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物語或る会社の話 ~後編~
さて、今回は『或る会社の話』の後編となります。
前編を見逃してしまった方はこちらをどうぞ。
⇒「或る会社の話~前編~/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_38/
少し実務的な内容にはなっておりますが、機関設計の変更をご検討の方は参考にしてみてください。
それでは本編の始まりです。
前回までのあらすじ
監査役であった叔母の死と幼馴染の新規会社設立をきっかけに司法書士事務所に相談に訪れた『私』。
そこで両親から引き継いだ株式会社をシンプルな構成に変更すべく、株式会社の機関設計変更手続を決意する―
2018.1.19
司法書士から連絡があり、株主総会議事録等、必要な書類ができたそうだ。
もうすぐ当社の登記申請準備も完了である。
尚、せっかくなのでここで私が行う登記の説明をしておこうと思う―
『取締役会設置会社である旨の定めの廃止の登記』
これは取締役を1名のみにするために必要となる登記である。
元々、当社には『取締役会』なるものが設置されていた。
旧会社法上、株式会社には必須の機関であったためだが、今の当社には無用の長物である。
尚、『取締役会』には取締役3名以上の在籍が必要となるのだそうだ。
故に登記上、稼業を退いた父と母がいまだに取締役として残っているわけである。
そのため仮に今、父と母が取締役を辞任したとしても、この『取締役会』を廃止しない限りは、新たに2名の取締役を迎えなければならないらしい。
それは辞任に限らず死亡した場合も同様だそうだ。
ただし、『取締役会』さえ廃止さえすれば、取締役3名以上という条件を緩和することが可能となる。
結果、取締役を1名のみとする変更ができるわけだ。
『監査役設置会社である旨の定めの廃止の登記』
これも考え方は概ね取締役会と同様である。
会社の定款で、『当社は監査役を置く~』としている以上、欠員が出れば補充の必要が生じる。
それが辞任であれ、死亡であれ、定数を満たさない限りは新たに選任する必要がある。
当社の場合もこれと同じで、監査役を置く会社である以上、死亡した叔母の代わりを選任しなければならないというわけだ。
ただし、『監査役設置会社である旨の定め』さえ廃止すれば、監査役自体を置く必要はなくなる。
結果、叔母の後任を探す必要がなくなるというわけだ。
『取締役及び監査役の役員変更登記』
これは単に上記の2つの手続に伴い役員を変更する手続である。
尚、『取締役会設置会社である旨の定めの廃止の登記』を行うことによって、既存の取締役は当然に退任することにはならないそうだ。
あくまで取締役3名以上必要という枠だけが外れるという趣旨なのだろう。
確かに取締役会という機関がなくなるのと、取締役そのものの地位は関係がないように思える。
そのため当社の場合だと、これとは別に父と母の辞任による取締役の退任登記をしなければならないというわけだ。
対して、『監査役設置会社である旨の定めの廃止の登記』は、それを行うことによって既存の監査役は当然に退任することになるらしい。
監査役自体を置かない会社になるわけだからそれも頷ける。
ただし、当社の場合はその旨の変更登記を行う以前に叔母が亡くなっている。
要は退任する原因が先に起こっているわけである。
司法書士曰く、登記手続は時系列が重要らしい。
そのため今回のようなケースでは、『監査役設置会社である旨の定めの廃止の登記』を行う行わない以前に、叔母の死亡に伴う監査役の退任の登記が必要となるということだった。
『株式の譲渡制限に関する規定の変更の登記』
株式の譲渡制限というものがある。
会社の株式が自由に売り買いされないよう、予め株式の譲渡に制限を加えるものらしい。
私自身、全然把握していなかったが、世の中の上場会社を除く大半の会社にこの譲渡制限が設けられているという。
会社の乗っ取りを防ぐ趣旨だろうか?
会社の登記簿で確認してみると、なるほどうちの会社にも次のような記載があった―
第○条 当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を要する。
もはやなんとなく分かるだろうが、今回、取締役会を廃止するため、株式の譲渡を承認する機関を変更する必要があるというわけだ。
尚、変更後の株式譲渡の承認機関は株主総会か代表取締役が多いらしいので、今回は株主総会をその承認機関とした。
以上が今回行うことにした各種登記手続の概要である。
2018.1.20
司法書士事務所を訪問し、各種書類関係に押印を済ませた。
概ね次のような書類である。
<書式>
・取締役会設置会社である旨の定めの廃止及び監査役設置会社である旨の定めの廃止、取締役及び監査役の役員変更、株式の譲渡制限に関する規定の変更、取締役の任期の変更の株主総会議事録
・叔母の死亡届(監査役の死亡届)
・父及び母の辞任届
法務局での登記手続は2週間程度で完了するらしい。
これにてようやっと私一人だけの会社に変更することができ、かつ、私の取締役の任期も10年に伸びたわけだ。
願ったり叶ったりとはこのことだろう。
ただし、司法書士の話を聞く限りは、これにてすべての憂いがなくなったわけでもなさそうだった―
確かに自分で望んでいた以上に会社はすごくシンプルなものになった。
とは言え、まだまだ注意すべき点があったのだ。
それは会社の株式の問題である。
当社の株主は1名である。
そしてそれは私ではなく創業者であり前代表者である父なわけだ―
たとえ役員を退いたとしても、株主がそれによって変更するわけはない。
今後も父が会社の株主であり続けるというわけだ。
ではどうするべきなのだろう?
必ずしも今の状態がまずいというものではないし、何らかの手段を講じなければならないわけでもないらしい。
事実、似たような状態の会社は世間に数多くあるという―
知識として知った上で何もしないという選択はあるが、まず状況を理解すべきということだろう。
では、想定される問題点は?
これが第三者であれば、会社の売却や合併などを心配するところであるが、父に限ってそれはない。
あるとするならば、父が死亡した際の相続の問題である。
株式も相続の対象になる―
対応策としては株式の生前の贈与があるそうだが、会社の状況によっては贈与税の問題がある。
話を聞く限り、父の引退時にすべき手続だったのだと思う。
ただし、それを今更どうこう言っても仕方ない。
株式についても、『贈与税の納税猶予の特例』などがあるらしいので、これからじっくり検討すればいいわけだ。
ともあれ司法書士から税理士を紹介されたので、今度、株式の贈与についての相談に行ってみることにしよう―
そう言えば、幼馴染の会社設立も無事に終了したそうだ。
会社をやっている以上、司法書士には色々世話になることも多いだろう。
彼ともども今後も良い付き合いをさせてもらおうと思っている。