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遺言

遺言の効力に関するあれこれについて

さて、今回は遺言の効力についてのお話です。

世間では俗に言うところの『終活』が盛り上がりをみせ、多種多様な遺言書が作成されていますが、実際にそれを使用する段階になると様々な問題に直面することがあります。


そのため当ブログでは、遺言書の作成方法というよりかは、遺言の効力にスポットを当て注意点等を検証してみることに致します。


目 次

1.遺言の効力発生時期

そもそも遺言の効力はいつ生じるのか?


わりと勘違いされやすいのですが、遺言書は"書かれたとき"に効力が発生するわけではありません。
あくまで遺言者(遺言を行った人)が"死亡したとき"にその効力が生じるのが原則なのです。

いくら法的に有効な遺言書であっても、遺言者が亡くなるまでは手紙とそんなに変わりありません。
ただし、だからと言って本人以外の人物が遺言書を破り捨てるような行為は大きな問題になってしまいますので、大事に扱うようにはしてください。


効力が発生していないだけであって、遺言書であることに違いありませんから―


そのため、たとえ遺言によって全財産を取得する予定の者であっても、遺言者の生前には何ら具体的な権利を持ちません。
もちろん相続できる期待権みたいなものもありません。


遺言者が亡くなってから初めて生じる権利というわけなのです―


ただし、それに対する例外もあります。
例えば遺言者が遺言に何らかの条件を付けたようなケースです。

そのようなケースでは、死亡時ではなく、例外的に遺言者の死亡後その条件が成就した時から遺言の効力が生じることとなります。

遺言の効力発生が後ろにズレるわけです。
条件を付けたとしても遺言の効力が死亡以前に発生するわけではありません。


ここで該当する民法の条文を見ておきましょう。

第985条(遺言の効力の発生時期)
1.遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2.遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。


繰り返しになりますが、あくまで遺言者の死亡以前には何ら遺言の効力が発生しない点、ご注意ください。


2.受遺者が遺言者よりも先に死んでしまった場合の遺言の効力

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遺言を受ける側のことを"受遺者"と言います。
書いて字のとおりですね。


せっかく遺言を残しておいても、その受遺者が遺言者よりも先に死んでしまうことがあります。
特に配偶者など、遺言者と年齢の近い人物に対して遺言を残す場合などは、どうしてもそうした可能性が高まってきます。

それ自体、なにも珍しい話ではないですし、致し方ない話です。


むしろ問題は、このような場合に遺言の効力はどうなってしまうのか?と、言う点でしょう。

僕の知る限り、人間の正確な死期などは誰にも読めません。
だからと言って、単にしょうがないと捨て置ける問題でもないでしょう。


これによって―

  • 遺言は全くの無効になってしまうのか?
  • それとも何ら遺言の効力に影響はないのか?
  • もしくはその他の可能性があるのか?

とても気になるところです―


2-1.遺言はその効力を失うことが原則

まずは結論から。

  • 原則、遺言者よりも先に受遺者が死亡した場合、遺言はその効力を生じません―


なんと、効力が生じないのです。

たとえ、夫が妻に全財産を残す遺言を残していたとしても、夫より先にその妻が死んだ場合にはなかなか遺言どおりにはいきません。

受遺者が相続人であり、かつ、特段の事情でもない限り代襲相続も起きません。
(この点につき、色々争いはありますが、あくまで現時点ではよっぽどのことがない限り、代襲相続も起きないとの認識で問題ないかと思われます。)

あくまで遺言は受遺者である妻に対してだけの権利であり、義務であるという考え方なわけです。


では、遺言の効力が生じない場合、遺産は誰が相続することになるというのでしょう―


結論からすると、特別な事は何も起きません。
遺言の効力が生じない以上は、民法に定められたとおりの結果になるだけです。
仮に遺言書が無かった場合と同様の結果とでも言いましょうか―

通常どおり法律で定められた割合で各相続人が相続するだけです。

そのため、このようなケースで受遺者が相続人以外の第三者であった場合などには、受遺者の相続人は、遺言によって何ら得ることはありません。


このように、受遺者が遺言者よりも先に死亡してしまうと、せっかくの遺言書が無駄になってしまうことがあるというわけです。



ただし、それはあくまで"原則"の話です。
だからと言ってすべてが駄目になると結論付けるのは性急過ぎます。


なぜならこれについても"例外"があり、遺言に少しの工夫を行うだけで不利益を回避することができるのです―
また、この辺が遺言を作る側の腕の見せ所でもあります。


  • 遺言者よりも先に受遺者が死亡した場合、遺言はその効力を生じないのが原則ですが、例外として、遺言者がその遺言に別段の意思の表示を行ったときは、その意思に従うこととなります―



少し内容が難しくなってきましたね。
ここで言うところの別段の意思がどんなものなのか?
それについては、遺言の例文にて説明させていただきます。

例えば―

第○条 遺言者は所有する財産のすべてを遺言書の妻である〇〇に相続させる。ただし、仮に遺言者より先に妻である〇〇が死亡した場合は、遺言書の甥である〇〇に遺贈する。


赤字部分が別段の意思に該当します。
第一希望と、それが叶わなかった場合の第二希望を表示するような感じです。

これにより本来であれば夫より先に妻が死亡した場合は遺言書の効力が生じないところ、別段の意思として甥へ遺贈する旨があるため、第二希望としての遺言の効力は無効にはならず、そのまま維持されるというわけです―

尚、上記の場合、別段の意思がなければ、原則どおり子供がいれば子供がその権利を相続することとなります。


ちょっとした工夫ではありますが、これが有ると無いとでは全く異なる結果になることもありますので、是非、活用ください。


3.遺言者の死亡後、相続手続完了前に受遺者が死亡してしまった場合の遺言の効力

上記とはケースが異なります。
受遺者が遺言者より先に死亡したわけではありません。


相続手続を放置してしまったため、遺言者の後に受遺者も死亡してしまったというものです。


この場合、遺言の効力自体に問題が生じることはありません―
遺言の効力は、遺言者の死亡によって発生することは記述のとおりです。

ようするに既に遺言の効力が発生している状態なわけです。
このケースではただ単に相続手続を行っていないだけに過ぎません。


結果―
受遺者が遺言によって一度得た権利を、受遺者の相続人が更に相続するだけです。

それによって遺言の効力が損なわれるわけではありません―


4.複数の遺言があった場合の遺言の効力について

遺言書が複数あることは、そこまで珍しいことではありません。
実際に僕自身、何度かそのような案件をこなしてきました。


遺言者も人間です。
気がかわることもあるでしょう。

もしくは財産内容が変わったのかもしれません。
家族と喧嘩になったり、逆に仲直りをしたりしたかもしれません。

理由は人それぞれでしょう。


そのため、ここでは遺言が複数見付かった場合の取り扱いや、各種注意点等についてのご案内させていただきます。


4-1.新しい遺言が優先されるが古い遺言にも注意が必要

古い遺言と新しい遺言―

優先順位という観点で言うなら、もちろん新しい遺言が優先されます。


それもそのはずです。
遺言者は何かしら理由があったからこそ遺言書を書き直したのでしょうから。

それなのに古い遺言が優先されてしまっては、遺言者の意思に反しかねません。
常に優先されるべきは新しい遺言というわけです。



とは言え、そうなってくると一つの疑問が残ってしまいます―


  • 古い遺言はすべて無効になるのか?


結論からすると、新しい遺言の内容次第となります。
すべて無効になることもあれば、すべて有効になることだってあるのです―



ポイントは"古い遺言と新しい遺言に抵触する部分はないか?"という点なのです。


既述のとおり、考えた方のベースとなるのは新しい遺言です。
ただし、だからと言って、必ずしも古い遺言のすべてが無効になるとは限りません。

新しい遺言の内容に抵触しない部分、もっと言うと、矛盾が生じない部分については、いくら古い遺言と言えどもそれを無効にする根拠がありません。


あくまで、新しい遺言内容と古い遺言内容とが抵触する部分についてのみ、古い遺言が無効になるという趣旨なのです。

例えば―


(古い遺言内容)
第○条 遺言者は末尾記載の遺産目録中、不動産については妻である〇〇に、預金については長男である○○に相続させる。

(新しい遺言内容)
第○条 遺言者は末尾記載の遺産目録中、預金については長女である○○に相続させる。


この場合、新旧の遺言で抵触する部分は、預金の相続者です(赤字部分)。
そのため、古い遺言中、長男に相続させるといった部分のみが無効となるわけです。
尚、新しい遺言の方では不動産について誰に相続されるかの記載がありませんが、古い遺言の効力が残っていますので、この場合だと原則どおり妻が不動産を相続することとなります。

・注意事項として―

<遺言を受ける側>
遺言書が複数ある場合はすべての遺言内容を吟味し、どの遺言内容が有効で、どの遺言内容が無効になるのかを判断する必要があります。古い遺言だからと言って、間違って処分等しないように気を付けましょう。

<遺言をする側>
遺言書を書き直したからと言って古い遺言書が必ずしも無効になるわけではない点に注意しましょう。
遺言の全部または一部を撤回することが目的の場合は、新しい遺言の中で古い遺言の全部または一部を撤回する旨を内容にすれば古いの遺言は撤回したものとみなされます。自筆証書遺言の場合は単に古い遺言書を破棄してしまえばいいでしょうが、公正証書遺言の場合だと公証役場に原本が保管されていますので、それだけでは足りない事がしばしば―
遺言の撤回にはご注意を。




5.遺言と異なる内容での遺産分割協議の可否について

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遺言とは異なる内容で行う相続人間の遺産分割協議の効力は?


実務上ではよく問題となる部分です。
遺言者の想いと、受遺者の想いは必ずしも一致するとは限らないからです。


結論からすると、一定の条件を満たす場合にのみ、遺言とは異なる内容での遺産分割協議が認められています。

その条件とは―

  • 相続人全員の同意(遺贈がある場合は受遺者の合意も含む)
  • 遺言執行者が定められている場合はその者の同意
  • 遺言で遺産分割協議の禁止がなされていないこと


これらをすべて満たしてさえいれば、遺言と異なる内容の遺産分割協議も法的に有効となります。

それらについて簡単に説明しますと―

  • 相続人全員の同意は常に必須です。
    そうでないと遺言で相続人間の争いを防ぐ意味合いが失われてしまいます。
    また遺言は親族以外の第三者に対しても有効ですので(遺贈)、そのような対象者がいる場合には、相続人だけではなく、その者の同意も必須となります。


  • 相続人等とは意味合いが少し異なってきますが、存在する限りは必ず遺言執行者の同意が必要となります(遺言施行者が定めれていなければ当然同意も不要です。)。
    遺言執行者は遺言内容を実現する責務を負っています。
    にもかかわらず相続人の同意だけで遺言内容が自由に改変可能とするならば、その存在意義を失いかねません―
    結果、遺言内容と異なる遺産分割協議を行うには、必ず遺言執行者の同意がいるというわけなのです。


  • 相続人等が遺産分割協議で遺言内容を変更しないよう、遺言で遺産分割協議の禁止を定めることができます。
    これがある場合は、当然ながらその意思が最優先されますので、たとえ関係者全員の同意があっても遺言と異なる内容での遺産分割協議はできなくなります。
    相続人等により後の遺言内容の変更を望まない場合は、うまくこれを活用すると良いでしょう。



あくまで基本は故人の意思たる遺言を尊重すべきです。
遺言書の存在を見て見ぬふりをしていいわけでは決してありません。

その上でどうしても異なる結果を望むのであれば、上記の一定の条件をすべて満たした、法的に問題のない遺産分割協議を行うようにしましょう。



6.遺言の効力のまとめ

遺言は正しい知識を有していないと、効力自体が生じなかったり、全く意図しない結果になってしまったりすることさえあります。

簡単そうに見えて、結構、注意すべき事項は多いのです―


そのため、遺言書の作成や遺言書がある場合の相続登記手続等は、なるべく司法書士等の専門家に手続を依頼することをお勧めします。


尚、司法書士九九法務事務所ではそれらについても、随時、無料相談を実施しております。

独力で行われることを否定するわけではありませんが、まずはそれをうまく利用してみてはいかがでしょうか?

それでは今回はこの辺で。