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不動産登記外国に居住している場合に、印鑑証明書や住民票が必要となったなら
いつもお読みいただきありがとうございます。
さて、今回は印鑑証明書に焦点を当てたお話しとなります。
ただし、もちろん皆さんがよく目にする印鑑証明書そのものではありません。
印鑑証明書は印鑑証明書でも、その対象が異なります。
具体的には、国内に居住する日本人ではなく、外国に居住している日本人が取得すべき印鑑証明書等につきご案内させていただく内容です。
興味のある方は是非、最後までご覧ください。
<目 次>
- 1.そもそも印鑑文化(ハンコ文化)はマイノリティ
- 2.署名証明(サイン証明)とは
2-1.署名証明(サイン証明)は2つの種類が存在する
2-2.署名証明(サイン証明)は在留証明とセットで使われることがほとんど
1.そもそも印鑑文化(ハンコ文化)はマイノリティ
ご存じのとおり、日本はハンコ文化が根強い国です。
それこそ、生活のありとあらゆる場面で印鑑が登場します。
重要な契約やそうでないもの、結婚や離婚などの身分行為にも印鑑が使用されているのは周知の事実でしょう。
そのため、テレワークの普及に際し、各メディア等でもハンコ不要論が色々騒がれていましたが、すぐにどうこうなるものではないと思われます。
それだけハンコ文化はこの国に根付いており、すぐに切り離せるほどの浅さではないからです。
ただしー
それはあくまで日本でのお話しです。
ハンコ文化は世界的にみると、少数派も少数派。
僕が知り得る限り、他にハンコ文化か、もしくはそれに近しいものがあるのは、韓国と台湾ぐらいのものでしょうか...
多数派はもちろん、「サイン」です。
クレジットカードの支払時や配達物の受領時等、一昔前に比べればサインも随分この国に浸透してきたと思います。
もはや、それに違和感を感じる人も少ないことでしょう。
とは言え、それでも重要な局面においては、まだまだ圧倒的に印鑑に分がある国です。
そればかりか、印鑑は印鑑でも、実印での押印を要求され、かつ、印鑑証明書の添付を要求されるようなケースも多々存在するのです。
そして、登記の世界では、それがより顕著になってきます。
例えば、以下のようなケースです。
- 相続手続における遺産分割協議
※相続人全員の印鑑証明書が必要となります。 - 不動産売買
※売主側は印鑑証明が必須です。買主側は住宅ローンを組む際には必要になります。 - 不動産贈与
※贈与者(あげる側)につき、印鑑証明書が必須です。 - 財産分与(協議によるもの)
※財産をあげる側に印鑑証明書が要求されます。
尚、これらはあくまで一例です。
その他、多くの登記手続において印鑑証明書が必要となってきます。
そして、ここからが本題なのですが、日本にお住まいであれば印鑑証明書を取得するのはそこまで大変ではないでしょう。
最近では土日や夜間に対応してくれるような役所もありますし、マイナンバーカードさえあればコンビニでの取得もできるようになってきましたから。
では、外国に居住している場合はどうでしょう?
既述のとおり、ハンコ文化は世界的なものではありません。
例えば、アメリカ在住の日本人が印鑑証明書を取得できるかと言えば、当然できません。
手続を完結するには、その代わりとなるべき書類を別途準備する必要があるのです―
2.署名証明(サイン証明)とは
印鑑証明書の代替書類となるべき書類―
それが、署名証明(サイン証明)です。
とは言え、想像しにくいですよね?
尚、署名証明(サイン証明)は、在外公館が発行してくれます。
具体的には、領事館、ないしは大使館の領事部で取得可能な書類です。
※その他、居住地が日本の在外公館の所在地と離れている場合等、領事が作成した署名証明(サイン証明)を取得困難な場合には、外国の公証人が作成した署名証明(サイン証明)を添付して登記請をすることも可能となります。
既述のとおり、外国には印鑑証明書がありません。
日本で取得できるような住民票もありません。
とは言え、登記手続等、無いからと言うだけでは済まない手続も多くあるのです...
取得時のイメージとしてはー
- ①対象となる本人(代理人不可)が、現地の日本領事館に出向き、領事の面前で署名証明(サイン証明)が必要な書類にサイン(もしくは拇印)を行う
※あくまで領事の面前で行う必要があるため、事前に署名等せずに該当する書類を持参しましょう。 - ②領事が①の書類に、間違いなく本人が署名したということを証明してくれる(①の書類と署名証明(サイン証明)書を綴り合わせて割り印をしてもらいます。)
これだけです。
面倒なのは間違いでないでしょうが、手続だけを見ればわりと簡単なのです。
持ち物は領事館等によっても異なるでしょうから、事前に確認しておくべきですが、日本国籍が確認できる書類(パスポート等)は必須ですのでお忘れなく。
尚、上記、署名証明(サイン証明)が必要となる該当書類はー
- 相続であれば ⇒ 遺産分割協議書
- その他の登記(売買・贈与等)であれば ⇒ 司法書士等への委任状
と、なります。
それらにサイン(もしくは拇印)し、署名証明(サイン証明)を貰うわけです。
2-1.署名証明(サイン証明)は2つの種類が存在する
外務省では、それらを「形式1」、「形式2」と表現しています。
具体的には以下のような違いがあります。
- 署名証明(サイン証明)形式1
※在外公館が発行する証明書と、対象となる本人が領事の面前で署名した書類(遺産分割協議書、登記委任状等)を綴り合わせて割り印を行うもの
ようするに、上記2でご説明した形です。 - 署名証明(サイン証明)形式2
対象となる本人の署名を単独で証明するもの
対象となる書類(遺産分割協議書、登記委任状等)と署名証明(サイン証明)を合綴する形か、署名証明(サイン証明)のみを単独で発行するのかの違いです。
尚、どちらの証明方法にするかは提出先の意向によるところが大きいです。
例えば、金融機関などに提出する署名証明(サイン証明)は形式2のタイプ(単独タイプ)で事足りこともあります。
※事案や金融機関によっても異なるので、事前の確認は必須です。
ちなみに登記手続においては、形式1のタイプ(綴り合わせタイプ)が推奨されます。
当然、僕も形式1のタイプ(綴り合わせタイプ)での取得をお願いしております。
なぜか?
単にリスクの問題です。
形式2のタイプ(単独タイプ)で登記手続ができないかと言われればそんなことはありません。
実はできちゃうのです。
ただしー
形式2のタイプ(単独タイプ)は、対象となる書類(遺産分割協議書、登記委任状等)と合綴されているわけではないので、その証明力が弱いというか、チェックする側(登記手続ではれば法務局)の判断が難しいのです。
ちなみに印鑑の場合は簡単です。
印影を確認すればいいだけなので。
では、サインや拇印は?
なかなか、それを同一と判断するのは難しくないでしょうか?
そして、それは手続を行う法務局側にも言えることです。
仮に同一性が確認できないと言われてしまったら...
結果、登記手続には、原則、形式1のタイプ(綴り合わせタイプ)が推奨されるわけなんです。
わざわざ無用なリスクを負う必要なんてないですからね。
2-2.署名証明(サイン証明)は在留証明とセットで使われることがほとんど
相続登記手続や売買・贈与等に基づく所有権移転登記手続の際、署名証明(サイン証明)と合わせて、「在留証明」なる書面の提出を求められます。
署名証明(サイン証明)が印鑑証明書の代わりなら、この在留証明は住民票の代わりです。
いわゆる、在留証明とは、外国に居住している日本人が、どの住所を有しているのか(生活の本拠にしているのか)を、その地を管轄する在外公館が証明する書類なのです。
一般的に登記手続で住民票の添付が必要になるのは、はじめて登記を受ける際や、既に登記されている住所に変更がある際などです。
売買で言えば買主名義で、相続で言えば対象となる不動産を相続した者名義で行う登記申請時ですね。
そもそも、そのような場合に住民票(住所証明書)を求められる趣旨は、虚無人名義の登記を防止するためなのです。
事実、外国に居住している日本人がそれらの登記を受ける際も、この在留証明書を添付して登記申請を行うことになります。
ただしー
それ以外のケースでも、この在留証明書を添付しなければならないケースがあります。
そうです。
それは登記手続に署名証明(サイン証明書)の添付が必要なケースです。
例えば、遺産分割協議の中で対象となる不動産を相続しない相続人については、登記申請時に印鑑証明書の提出は必要ですが、住所証明としての住民票の添付は不要となります。
なにぶん登記の名義人になるわけではないですから―
しかしながら、同様のケースにおいて、印鑑証明書に代えて署名証明(サイン証明)を添付する場合は、あわせて在留証明の添付が必須となります。
これは、署名証明(サイン証明)が印鑑証明書の代わりであっても、全く同じ効果を持つものではないことが原因です。
端的に言えば、署名証明(サイン証明)が証明してくれる部分は、印鑑証明書で言うところの実印の印影部分です。
外国の居住地を証明してくれるわけではありません(印鑑証明書は実印の印影だけでなく、住所氏名も記載事項となるため。)。
ようするに在留証明書は、その足りない部分を補填してくれる役割もあるのです。
在外公館は近くにないことがほとんどでしょう。
二度手間にならぬよう、サイン証明書を取得する際には、最低限同じ通数の在留証明書を取得するようご注意いただければ。
3.まとめ
さて、今回は外国に居住している日本人が、印鑑証明書を要する手続を行う際の諸々のご説明でした。
面倒ですよね正直。
尚、このような事態を全く回避できないわけではありません。
例えば、相続であれば遺言書を残しておくのはいかがでしょう?
印鑑証明書は遺産分割協議書に必要になるため、それ自体が必要なくなれば、サイン証明書も当然いりません。
このように抜け道(?)が全くないわけではありません。
お困りの際は早い段階でご相談いただければ、もしくは解決できることがあるかもしれません―
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一