続放棄ができないと諦める前に専門家に相談すべきなのはもちろんなのですが、そうでなくとも一度は相談されるなり、手続そのものを依頼した方がよいのでしょうね。

ご注意を。


それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一