ブログ
遺言ペットのために遺言等を残すことは可能か?~死後のペットの世話を考える~
いつもお読みいただきありがとうございます。
さて、今回は愛すべきペットに対する遺言等のお話しについてです。
僕自身、2匹の猫を飼っていますが、正直、色々思うところはあります。
ちなみに、他の猫仲間に聞いてみてもだいたい同じようなことを考えているみたいです。
例えば皆さんも次のようなことが頭をよぎることはありませんか?
- 自分の死後、ペットの世話が心配だ
- ペットに財産を遺したい
- ペットと同じお墓に入りたい
おそらく、ペットを飼われている多くの方がこの内のどれか、もしくはすべてに興味を持ったことがあるのではないでしょうか―
もはや、家族ですからね彼等は。
私的には当然かと思われます。
どこまで需要があるかは分かりませんが、一飼い主として真剣に検証していこうと思います。
<目 次>
- 1.ペットに遺言等は可能か?
- 2.自身の死後、ペットが幸せに暮らすためにやるべき事
- 3.ペットの世話を託したい~①負担付遺贈~
3-1.負担付遺贈の問題点
3-2.遺留分にも注意しましょう
3-3.任意後見や死後事務委任との併用も - 4.ペットの世話を託したい~②負担付死因贈与~
- 5.ペットの世話を託したい~③ペット信託~
- 6.ペットと同じ墓に入りたい
- 7.まとめ
1.ペットに遺言等は可能か?
まずペットは法律上、どのように定義されるのでしょうか―
私的には腹立たしくすら思ってしまうのですが、結論からすると、ペットは法律上”動産”になります。
”物”ですねいわゆる。
ですので、少し前に海外等で話題になっていましたが、愛犬の連れ去り事件などは、「器物損壊罪」が成立します。
「誘拐罪」ではないのです。
では、それを踏まえて、法律上、動産として定義されてしまう『ペットに対する遺言はできるのか?』という問題ですが、結論からすると、ペットは相続人にも受遺者にもなれません。
ペットに対する直接の遺言は元より、贈与契約の対象にもならないです…
いくら可愛い、家族以上に家族であるペットであっても、結論は変わりません。
なんとも嘆かわしい話ですよね…
ただし、全く打つ手がないかと言えば、そうでもありません。
遺言や死因贈与契約、ないしは信託契約等を工夫することによって、それなりの形には持っていくことが可能なのです。
2.自身の死後、ペットが幸せに暮らすためにやるべき事
既述のとおり、ペットに直接財産を遺すことはできません。
ただし、ペットの世話してくれる人に財産を遺し、色々なお願いすることは可能です。
ペットが実際にお金を使うわけではありませんからね。
仮にこの国の法律がペットに財産を遺すことができるものであったとしても、どちらにせよそれを管理する人が必要でしょう。
その点からすると、適切な工夫を行い、かつ、ペットを託す先があるのであれば、ある意味ペットに財産を遺すとのと大差ない結果に近づけることだってできるのです。
では、その方法とは?
少なくとも、僕が考え付く限りで3つの方法があると思われます。
詳細は次項にてご案内しますが、以下のような感じです。
- 負担付遺贈
- 負担付死因贈与
- ペット信託
はたしてこれらはどういうものなのでしょうか―
3.ペットの世話を託したい~①負担付遺贈~
もちろん、ケースバイケースな部分はありますが、遺言書によってペットと財産の一部(または全部)を特定の第三者に遺贈する方法です。
ただし、単に遺贈するだけではなく、一定の法律上の義務を負担させる遺贈とでも言いましょうか―
負担する義務の具体例としては、一般的に以下のような事項が想定されます。
- ペットの飼育全般
- その埋葬や供養
財産を譲る代わりに、これらを行ってもらおうという趣旨ですね。
ペットを飼うのはお金も手間もかかります。
ご自身としては、あまり気にならないかもしれませんが、万人がそうとは限りません。
食費に医療費、その他諸々…
ペットの歳や健康状態にもよるので、一概に幾らとは言えないでしょうが、遺贈する金額はそれ相応のものにすべきでしょうね。
一説によると、大型犬を飼った場合の総費用は生涯で400万円前後、小型犬は300万円前後、また、猫の場合は100万円前後かかるそうです(ご家庭によって、かなりばらつきがあるとは思いますが‥)。
その点からすると、ある程度、それらを想定して遺贈金額を決めるといいかもしれませんね。
ちなみに、以下に負担付遺贈の簡単な案文をご紹介します。
(実際に作成する場合は、事案事案に応じて、もっと細かく決めるべきかと思われます。あくまでイメージするためのものなので、その点、ご承知ください。)
第1条 遺言者は遺言者の有する次の財産を、遺言者の知人・蕨一郎(年月日生、住所:埼玉県川口市~)に遺贈する。
(1)愛猫ハル(描種:雑種「三毛猫」、性別:雌、年齢8歳)
(2)預金
〇〇銀行〇〇支店
普通預金
口座番号:~
第2条 蕨一郎は、第1条記載の遺贈を受ける負担として、遺言者の愛猫ハルを引き取り、愛情をもって大事に飼育し、その死後は遺言者が定める方法でその埋葬、供養等を行うものとする。
第3条 遺言者は、本遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
その他、僕ならこれに加え、遺言者よりもペットが先に死亡したケースも想定しますし、特に「付言事項」で受遺者への事細かいメッセージを残すようにすると思います。
具体的には、受遺者がペットのためにどのようなことをすればいいのか、ペットの好きなこと、嫌いなことを書いておくのもいいでしょう。
ともあれ、負担内容をなるべく具体的に定めておく感じですね。
また、遺言執行者も大事です。
その権限はもちろんのこと、誰に頼むのかも留意すべき点でしょう。
その理由は後述しますが、ある意味、負担付遺贈における遺言執行者は、一般的な遺言よりも大きな役割を担うこともあるので―
3-1.負担付遺贈の問題点
ここまでお読みいただいた方の中には、負担付遺贈に大きな興味も持たれた方もいることでしょう。
それは何よりなのですが、同手続にもデメリットがないわけではありません。
良い面だけではなく、それも踏まえた上で諸々検証していくことが何より大事なのです。
問題点の一つは、「遺贈」という法律行為の性質です。
遺贈は、受遺者側において自由にこれを放棄できちゃうのです…
ようするに、いくら細かく負担内容を遺言書に記載しておいても、受遺者側でそれを自由に断ることもできると…
もちろんその場合、受遺者は対価としての遺産も受け取れませんが(ペットの世話だけを拒否できるわけではありません。)、そもそもの目的がそこにはないため、遺言者側はたまったものではありません。
また、問題点はこれだけに限られません。
受遺者側で負担付遺贈を放棄しなかったとしても、最悪、財産だけ貰ってペットの世話等という義務を履行しないかもしれないという点です。
そもそも、そのような人物に大事なペットの世話を任せるのか?という話ではありますが、あくまで可能性の問題です。
では、これらに対する対応策は?
ペットの世話等を託す方の厳密な選定はもちろんのこと、事前に内容についての打合せを行っておくべきでしょう。
「この人なら大丈夫!」ではなく、その上で何を頼むのか、どんな手間がかかり、どんな問題が生じる可能性があるのか?可能な限り互いに共通認識を深めておくべきです。
それだけも随分違った結果になるのではないでしょうか―
また、義務の不履行問題については、人選が一番でしょうが、遺言執行者の活躍も望めます。
以下、遺言執行者の権限についての条文です。
民法第1012条
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
また、これだけに限られず、遺言執行者は次のような権限をも持ちます。
民法1015条
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。 遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
ようするに、受遺者が財産だけを貰って義務を履行しないような場合には、遺言執行者においてその義務の履行を催告することができ、仮に受遺者がそれでも応じなければ、遺言の無効を家庭裁判所に請求できたりもするわけです。
遺言執行者の負担が大きすぎるような気もしますが、例えば定期的に受遺者やペットの様子を見てもらうような内容にするのもいいかもしれませんね。
一種の監視機関というか監視機能というか、そういう役割にもなれるのです遺言執行者は―
3-2.遺留分にも注意しましょう
まず、遺留分自体の説明につきましては、以下のリンクを参照ください。
『遺留分とは?/司法書士九九法務事務所HP』
https://99help.info/faq/post-2/
負担付遺贈についても、遺留分は十分に注意すべき点なのです。
ペットの世話等が理由であっても、遺留分が廃除されるわけではありませんから―
遺留分は殊の外、強力な権利です。
せっかくペットの世話等を引き受けてくれた方を自身の相続トラブルに巻き込んでしまうのは本望ではないでしょう。
偏見というわけではありませんが、ペットの世話等の負担付贈与を考慮される方の多くが、相続人がいなかったり、関係性が薄かったりするケースが多いように思えます。
相続人がいない分にはいいのですが、経験上、後者の場合は遺留分侵害額の請求を受けてしまう危険性が高いようにも…
自身の相続関係を改めて確認し、遺留分に配慮した遺言内容にすること、もしくは、その危険性を受遺者に十分把握してもらった上で遺言書を作成することも重要なのです。
3-3.任意後見や死後事務委任との併用も
考え出すとキリがない部分はありますが、例えば、任意後見や死後事務委任契約と併用して負担付遺贈を行うことも考えられます。
その趣旨としては、ペット引渡し時の諸問題に対してのものです。
なにせ事が具体的になった時点では、本人は死んでいますから…
本人は死亡しているが、すぐに受遺者や遺言執行者と連絡が取れず、ペットはそのまま…
ある程度、想定しておくべき問題だとは思いませんか?
受遺者もしくは遺言執行者が近しい関係であり、かつ、日頃頻繁に会うようなケースであれば問題ないでしょう。
それこそ、同居の親族等であった場合は、この点を考慮する必要性はそう高くないと思われます。
しかしながら、共に信用できる人物に違いないでしょうが、だからと言って、常に遺言者の近況を知り得る関係であるとは限らないでしょう。
そうした場合に、任意後見や死後事務委任契約との併用により、万が一の事態に備えることができるかもしれません。
尚、ここまで大がかりなことをしなくても、知人、友人等にペットの存在を話しておくだけでも違いが出ると思います。
少なくとも僕だったら、本人に何かあった場合、そのペットの状況も気になりますから―
その他、最近は「緊急情報カード」等が流行っているそうです。
外出中の飼い主に万が一のことがあった場合に、自宅でお留守番中のペットの救護を依頼するための携帯用緊急情報カードですねいわゆる。
Amazon等でも普通に買えちゃいます。
キーホルダータイプのやつや、ステッカー、ドアサイン等、種類も多いので、これらをうまく活用するのも手かもしれませんね。
ともあれ、任意後見や死後事務委任の詳細をもっと知っておきたいと言う方は、個別にお問合せください。
4.ペットの世話を託したい~②負担付死因贈与~
負担付遺贈とは異なる可能性をご紹介します。
名称も似ていますし、中身もそれなりに似たものになるはずです。
では、「負担付遺贈」と「負担付死因贈与」は何が異なるのでしょうか?
端的に言えば、契約の有無です。
既述のとおり、「負担付遺贈」は、遺言書の中で自分が死んだ場合にペットと財産を渡し、ペットの世話等を託すという、ある意味、一方的な意思表示(単独行為)になります。
対して「負担付死因贈与」は、れっきとした双方の契約です。
贈与者(財産を渡す側)と受贈者(財産を貰う側)双方の合意が必須となります。
また、死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生じるものです。
そこに、ペットの世話等という負担が付加されているイメージですね。
したがって、遺贈とは異なり、贈与者の死亡時には既に贈与契約が合意済の状態となります。
そのため、負担付遺贈に比べるとペットの世話等の義務の履行がされない可能性は幾分低いと言えるでしょう(もちろん、これも人選が大事であることは言うまでもないですが…)。
ちなみに、死因贈与は遺言ではないので遺言執行者を定めることはできません。
ただし、その代わりに「執行者」なる者を定めることができるとされています。
(※死因贈与に遺言執行者の規定の準用を認め、その契約において執行者を指定することができるというのが通説です。)
いわゆる、死因贈与時同様、その執行者に遺言執行者の役割(執行状況の監視機能)を委ねる感じになります。
以下、想定される負担付死因贈与の書式例となります(あくまでイメージのための簡易版です。)。
第1条 贈与者は、贈与者の死亡によって効力が生じ、死亡と同時にその所有権が受遺者・蕨一郎(年月日生、住所:埼玉県川口市~)に移転するものと定め、贈与者の有する以下の財産を、無償で贈与することを約し、受遺者はこれを承諾した。
(1)愛猫ハル(描種:雑種「三毛猫」、性別:雌、年齢8歳)
(2)預金
〇〇銀行〇〇支店
普通預金
口座番号:~
第2条 蕨一郎は、第1条記載の死因贈与契約による贈与を受ける負担として、贈与者の愛猫ハルを引き取り、愛情をもって大事に飼育し、その死後は遺言者が定める方法でその埋葬、供養等を行うものとする。
第3条 遺言者は、以下の者を執行者に指定する。
あとは事案に応じ、これに諸々付加していくイメージです。
ペット放棄に備えた解除条項を入れたり、執行者の権限や義務を入れたり…
尚、なるべくそれを公正証書にすることをお勧めします。
それで絶対に防げるわけではありませんが、避けられるトラブルは避けた方がいいでしょうから。
その他、問題点については、概ね負担付遺贈の場合と同様です。
誰と契約を交わすのかの人選の問題や遺留分の問題なんかは特にそうです。
既にご紹介済みなので割愛しますが、よくよく留意すべき点でしょう。
5.ペットの世話を託したい~③ペット信託~
先に申し上げておきますと、正直、ペット信託については僕自身まだまだ知識も経験も足りません。
そのため、ごくごく触りだけのご紹介になってしまう旨、ご了承ください。
おそらく、今後、需要が増えていく分野かと思われますので、知識と経験が伴った段階で改めてご紹介させていただきます。
負担付遺贈や負担付死因贈与には、財産を取得しながら義務(ペットの世話)を履行しないという問題点がどうしても付きまとってしまいます。
もちろん、遺言執行者や死因贈与時の執行者の監視の目もありますが、それにも限界があると‥
そこで真価を発揮する可能性があるのがペット信託です。
ちなみに、ペットは信託法上の受益者にはなれません。
ペットの定義が法律上、”動産”である以上、権利能力がないことになってしまうので…
結果、ペットそのものを受益者とすることができない以上、それに則した信託契約を組成する必要があるわけです。
例えば―
「目的信託」が可能性の一つになるでしょう。
いわゆる、受益者の定めのない信託です。
この信託では、受益者の利益(通常の信託は受益者の利益のために設定します。)ではなく、信託の目的達成(ペットの世話等)のために管理、処分されることになります。
ただし、目的信託には存続期間が20年を超えることができないという大きな欠点もあります。
(ペットの種類によっては、全く意味がないですよね…)
また、目的信託の受託者は、一定の法人に限定されたりと、ちょっとハードルが高いような部分もあるかと…
その他、目的信託ではなくとも、ペットの世話や費用負担者を受益者として信託を組成する方法でもなんとかなりそうです。
委託者を誰にするのかの問題はありますが、どちらかと言えば、こちらの方が現実的なような気もします。
スキームとしては、NPO法人なんかが委託者となり、実際にペットの世話をしてくれる里親を受託者として組成する感じになるケースが多くなりそうです。
これらについては、時期は未定ですが、準備が整い次第、追って記事をUPさせていただく予定です。
6.ペットと同じ墓に入りたい
最後に余談というわけではありませんが、私的にも気になるところなので色々調べてみました。
まずは、法規制について―
ペットは法律上動産として扱われてしまうのは既述のとおりですが、ペットの死体や遺骨はどうなんでしょうか?
結論からすると、”廃棄物”に定義されます。
ちょっとなんなの?って思っちゃいますよね…
ちなみに、純然たる廃棄物であればお墓に入れることは困難になります。
理由は明白です。
廃棄物処理法上の問題が生じてしまうためです。
ただし、結論からすると、ペットの遺骨は廃棄処理法による規制対象にはならないとされているのでご安心を。
ペットの遺骨は、宗教的及び社会的監修等により埋葬及び供養等が行われるものであり、社会通念上廃棄物には当たらないというのがその理由だそうです。
分かり難いと思うので、もう少し簡単に言うと、ペットの遺骨は法律上は廃棄物ですが、社会通念上はそんなわけあるか!という考え方ですね。
ようするに、ペットと同じお墓に入ることは、法律上は問題ないということになるわけです。
ちなみに、ペット霊園に人間が入ることはもちろんできません。
ややこしくなるので詳細は省きますが、人間の埋葬に関しては「墓地、埋葬等に関する法律」で細かい規制があるのです。
人の遺骨はどこにでも埋めていいわけではありません。
ペット霊園であっても、その規制にバッチリ引っかかってしまうわけです。
あとは法律上、問題ないと言っても、墓地の使用規則に基づき霊園側で認められないケースや、その他の問題点が発生することも十分に考えられます。
そのため、ペットと同じお墓に入ることを希望される方は、まずその確認を取っておくべきです。
僕が調べた感じだと、ペットと飼い主の遺骨を一緒に納めてくれそうな民間霊園なんかはそれなりに存在しそうです。
後は条件や値段等の細かい点を詰めていく感じですかね。
そして、諸々決まったら、それを負担付遺贈や負担付死因贈与の内容に盛り込むのも良いと思います。
適宜、ご活用ください。
7.まとめ
さて、今回は死後のペットの世話についてのお話でした。
皆さん、どんな感想を持たれましたでしょうか?
正直、色々難しいですよね…
保護犬や保護猫の引き受けに年齢制限があるのも頷けます。
また、死後でなくとも、認知症や大病を患い実質的な世話をできなくなってしまうことも十分考えられますからね。
そうなってくると、一番大切なのは法律上の手続よりも人間関係のように思えます。
日頃から家族やペット仲間と将来のことを色々話をしておくことが最も大事です。
その上で、ペットの世話を託す遺言等を検討すると…
また、仮に頼る人がいないのであれば、ペット信託などの活用を検討するのもいいでしょう。
ともあれ、私的な課題でもあるので、今後、情報をアップデートしつつ改めてご案内する予定です。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一