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債務整理支払督促を利用する前に確認しておきたいこと
いつもお読みいただきありがとうございます。
新元号が発表されましたね。
"令和(れいわ)"と読むそうです。
どうやら従前からの予想どおり、日本の古典(万葉集)から引用されたそうです。
色々な所で予想キャンペーンを目にしましたが、はたして正解者はいたのでしょうか?
あくまで私的には、割としっくりくる元号です。
昭和生まれだからかな??
さて、そろそろ本題に入らせていただきます。
新元号とは全く関係ありませんが、今回は"支払督促(しはらいとくそく)"という手続についてのお話しです。
金銭等の支払いを求める簡易な訴訟ですねいわゆる。
その知名度の割には、手続の詳細や注意点等が知られていないようにも思えます。
そのため、今回は支払督促を提起する側の、次回は逆に提起される側の、各種注意点等をお送りさせていただく予定です。
<目 次>
1.支払督促とは
支払督促は、非常に簡単でいて便利な制度であると言われています。
確かにそう言われるのも頷ける特徴を持った手続ではありますが、実際のところはどうなのでしょうか?
まずは、その意味から―
支払督促とは、裁判所を介して債務者(お金を借りている側)へ金銭等の支払いを行うよう督促する旨の手続きです。
なるべく簡単に説明をするならば、概ねこのような感じになります。
とは言え、なんだ、"催促"をするだけかと侮ってはいけません。
支払督促は、れっきとした裁判手続ですし、手続が確定すれば通常訴訟と同様の効力が生じる強力な手続なのです。
どうしても少し難しい言い回しになってしまいますが、支払督促の手続後、2週間以内(※)に債務者からそれに対する異議の申立(これを"督促異議"と言います。)がされなければ、それに基づく強制執行すら可能となるためです(具体的には仮執行宣言付支払督促というものが付与されることになります。)。
※裁判所から送付されてくる支払督促の封筒が送達されてから2週間以内と言う趣旨です。
いわゆる確定した支払督促をもって、預金口座の差押えや、給与差押え等を行うことができてしまうわけなんですー
ちなみに支払督促はどのような訴訟内容であってもいいわけではありません。
あくまでその対象は、"金銭債権"に限られてしまいます。
その代表例としては―
貸したお金が約束どおり返ってこないような場合(貸付金債権)や、商品の代金が支払われていないような場合(売掛金債権)、勤務先から給料が支払われない場合(給料債権)などが挙げられ、これらの支払いを求める際に、支払督促制度が利用可能なわけです。
このように対象は金銭債権に限られるにしても、十分に使用範囲は広いと言え、多くのケースで重宝しそうではありますが...果たして。
続いてメリット・デメリットを検証することにしましょう。
1-1.支払督促のメリット・デメリット
まずは、そのメリットから―
<支払督促のメリット>
- 手続が簡易
※通常訴訟とは異なり、証拠を提出する必要すらありません。そればかりか、裁判自体が開廷されることもなく、もちろん裁判に出席する必要もありません。ある意味、書式に沿って申立書を作成するだけなのです。 - 手続が迅速
※裁判所が相手方(債務者)の意見を細かく聞くこともありませんので、通常訴訟のように長い期間を要すことがありません。 - 手続費用が安い
※裁判所に納付することになる収入印紙の額は、通常訴訟の半分で済みます。
こうやって列記してみると、良いことばかりのように思えますよね。
別に脚色してるわけではありませんよ。
実際にそうなんです。
あくまで支払督促がはまればの話しですが...
ちなみに僕自身は、顧客からの依頼で支払督促を行うことはそう多くありません。
おそらく、それは僕だけではなく、他の専門家の方もそうなのではないでしょうか?
もちろん、裁判所書類作成のみのご依頼の場合や、依頼者がどうしても望む場合などには手続を行うこともありますし、決してそれ自体が悪い制度だと思ってるわけでもありません。
単にそのデメリットを考えた際に、あまり顧客のためにならないのでは?と、自分なりに判断しているからなのです。
それでは、そのデメリットとは―
<支払督促のデメリット>
- 相手側(債務者)の異議(催告異議)だけで支払督促は効力を失ってしまう
- 支払督促後の通常裁判は、相手方の住所地を管轄する裁判所で手続を行う必要がある
大きなメリットの裏返しとでもいいましょうか―
たしかに支払督促は、簡易な手続で費用も安く時間もかかりません。
しかし、あまりに簡易過ぎて、手続時に証拠の確認もされず、相手方の意見を聞くこともありません。
その結果として―
支払督促を受けた相手方としては、支払督促の送達を受けてから2週間以内に催促異議を提出するだけで、支払督促自体を無効にすることができてしまうのです。
加えて、手続が簡易な分、"異議"自体も簡易に済んでしまいます。
極端な話、"異議"の理由は問われません。
仮に請求されている内容に反論する余地がなくとも、ただ単純に異議を出すだけで支払督促を無効にすることが可能なのです。
その後、引き続き金銭債権の回収を目指すのであれば、通常訴訟による他ありません(厳密には催促異議が出された時点で支払督促は無効となり、通常訴訟に移行することとなります。)。
ある意味、大きな無駄に、遠回りに、なってしまう可能性があるわけです。
また、状況次第では、もう一つの点も大きなデメリットになってしまうことがあります。
通常、裁判は原告または被告の住所地を管轄する裁判所で行われます。
とは言え実際は、原告にとって都合が良い原告の住所地を管轄する裁判所で行われることがほとんどでしょう。
なにせよっぽどの事情がない限り、近いに越したことはないでしょうから―
しかしながら、支払督促後の裁判はそうはいきません。
なぜなら、支払督促後の裁判は、必ず相手側(被告)の住所地を管轄する裁判所で手続を行わなければならないからです。
想像してみてください。
仮に相手側が県外など遠方に住んでいる場合などには、最悪、何度も遠方の裁判所に足を運ばざるを得ないことも...
なんとなくでも伝わりましたでしょうか?
簡易で便利なはずの手続が、異議一つでむしろ時間と費用の無駄になってしまうことがあるのです。
結果、僕なんかは始まりの時点で、依頼者に通常訴訟をおすすめすることがどうしても多くなってしまうわけです。
1-2.支払督促に向いているケース
そうなってくると次に興味が生じる点はここなのではないでしょうか?
支払督促はわりと有名な手続です。
その詳細までは知らなかったとしても、耳にしたことがある方は多いはずです。
で、あれば世間での使用頻度も...
実際、少なくはありません。
僕自身、よく目にしています。
支払督促に向いているケースはたしかに存在するのです。
そのため、ここではその具体的な事例を紹介させていただくことにしましょう。
・その趣旨をよく理解した上で行う場合
支払督促は、弁護士や司法書士に依頼せず独力で裁判所の手続を行いたい方に向いている手続とも言えます。
なにせ手続自体が簡易ですから―
催促異議によって通常訴訟に移行してしまい、自身の手に負えないようだったら、そこから専門家に依頼すれば良いとも考えられなくはありません。
もちろん、そうなってしまうと結果的に時間も費用も無駄になってしまいますが、それをしっかり理解した上であれば、十分に有用な手続であると言えるでしょう。
例えば、借金額に争いがなく、単になかなか支払ってくれない場合や、有利な証拠があり、訴訟になっても確実な勝算がある場合などには、相手側もなかなか異議を出しにくいとも考えられますから。
大事なのは、仮に催促異議を出された場合をよく理解した上で手続に臨むことです。
その上であれば、必ずしも独力で行う必要はなく、当初から専門家に支払督促手続を依頼することもありと言えるでしょう。
・複数の相手側に対して頻繁に訴訟を起こす機会がある場合
ちなみに、これはあまり個人の方には関係のない話になってしまいます。
支払督促の利用頻度が高いのはなぜか?
適したケースとしてもそうですが、それに適した利用者が存在するからなのです。
それについての統計があるわけではありませんが、支払督促という制度を頻繁に利用している"個人"ではなく、ある一定の"法人"です。
いわゆる消費者金融(サラ金業者)、信販会社、債権回収業者、電話会社などがこれに当たります。
各社に共通することは、複数の顧客に対して滞納金等を請求する機会を多く持つ専門業者である点です。
このような業者は、未払い等が生じる機会もそうでしょうが、訴訟件数も非常に多く、いちいちそのすべてを通常訴訟によるのは大きな手間になってしまいます。
また、なにより訴訟費用もばかになりません。
そこで支払督促なのです―
仮にそのうちの何件かで督促異議を出されたところで、大きな痛手にはなりません。
元より勝ち戦でしょうし(実際に借りたもの、利用したものを返せと言う裁判ですから。)、むしろ相手方を裁判所という公的な話し合いの場に引っ張り出せた時点で得だとすら言えるからです。
また、何も滞納金の回収のみがその目的とも限りません。
支払督促は、借金等の時効の完成を阻止する趣旨で、利用されていることも多々あるからです。
そうした業者にとっては、簡易でいて安価にそれが達成できる支払督促はまさにうってつけの手続と言えるでしょう。
このように支払督促は、日常的に訴訟機会がある専門業者にはかなり有用な手続です。
むしろ、そのために作られた制度ではないかと思う程に...
2.まとめ
今回は支払督促を実際に利用する上での注意点等を中心にお送りしました。
ちなみに次回は、支払催促を起こされた場合にどうすべきか?をテーマに記事を書かせていただこうと思っています(むしろ、こっちが本題です。)。
是非、そちらも合わせてお読み下さい。
それではこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一