平日9:00〜20:00(土日は要予約)

ブログ

その他

登記実務には西暦ではなく元号が使われます


いつもお読みいただきありがとうございます。


元号が変わるまで1カ月と少し。
発表に至っては数日です。
天皇の生前退位など頻繁に起こり得るものではないため(歴史を紐解くと、かなり昔に事例はあるそうです。)、多くの業界に影響が出ているようにも思えます。


ちなみに我々司法書士の業界でも、少なからず影響が出てきていますし、それは今後もしばらく続くことでしょう。
おそらく、司法書士以上に元号を使用する職種はそうないと言い切れるほど、意外と関わり合いが深いものなのです。


そのため、今回はこの機会を活かし、普段はあまり脚光を浴びないであろう"元号と登記実務"の話とさせていただきます。


それが面白いかどうかは...分かりません。


それでは、本編のはじまりです―




<目 次>



1.西暦と元号はどちらが一般的?

ffd07fd7fb9e33595d4cab123a9f6890_m.jpg

西暦と元号―


どちらを使うのが一般的かと問われると、今や西暦の方が一般的と答える人が増えているかもしれませんね。
特に若い人や諸外国に触れ合う人程、その傾向が強いようにも思えます。



結論からすると、おそらくこの問いに対する正しい答えはないでしょう。



戦前であれば間違いなく元号が一般的だったのでしょうが、もはやその境界は曖昧になってしまっています。

尚、以前に僕がそれとなく持っていたイメージは、"一般的な書類には西暦"で、"真面目な書類には元号"が無難といったものでした(履歴書なんかは、使い慣れていない元号を書いていたような記憶があります。)。


ただし、そんな僕でも、今では西暦を使うこと自体がほとんどありません。
日常的に使用するのはほぼ元号のみです。


2018年だっけ?2019年だっけ?
と、迷ってしまうこともしばしば―


それは元号の方が一般的だという結論を持っているからではなく、単に一種の職業病のようなものなのです。
なぜなら役所等への公的機関への提出書類は元号で作成すべきものがほとんどですし、その対象が法務局や裁判所ともなると―


結果、西暦を使用する頻度が激減し、あくまで僕の中では元号が一般的なものになっただけの話なのです。


このように、西暦や元号がその人にとって一般的かどうかは、年齢や職種によって大きく左右されるわけなんです。





2.不動産登記は元号しか使えない?

dcb7101a1241429ec6c1ca1d36d60dc3_s.jpg


法務局での登記業務全般に言えることですが、特に不動産登記における元号へのこだわりは強いものがあります。

たとえ登記の申請書や添付書類に西暦で日付を記載していたとしても、登記される日付は多分に漏れず元号表記となります。
※外資系の銀行などは、抵当権の設定契約書や委任状などの日付を西暦表記にしてくることがありますが、それが補正対象になったりはしません。元号表記に読み替えられて登記されるだけです。




例えば、不動産の売買に基づく登記を行ったとしましょう―


  • 平成31年3月1日 売買


    とは、登記できても―


  • 2019年3月1日 売買


    とは、登記できないのです。


一般的にうんぬんの話ではなく、登記事項中に西暦を用いること自体ができません(書類ではなく、あくまで登記事項の話しとなります。)。
少なくとも僕が知る限り、不動産登記で西暦表記できる事例は一つもありません。


ちなみにその根拠となっている依命通知があります。
(僕が産まれる1年前に出されたものが、今もまだ生き続けていると言う...)
以下、参考までにご紹介します。


<元号法の施行に伴う登記及び供託事務の取扱いについて>
(昭和五十四年七月五日付け法務省民三第三、八八四号法務局民事行政(第一、第二)部長、地方法務局長あて民事局第三課長、 民事局第四課長依命通知)

(依命通知)元号法(昭和五十四年法律第四十三号) が昭和五十四年六月十二日から施行されたが、右法律の施行後における登記及び供託に関する事務については、左記により取り扱うのが相当であるので、この旨貴管下登記官及び供託官に周知方取り計らわれたく、命により通知する。

一 不動産登記関係
登記の申請書及びその添付書面中、日付けの記載として西暦を用いても差し支えないが、
登記簿に日付けを記入するときは、 すべて元号を用いること。
二 商業法人登記関係
(1)甲号事件の取扱いは一と同様である。なお、登記事項が登記用紙と同一の用紙に記載され、 日付けの記載として西暦が用いられている場合において、これを登記用紙として用いるときは、商業登記規則第四十八条に定める方法により、 日付けの記載を元号を用いて書き改めるものとする。
(2)提出された印鑑紙中日付けの記載として西暦を用いている場合でも、そのまま受理して差し支えない。
(3)各種の証明の申請書及び証明を請求する事項を記載した書面等中、 日付けの記載として西暦を用いている場合であっても、これが登記簿の記載と実質的に一致するときにはそのまま証明して差し支えない。



慣れていないと詳細については分かりにくいことばかりだと思いますが、要点は赤字部分に尽きます。

これは登記簿(登記事項証明書)に記載される日付は、すべて"元号"になるという趣旨のものなのです。




3.商業登記では西暦を使用できるケースもある?

上記の依命通知を読む限りは、商業登記においても一切西暦を用いることができないようにも思えます。


結論からすると、不動産登記同様、原因となる日付に西暦を用いることはできません。


イメージし易いところで言うと、会社の成立年月日ですね。
会社の設立登記を行ったとしましょう―



  • 平成31年3月1日設立


    とは、登記できても―


  • 2019年3月1日設立


    とは、登記できません。



以前に外国会社の営業所設置の登記については、西暦で登記できるような話を耳にしたことがありますが、おそらく今は無理なのではないでしょう(あるいは法務局によって異なる判断がされる可能性もゼロではありませんが...)。

そのため、商業登記においても、原則どおり登記の原因日付は元号が用いられると判断してしまっていいと思います。



では、それに対する例外は??


もはや、例外と言うよりかは屁理屈の部類に入ってしまうかもしれませんが、あるにはあります。


登記の原因日付としてではなく、文章中に西暦が入るような場合です。


商業登記では不動産登記とは異なり、登記の内容を表記する意味合いで、その旨の文章が登記されることがあります。
新株予約権などがイメージし易いでしょうか?

その文章中で西暦を表記することは、昭和54年の依命通知にも反していませんし(登記日付としての西暦ではなく、あくまで文章中の表現であるため。)、僕もそうなっている実際の登記簿を目にすることがあります。



まあ、原因日付として登記できない以上、だからなんだと言われればそれまでなんですが...一応、あるにはあるという話でした。




4."元年"とすべきか"1年"とすべきか

1488ca2bef58a83979da940fbbc8e8df_m.jpg

新元号への変更に伴い、本年の5月1日からは、"〇〇元年5月1日"となります。
そもそも"元年"とは何なのでしょう?


元年について調べてみると、次のような内容になっていました。


1.天皇即位の最初の年
2.年号の改まった最初の年
3.ある物事の出発点となるような年

※出典 デジタル大辞泉



なるほど、と言う感じですね。
では、実際に使用するのであれば、"元年""1年"、どっちにすべきなのでしょうか?


僕なりに色々調べてみましたが、明確な答えを探し出すことはできませんでした...
おそらくこれに法的な根拠はないはずです。


ようするに、どちらでもいいと言うことになります。



ただしー


何をどう考えてみても、"元年"を使用する方が無難ですし、一般的です。
平成生まれの方には馴染みがあまりないかもしれませんが、"平成1年"と表記されるところはごく一部を除いてほぼありませんでした。


一般的だったのはあくまで"平成元年"です。


ちなみに戸籍事務についても使用されているのは"元年"です。
戸籍の生年月日等には平成元年と表記されます。


尚、例外である、ごく一部とは―


そうです。
登記実務です。


例えば商業登記では、『〇〇元年』ではなく、『〇〇1年』と表記されます。
会社の設立年月日が、『〇〇1年~』となるわけです。


特にその取扱いが変わったような話は聞かないので、おそらく今回も会社設立年月日は『新元号1年~』となるのでしょう。


詳細は追ってご報告させていただきます。




5.まとめ

本題からは少しずれてしまうかもしれませんが、新元号が適用となる今年の5月1日付で会社の新規設立を希望される方が増えるのでは?と、思っています。


事実、そうした問い合わせがないわけでもありません―


記念になりますしね。
発想は悪くはないと思いますよ。


ただし、冷静になってよく考えてみてください。


その日は―


祝日です。
法務局がやっていません。


会社の設立年月日は、登記の申請日です。
法務局が閉まっている以上、今年の5月1日を会社設立日にすることはできません。

ゴールデンウイークが明ける5月7日が、新元号で会社設立登記ができる最速の日となります。


その点、ご注意を。



では今回はこの辺で。


write by 司法書士尾形壮一