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不動産登記

権利証(登記識別情報)を紛失しまった場合の手続


いつもお読みいただきありがとうございます。


今回は権利証を紛失してしまった場合の手続についてお送り致します。
権利証シリーズ第3弾となります。
過去にお送りした第1弾と第2弾の記事もあわせてご覧いただければ、より理解が深まるものと思われます。



「権利証?登記済証?登記識別情報?いったいどれが正しい??/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_101/



「権利証の必要性とその使途について/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_103/


権利証なんて、そうそうなくさないでしょ??

そう思われるかもしれませんが、実際になくしている方は多いです。
意外なくらいに多いです。

厳密には、なくしたと言うよりは、どこにしまったのか分からなくなってしまったのでしょうね。
では、仮に権利証をなくしてしまった場合は、いったいどのような手続が必要となるのでしょうか?


※2020年4月1日の法令改正(犯罪による収益の移転防止に関する法律の一部改正)を受け、本人確認資料としてのパスポートの取扱いに変更がありましたので、それを踏襲した内容に更新しております。

<目 次>




1.権利証を紛失してしまった場合はどうすればいいのか?

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いくら大切な書類とは言え、物である以上はなくしてしまうこともあるでしょう。
基本的には使用頻度がかなり少ない書類ですので、そうなってしまうのも十分理解できます。


では、権利証がなくなってしまった場合は、いったいどうなってしまうのでしょうか?



結論からすると―


余計な手間やお金、もしくはその両方がかかってしまいます。
犯罪性がない以上、それだけです。


少なくともー


  • 不動産を売却できなくなるようなことはありません
  • 所有権を証明できなくなるようなこともありません(既に登記されていますから)



その効果自体は意外になんてことはないのです。


だからと言って、なくしていいわけでは決してありませんよ。
あくまでなんてことないのは、犯罪性がない場合の話ですから。


もちろん、なくさないに越したことはありません。


では、続いて権利証紛失時に増えてしまう手間についての話を少し―





1-1.権利証をなくした場合の3つの代用方法

権利証がないという事は、第2弾記事でご説明した3点セットの内、その1つが欠けることになってしまいます。
もちろん、そのような状態のままで登記ができるわけはありません。

そのままでは法務局による本人確認も意思表示も完結できませんから―



  • 権利証の再発行ができないのか?




おそらく、最初に頭に浮かぶ解決案なのではないでしょうか?

しかしながら、いかなる理由であろうと、権利証の再発行はされません。
単なる紛失であっても、窃盗であっても、もしくはそれ以外の理由であっても、元より権利証の再発行という手続自体が存在しないのです。


結果、権利証が不足している状態を何かしら方法で補う必要が生じるわけです。
具体的には、以下の3つの手続に限定されます。


  • 事前通知
  • 資格代理人(司法書士)による本人確認情報の作成
  • 公証人による本人確認



それぞれいったいどのような手続なのか―

順を追って説明していくことにします。




2.事前通知制度による権利証の代用

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"事前通知制度"


聞きなれない単語だと思いまが
、まずは対応する条文を紹介します。
ちなみに今回は民法ではなく、不動産登記法という法律です。



不動産登記法第23条
1 登記官は、~(略)~、登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない
この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。




尚、この赤字部分の登記官による通知が事前通知と呼ばれるものです。
とは言え、さすがにこれだけでは伝わりにくいと思うので、もう少し簡単に説明させていただきます。



ここで言いうところの事前通知制度とは―



紛失等の理由で権利証が必要にも関わらず、登記申請時にそれが添付されていない場合に、登記官が登記義務者(売買であれば売主)に対して、登記申請があった旨と、それが(売却の事実)本当に間違いないのであれば)、一定の期間内(2週間)にその申し出をすべき旨を書面で通知することで、本人確認をする方法です。



これでなんとなくイメージはできるのではないでしょうか?
ようはなりすまし防止ですね。



本来は本人しか持ちえないはずであろう権利証で確認すべきところを、事前通知という手続でそれを補っているわけです。


正直なところ、便利ですし、簡単です。


ただし、万能かと言われるとそうでもありません。
ある意味、事前通知制度には大きな欠点があるので、実際に利用されるケースは限られてきます。

はたして、それはどういったものなのでしょうか―




2-1.事前通知制度の注意点等

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法務局から送付されてくる事前通知は、
本人限定受取郵便等の確実な郵送方法(転送不可郵便)によってなされます(法人の場合は書留郵便等)。

それ自体に大きな問題はないのですが、これをしっかり受領し、そこから2週間以内(法務省令で定める期間)に法務局に送り返す必要があるのです。



では、仮にそれに間に合わなかった場合はどうなるのでしょう―



なんと、既になされている登記申請が却下されてしまうのです(実際には間に合わないと分かった段階で取り下げるケースが多いでしょうが...)。
登記申請が却下されてしまうと、登記の添付書類すら戻ってきません。




だったら全部最初からやり直せばいいだけなのでは??




その通りなのですが、通常、権利証を用いる機会は、売買や住宅ローンの借換え時などです。
そうそう簡単にはいきません。

なにぶん既に第三者間で多額の金銭を動かした後なわけですから―
銀行や買主側の計画もあることでしょう。



それらがすべて大きく狂ってしまうわけです。



また、返送期間自体には間に合っても、その他の不備が生じる恐れもあります。
当該書類の所定箇所に記名押印する形になるのですが、実印ではない印鑑で押印してしまったり等々...


結果、第三者との不動産の売却案件や住宅ローンの借換え案件などでは、ほとんどすべての司法書士が事前通知制度を利用しません(少なくとも僕はやりません。)。


顧客のリスク回避が一番ですからね。
一か八かでやるものではないです実際。


その他の注意点としましては、登記完了予定が通常時の登記よりも遅れてしまいます。
事前通知の返送があるまでは、登記手続が止まってしまうためです。


また、その詳細は後述しますが、事前通知制度では法務局による"前住所通知"というものが省略されません。



これもまた大きなデメリットになり得る点なのです。



そのため、通常、事前通知制度が用いられるのは、住宅ローンの抹消手続や、住宅ローンを使わない親族間またはごくごく親しい間柄で行われる売買等、リスクの少ないケースに限定されがちなわけです。

事前通知制度は便利で簡単なんですが、使いどころが難しい手続と言えるでしょう。





3.資格代理人(司法書士)作成による本人確認情報とは

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権利証をなくしてしまった、紛失してしまったケースにおいて、事務上、最も多く利用されている手続です。


"本人確認情報"とは―

資格代理人である司法書士が自らの権限と責任おいて、登記義務者(売買の場合は売主)が真正な不動産所有者であることを確認し、証明する書類です。

司法書士が権利証の代わりとなる書類を作成するようなイメージを持っていただけると、幾分、理解し易いかと思われます。


実際には、司法書士が登記義務者と直接面談し、次に説明する本人確認資料の提供を受けた上で、対象となる不動産の取得経緯等を詳しく聴取し、本人確認情報を作成していくこととなります。




3-1.本人確認情報を作成する上で最低限必要となる書類等

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本人確認情報を作成する上で最低限必要となる書類は、対象となる者(権利証をなくした者)の"本人確認資料"です。


もちろん、なんでもいいわけではありません。
それらは、あらかじめ法律(不動産登記規則72条2項各号)で決まっています。


実務上、これらをそれぞれ"1号書類""2号書類"と呼ぶのですが、以下、その詳細となります。
尚、本人確認情報の作成にあたっては、1号書類についてはこの内1点が、2号書類についてはこの内2点が必要となります。

顔写真付きの身分証がないのであれば、なんとか2号書類を2点分揃えないといけないわけです。



<1号書類(顔写真付きの公的証明書)>

  • 運転免許証
  • マイナンバーカード
  • 住民基本台帳カード
  • パスポート(※1 ただし、2020年2月3日以前に申請した日本国発行のものに限る
  • 運転経歴証明書
  • 特別永住者証明書

※当該書類等に記載ある住所の表記にご注意下さい。特にパスポートには古い住所が記載されがちです。尚、当該証明書に記載ある住所と現住所(印鑑証明書上の住所)が異なる場合は、その変更経緯が分かる書類(住民票・戸籍の附票等)が別に必要になってきます。

※1 パスポートの様式が変わったそうです。まだ現物は目にしていませんが、どうやら葛飾北斎の「冨嶽三十六景」をデザインに取り入れたそうで(当然、この点は全く問題ないのですが...)、2020年2月4日以降に申請して交付されたパスポート(20年旅券と呼ぶそうです。)には、なんと住所などを記載していた所持人記入欄がなくなったのだとか...
いわゆる、顔写真や生年月日はあっても住所の記載がないため、本人確認資料としては使えなくなってしまったわけです。いわゆる、後述する年金手帳同様の注意が必要になったことを意味します。なんとも理解に苦しむ様式変更ですが、ともあれご注意ください。





<2号書類(顔写真のない公的証明書)>


"保険証系"

  • 国民健康保険の被保険者証
  • 健康保険の被保険者証
  • 後期高齢者医療の被保険者証
  • 介護保険の被保険者証

※代表的なところで言うとこんなところでしょう。他に該当する方はそんなに多くはないでしょうが、船員保険の被保険者証や健康保険日雇特例被保険者手帳等も2号書類に該当します。



"手帳系"

  • 年金手帳
  • 身体障害者手帳
  • 母子健康手帳

※僕自身が経験したのはこれぐらいです。ただし、その他に児童扶養手当証書や特別児童扶養手当証書、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳、戦傷病者手帳などもこれに該当すると言われています。



"その他"

  • 国家公務員共済組合の組合員証
  • 地方公務員共済組合の組合員証
  • 私立学校教職員共済制度の加入者証
  • 資格代理人(司法書士)による登記義務者(売主)の住所地での本人確認+住民票



これらの2号書類の内、2点が必要となるわけですが、経験上、ほとんどの場合は、『保険証+介護保険証』『保険証+年金手帳』であることが多いです。

尚、年金手帳を使う場合には特に住所に注意が必要です。



それはなぜかと言うとー



年金手帳には、住所が書いていなかったり、ものによっては元より住所の記載欄自体が存在しなかったりするからです。
ちなみに、本人確認資料で確認する事項は、『住所・氏名・生年月日(1号書類はこれに加えて顔写真)』です。


ようするに、住所の記載のない年金手帳では、そのすべてを確認することができません...


結果、法務局によっては取り扱いが異なる可能性はありますが、基本的にそのような年金手帳は本人確認情報を作成する上での2号書類には当たらないとされていますのでご注意ください(他の本人確認資料で代用する他ない。)。


また、住所地で本人確認を行った上で住民票を添付することで2号書類に代えることができるとされています。
僕自身、何度か経験はあるのですが、法務局によって取扱いが異なる可能性があるので、事前の問い合わせをお勧めします。






3-2.本人確認情報を作成する上であるとより良い書類

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上記の"本人確認資料"は、本人確認情報を作成する上で必須の書類となりますが、そうした規則に定められた書類以外のものでも、法務局に提出できるのであればそうしておいた方がよい書類が存在します。

まあ、より所有者本人であることの真実味を増すための書類とでも言いましょうかー
具体的には次のような書類がそれに該当します。



(1)規則に定める書類以外の書類


<相続の場合>

  • 遺産分割協議書
  • 相続税申告書
         

<売買の場合>

  • 売買契約書
  • 重要事項説明書
  • 領収書




<新築建物の場合>

  • 新築時の請負契約書
  • 建築確認通知書
  • 検査済証
  • 領収書




<その他共通>

  • 固定資産税納付領収書
  • 固定資産税納付通知書
  • 電気・ガス料金の領収書
  • 登記完了証
  • 登記原因証明情報の写し
  • 資格者代理人による登記完了報告書



これはあくまで一例です。

基本的に手続上の必須書類とはされていませんので、対象物件に関連し、本人しか持ちえないものであるようならばなんでもよいと考えます。

また、原本を提出する必要はないので、これらの写しを提出すれば済みます(割印しておく方が無難です。)。


僕自身、付けないこともありますが、入手できる時はなるべく付けるようにしています。
より正確な本人確認情報を作成すべきですからねもちろん。





3-3.その他、本人確認情報に記載すべき内容等

さて、上記のような書類を揃えれば、後は中身を作成するだけです。
もちろんケースによって異なりますが、本人確認情報の書き方としては、基本的には以下のような内容を埋めていく感じになります。
※あくまでこれは参考書式ですので、事案に応じて適宜修正する必要があります。

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その他の注意事項としては―



  • 権利証がない物件のみを記載する
    ※複数ある土地うち1筆だけ権利証がない場合は、その1筆だけを記載するという趣旨です。



  • 3か月以内に住所変更登記がされている場合は、司法書士が前住所地調査を行い本人確認情報に記載しておかないと、原則、法務局から前住所通知が送付される
    ※登記申請時点で住所変更登記がされていなくても、所有権移転登記と併せて住所変更登記を申請する場合はこれに該当します。



  • 本人確認情報上の"面識あり"とは、対象となる登記申請の3ヶ月以上前に、資格者代理人として本人確認情報を提供して登記の申請をしたとき、もしくは、それ以前から申請人の氏名・住所を知り、かつ 申請人との間に親族関係、1年以上にわたる取引関係その他安定した継続的な関係の存在があるときを指す



  • 会社の代表取締役が複数いる場合に、法務局へ印鑑登録していない代表取締役(印鑑証明書に名前が出ない代表取締役)を面談する場合は、別途業務権限証明書が必要となる
    ※基本、法人名義の不動産について本人確認情報を作成する場合は、当該法人の代表取締役又はこれに代わるべき者と面談する必要がありますが、印鑑登録をしていない代表取締役は、これに代わるべき者(支店長、部長等)と同様の取り扱いなります。



  • 本人確認情報を作成できる司法書士は、対象となる登記申請を代理する司法書士に限られる
    ※司法書士なら誰でもいいわけではありません。A司法書士に本人確認情報の作成を依頼し、登記申請はB司法書士に依頼とはいかないのです。


4.公証人による本人確認とは

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権利証をなくしてしまった、紛失してしまったケースにおいて、あまり利用件数は多くないようですが、意外と使える制度と言えます。



どのような手続かと言うとー


  • 公証人が登記義務者(不動産の名義人)であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるときは事前通知が省略される


ようは司法書士ではなく、公証人がそれに代わって本人確認をするということです。
結果、特に問題がなければ、事前通知もされず、権利書がなくても登記の処理が進むことになります。



もちろん、不動産の売買などでも利用可能です。



具体的には、司法書士が作成する登記の委任状に、ケースに合わせて次のような認証文言が記載されることになります。

(1)申請書等について次に掲げる公証人の認証文が付されている場合には、不動産登記法第23条第4項第2号の本人確認をするために必要な認証としてその内容を相当と認めるものとする。

ア 公証人法第36条第4号に掲げる事項を記載する場合
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、右嘱託人の氏名を知り、面識がある。よって、これを認証する。」

イ 公証人法第36条第6号に掲げる事項を記載する場合
(ア)印鑑及び印鑑証明書により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。 本職は、印鑑及びこれに係る印鑑証明書の提出により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」

(イ)運転免許証により本人を確認している場合の例
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)した。 本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」
又は
「嘱託人何某は、本公証人の面前で、本証書に署名押印(記名押印)したことを自認する旨陳述した。本職は、運転免許証の提示により右嘱託人の人違いでないことを証明させた。よって、これを認証する。」

※【平成17年2月25日法務省民二第457号 通達一部抜粋】



予め記載すべき公証人の認証文言が決まっている点には注意が必要です。
仮に公証人が上記とは異なる認証文言を使用してきた場合は、それを指摘し、修正してもらうようにしましょう。





4-1.公証人による本人確認のメリット・デメリット

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<メリット>

  • 顔写真付きの身分証がなくても利用可能
    ※1号書類や2号書類が2点揃わない場合でも利用できます。公証人は印鑑証明書での本人確認ができるからです。例えば本人確認資料が揃わず、かつ、新たにマイナンバーカード等を作成する時間がない場合等には非常に有用です。



  • 費用が安く済むケースが多い
    ※司法書士による本人確認情報の作成は高額になりがちです。手間と責任の大きさを考えると、あながち仕方ない部分もあるのですが、公証人の費用は一定のため、比べると安く済むケースが多いと言えます。





<デメリット>

  • 法務局による前住所通知が省略されない
    ※個人的には大きなデメリットだと思っています。前住所通知の詳細について事項にて。

  • 必ず登記義務者本人(売買の場合は売主)が公証役場に出向いて手続を行う必要がある
    ※司法書士にすべてを任せることはできません。また、不備があるといけないため、通常、司法書士も同席するケースがほとんどです。となると、日程調整の手間や、同席する司法書士の日当等の問題も生じることでしょう。結果、費用が安くなると思って選択したとしても、元々の司法書士報酬金額次第では、大した差額は生じず、手間だけが増えるようなことにもなりかねません...




どちらかと言えば、メリットの方が強い印象が残るのではないでしょうか?
特にお金は大事ですからね。


ただし、時間も大事です。
もっと言えば、登記の確実性も大事です。


この辺の判断は難しいものがありますので、事案に応じてよく検討したいものですね。




5.法務局が行う前住所通知とは

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前住所通知とは―


売買等、登記申請時に権利証(登記識別情報)を添付しなければならない場合において、それを紛失等により提供できない、かつ、所有権の登記名義人の住所変更登記が3ヶ月以内にされているという2つの要件が当てはまった際になされる法務局の手続です。

尚、『住所変更登記が3ヶ月内にされている』という表現を用いていますが、連件で住所変更登記と所有権移転登記等を申請するような場合には、仮に登記申請時点では住所変更登記がされていなくとも、前住所通知は省略されません。


登記自体はされていなくとも、それと同視されるのでしょう―


尚、具体的な手続方法としては、法務局が登記簿上の住所地(前住所地)に宛てて、本人限定郵便等(転送付加の郵便)の方法により書面を送付する方法で行われます。



その趣旨は、事前通知制度同様"なりすまし防止"です(以前、住所変更を利用した不動産詐欺が多発していたそうです。)。



ようするに、そもそも郵送物を受け取らないことを前提とした、ちょっと不思議な手続なわけです。




では、仮に何らかの理由でそれを受け取ってしまったらどうなるのでしょう??

本来、居住していない場所への転送付加郵便なので、受け取れるはずはありませんが...
とは言え、絶対にないとは言えません―


前住所地へふらっと寄った際にたまたま受領するかもしれません。
便宜、住所を移していただけで、実際の居住実体は前住所地かもしれません。

様々な可能性が考えられるわけです。



ちなみにその結論は、該当する登記申請が却下の対象になってしまいます...



それはそうでしょう―
届くはずのない郵送物が届いてしまったわけですから、法務局としてはなりすまし等の犯罪を疑って然るべき状況です。



本当の犯罪であれば未然に防げて万々歳でしょうが、それが単なる行き違いでしかなかったのなら...
大変な事態になってしまいます。



ですので、極力、僕なんかはリスクを減らすべく、前住所通知がされない方法を取るようにしています。
実は要件に当てはまる場合でも、それを回避できる方法があるのです。





5-1.前住所通知が省略されるケース

以下に該当する場合には、前住所通知は省略されます。
要件に当てはまっているかどうかは問われません。



  • 住所の変更が行政区画・名称変更による場合
    ※実質的には住所の変更とは言えないパターンです。行政の都合で住所表記が変わっただけなので、それも当然でしょう。



  • 登記義務者が法人の場合
    ※前住所通知がなされるのはあくまで個人の場合の話です。法人は元よりその対象にはなっていません。



  • 本人確認情報を提供するケースで、申請人が登記義務者であることが確実であると認められる場合
    ※対象が個人であり、直近に住所変更登記がされていても同様です。





ポイントは、もちろん本人確認情報を提供するケースです(他は元々の例外規定ですから。)。



いわゆる事後的な要因で前住所通知を省略するには、司法書士が作成する本人確認情報による他ないわけです。
事前通知でも、公証人による本人確認でも、前住所通知は省略されません。



尚、ただ単に本人確認情報を提供すれば前住所通知が省略されるわけではありません。
もちろん、それ用の準備が必要です。


具体的には、本人確認情報を作成する司法書士が前住所の調査を行った結果(現地に赴くのはもちろんのこと、チャイムを押してみたり、時には近隣住民に話を聞いたりもします。)、その様子を本人確認情報内に詳しく記載、それで法務局が登記義務者が本人であることが確実だと判断した場合にのみ省略されるわけです。



適当な内容ではもちろん意味はありません。
結構、大変なのです。



司法書士としては、大きな責任を負うだけではなく、多大な手間も要するわけです。



権利証はなくさないようにしましょう―





6.まとめ

今回は権利証をなくしてしまった場合の話でした。
かなり専門的な内容になってしまったので、あるいは退屈に思われた方も少なくないかもしれません...

いつか、この記事をもっと分かり易い内容に編集できるよう精進します。


尚、たまに本人確認情報の相場を聞かれることがあるのですが、各司法書士によっても、案件によっても異なるため、一概にどうこう言えるものではありません。


その上で―

感覚的には、5万~10万円程の報酬規程が多いように思えます(都内だと8~10万円ぐらいの所も増えてきたような...)。



ちなみに、司法書士九九法務事務所の場合だと、3万~5万円程に収まることが多いです(もちろん案件によって異なることもあります。)。

本人確認情報単体であれば、基本的には3万円、前住所調査を要する場合には5万円と言ったイメージですね。


興味がある方はお問合せください。
※登記申請の代理人司法書士であることが前提となる手続なため、本人確認情報のみの作成はできません。あくまで、併せて所有権移転登記等のご依頼をいただく必要が生じます。その点、ご注意ください。



それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一