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遺言予備的遺言のすすめ
いつもお読みいただきありがとうございます。
新型コロナの影響もあってか、遺言書の需要は高まる一方のように思えます。
この度、法務局での遺言書の保管制度も開始します。
ともあれ、商売を抜きにしても、遺言書を作成する行為がもっともっと一般的なものになるのを願うばかりです。
さて、今回はその遺言書の中でも、"特にお勧めの書き方"についてのご紹介です。
当ブログの別記事でも再三再四申し上げておりますが、遺言書はただ書けばいいわけではありません。
もちろん、書かないよりは書いた方がいいに決まっています。
ただ、ちょっとした工夫を加えるだけで、それがより良いものに変わるとしたら―
<目 次>
1.もしもの事態に備えよう
遺言書で最も大事なのは、"誰に"、"何を"を相続(または遺贈)させるかと言う点です。
専門的な言い方にすると、受遺者(遺産を貰う側)と財産の特定ですね。
あくまでこれが基本中の基本です。
では、そこさえしっかりしていれば他はなんでもいいのか??
決してそんなことはありません。
本当に良い遺言書とは、基本をしっかり押さえるのはもちろんのこと、それに加えて、"もしもの事態"を想定したものであると私的には思っております。
たまに自筆証書遺言の起案チェックの依頼を受けるのですが(ちなみに初回無料サービスですので、ご希望の方は是非。)、残念ながらその辺が網羅されている遺言書は稀です。
ちょっとしたことなのですが、なかなかそこまで行き届かないと言うか何と言うか―
では、起こり得る"もしもの事態"とは具体的にどういったものなのでしょうか?
以下、その典型例とも言える事態をご紹介致します。
1-1.遺言者よりも先に受遺者が死亡した場合
一般的に遺言書は、遺言者よりも下の年代に向けられて書かれているケースが多いです。
父母が子や孫等に遺産を残すようなケースですねいわゆる。
昨今、遺言書の作成は"終活"の代表とも言えるものになりましたし、何よりなかなか若いうちから自身の親や兄弟姉妹に向けて遺言書を書かれる方はそうそういませんから(今後増えるといいですけど)。
そのため、遺言者よりも先に受遺者(遺言を貰う側)が死亡するような事態は、そんなに頻繁に起こることではないでしょう。
基本、人の寿命は年齢順ですから。
ただし―
頻繁ではないだけで、それ自体が特殊なわけでは決してありません。
病気や事故、天災、もしくはそれ以外の理由でも、若くしてお亡くなりになられる方が多く存在することもまた事実なのです。
何が起こるか分からないのもまた人生ということでしょう。
では、あまり考えたくもないことかもしれませんが、仮に遺言者よりも先に受遺者が死亡してしまった場合、遺言書の効力はどうなってしまうのでしょうか?
ちなみに、これに対する予防策が本ブログのメインテーマとなります。
1-2.対象となる遺言は無効となり、その権利は法定相続人へ
では、まずそれに対し、何の予防策も取っていなかった場合の結論をご紹介します。
端的に言うと、対象となる遺言は無効となってしまいます。
あくまでその人(受遺者)に対してのみに向けられた遺言ですので、対象そのものがいなくなってしまえばそれまでなのです。
それ以上は何ら発展もありません。
例えば、遺言者よりも先に死亡した受遺者の相続人が受遺者に代わって相続するようなことはないのです。
(原則、遺言を受ける権利は代襲相続の対象とはなりません。)
では、いったいどうなるのか??
既述のとおり、これといった予防策を取っていない以上、その遺言は無効となります。
そして、その遺言の対象となっていた遺産は、遺言者の法定相続人が相続することになるのです。
ようするに、遺言書がなかった状態と同様の状態に戻ってしまうわけです。
対象の遺言内容が無効であるならば、当然の帰結と言えるでしょう。
そのため、結果的に受遺者の相続人が相続することもありますが、受遺者の相続人とは全く異なる相続人が権利を得ることもあるわけです。
この点、勘違いされている方が殊の外多い印象があります。
いわゆる、上記のようなケースで、権利が受遺者の相続人に移るという勘違いですね。
ただ、そのロジックはわりとシンプルです。
なぜなら、遺言書には何らそんなこと(受遺者の死亡した場合はその相続人に権利が移る等々)は書かれていないからです。
あくまで遺言書は遺言者の意思を表示したものです。
遺言書からそれが読み取れない以上、受遺者側の都合で結果が変わることはあり得ません。
また、仮に遺言者の真意はそうであったとしても、もはや遺言者の死後ではそれを確かめる術はありませんからー
たったそれだけのことなのです。
尚、他にも勘違いしがちなのが、必ずしも遺言全体が無効になるわけではない点です。
あくまで無効になるのは、遺言者より先に死亡した受遺者への相続分(または遺贈分)についてのみです。
他に受遺者がいる場合には、その者に対する遺言は有効ですし、それによって何らかの直接的な影響を受けるわけでもありません。
2.予備的遺言をうまく活用しよう
ロジックがシンプルなのと同じで、これに対する解決策も非常にシンプルです。
ここで改めて上記の事例を簡単にまとめてみましょう。
- 遺言書に書かれていない事態(遺言者より先に受遺者が死亡)が起これば、遺言は無効となり、その部分の相続権は法定相続人に移る(遺言書がない状態と同様となる)
端的に言うと、遺言書に書かれていないことが原因なのです。
で、あれば、最初からそうした事態を想定し、書いておけばいいのです遺言書に。
そして、これを"予備的遺言"と言います。
もしもの事態に備えた予防策ですねいわゆる。
しかも、これ、そんなに難しいものではありません。
受遺者が遺言書をよりも先に死亡してしまった場合に、"どうしたいのか?"を表記しておくだけです。
参考文例としてはー
第●条 遺言書は、遺言者の有する次の財産を、長男である●●に相続させる。
第●条 遺言者は、前記長男●●が遺言者と同時又は遺言者より前に死亡したときは、前記●●に相続させるとした財産を、長男の子であり、遺言者の孫である●●に相続させる。
概ねこんな感じです。
尚、必ずしもこの通りに書く必要はありません。
ニュアンスが正しく伝わるかどうかが大事なのです。
事例と希望する内容にあわせて適宜変更していただければ―
たったこれだけです。
書かない手はありませんよね?
是非、遺言書を書く際には、この予備的遺言をご活用ください。
ちなみに、遺言執行者の選任部分にも、よくこの予備的遺言を活用します。
遺言執行者が遺言者よりも先に死亡した場合に、他の者を予備的に選任する趣旨ですね。
このように、遺言書はちょっとしたひと手間で、その出来が大きく変わることがあります。
遺言はあくまで未来に向けた不確定なものですので、それに応じた工夫が重要になってくるわけです。
3.まとめ
今回は予備的遺言のお話しでした。
簡単と言えば簡単なのですが、突き詰めていくと奥深いものなのです遺言書は。
書かないよりは書いていた方が良いのは間違いありません。
とは言え、書いておけば何でもいいわけでもありません。
どうせ手間をかけるのであれば、より良いものを作りましょう。
また、これだけに関わらず、遺言書には他の注意点や、お勧めしたい書き方等もございます。
それにらにつきましては、また別の機会にでも。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一