平日9:00〜20:00(土日は要予約)

ブログ

成年後見制度

後見制度支援信託とは?~親族だけの後見業務を目指して~


いつもお読みいただきありがとうございます。



あっと言う間に2月ですね。
あっと言う間に年末になってしまいそう気がして怖いです。
充実している結果なのか、歳をとった結果なのか、はたまたその両方なのか...



さて、今回は後見制度についてのお話しです。

去年の年末頃から後見制度のご相談が急増しているように思います。
世間的にどうなのかまでは分かりませんが、普通に考えれば増えていく一方なのでしょう。
また、裁判所の方針や制度自体も徐々に変化していますし、顧客の求めるニーズも多種多様になってきました。

今後もそうした流れは加速していくのではないでしょうか?



ただしー



以前よりは格段に良くなってきたとは言え、それでも後見制度というものは、どうしても申立人側(親族側)の自由度が少ない側面があります。
その制度趣旨(あくまで本人のための制度)からすれば仕方ないのでしょうが、ケースによってどうしても使いにくかったりするのも事実です。


では、どうすれば理想通りに、もしくは理想に近い形にすることができるのか?
先に結論から言うと、今のところ「こうすれば絶対に大丈夫!」と、言ったような画期的な方法は存在しません。


とは言え、ケースが限定されてしまうものの、知っておいて損のない制度自体は存在するのです。
以下、検証していきましょう。





<目 次>





1.専門職の関与なく親族だけで後見業務を行うには

1012825e56cfa151f4deee4c4db891ed_s.jpg


後見業務は大変です。


僕自身、後見業務を実際に行っていますので、本心からそう思います。
裁判所の報告もそうですし、病院の付き添いや施設の入退去等々、それこそやるべき仕事は山のようにあります。


ただし、「本人の身の回りの世話(身上管理)等、その多くについては元々親族等が負担してきたものであり、財産管理や処分のためだけに専門職後見人が関与し続けるのはちょっとな...」と、言う要望は以前から多くありましたし、それ自体、筋の通った話ではあります。

基本的に司法書士や弁護士等の専門職後見人が就任した場合は、親族等ではなく本人の財産から拠出されるとは言え、どうしても"報酬"の問題が生じますからね...


正直なところ、後見人側に課される責任と業務内容からしたら、少なく感じるぐらいなんですけどね...
それは、いかに親族の無償の介護が尊いかの表れでもあるのでしょう。



そうした中、当ブログでも以前に軽く取り上げいましたが、昨年、朝日新聞朝刊にて「成年後見『親族望ましい』 選任対象 最高裁、家裁に通知」との見出しで、「認知症などで判断能力が十分ではない人の生活を支える成年後見制度をめぐり、最高裁判所は同月18日、後見人には「身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示した。」との記事が掲載されました。



時代の流れと言うやつですね。
親族の声をある程度国が受け止めたわけです。


とは言え、さすがに無条件というわけにはいきませんでした...



後見人にふさわしい親族など身近な支援者がいる場合は、本人の利益保護の観点から親族らを後見人に選任することが望ましい」という条件を付けたのです。



後見人のふさわしさの定義など僕にも分かりません。
そのため、裁判所の表現としてはこれ以上どうにもできなかったのでしょう。


かなり曖昧な表現になってしまいました。


結果、今も昔も、親族だけが後見人になれるかどうかは、実際に申立手続をしてみないと分からない状況が続いてしまっているわけです。




1-1.そもそも、なぜ親族だけでは駄目なケースがあるのか?

01abf86438839a01b97ba423838a88ad_s.jpg


勘違いしてはいけないのが、親族だけが後見人になっているようなケースは多く存在します。
そもそも、後見制度の立ち上げ当初は9割以上が親族だけだったとも言われているぐらいです。


それが年々、専門職の関与する案件が増加し、現在に至るわけですがー


その一番の原因と言われているのが、"横領"の問題です。
ようは親族後見人の私的な使い込みですね。
これが結構な勢いで増加したそうです。


結果、それを防ぐ意味合いで、各裁判所が「幾ら以上の財産がある場合は専門職後見人の関与が必須」と言った指標のようなものを独自に作ることになり、一定の財産(明確な規定はないのですが、概ね1,000~3,000万円以上と言ったイメージです。)が存在する場合には、専門職後見人の関与が必須という現在のような状況が生まれることになったわけです。



「そんな事を言うなら、司法書士や弁護士、社会福祉士だって横領し、ニュースになっているじゃないか!」
そうした声が聞こえてきそうですが、それも事実なのが悲しいところです。



ただし、後見人の横領事件の絶対数で言えば、親族後見人の方が圧倒的に多く、かつ、司法書士に関して言うと、度重なる研修や報告義務の厳格化等、様々な工夫と取り組みが行われています。
最大限そうした事態を防ぐ体制が整備されているわけです。

おそらく、他の専門職に関しても、少なからずそうなのではないでしょうか?
財産管理者として適切なのは誰かという観点からすれば、専門職後見人の方に分があるという考え方なわけです。



次に挙げられる原因が専門知識の問題です。



例えば、本人が何らかのトラブルに巻き込まれており、裁判手続もしくは調停等それに近しい手続が必要となったり、ある程度複雑な相続手続や不動産の処分等を行う必要があったりする場合に、前者においては弁護士が、後者においては司法書士が後見人として選任されるケースが多いと言えます。

これは弁護士や司法書士が、一般的にその分野において高度な専門知識を有しているとされるためです。



「適格な判断や手続によって、本人に不利にならない選択肢を選ぶ」



この点においても、やはり専門職後見人の方が適していると判断されているわけです。




1-2.親族だけが後見人になっているのはどのようなケースか?

では、どういったケースに親族だけが後見人になっているのか?


端的に言えば、「管理する財産が少なく、これといった専門知識等を要しないケース」です。
要するに、上記1-1とは真逆のケースですね。


よっぽどのことがない限り、そうしたケースでは希望する親族が後見人になれないことも、専門職後見人の関与が必須になることもありません。
割合簡単な、言い方を変えると、大きな責任を負うことの少ない状況であれば、親族だけが後見人になることも当然にできるわけです。



ここで、ちょっと見方を変えてみましょう。
ある意味、目指すべき地点は明確です。


それではー


  • 後発的にでもそうした状況を作れるとしたら?
  • 専門職後見人の関与を継続的なものではなく、あくまで期間限定の一時的なものにできるとしたら?


結構、多くの問題や不満を解消できそうに思えませんか?
そしてそれが本ブログの本題になります。


2.後見制度支援信託という名の手続

4a9c2752411dc739f096476fc6a15e6c_s.jpg


いかにも難しそうな名称ですが、使いようによってはとても便利な手続です。




"後見制度支援信託"とはー

「本人の総財産のうち、日常的な支払いに必要十分な分の金銭を預貯金等として後見人が管理しつつ、それ以外の通常使用しない分の金銭を信託銀行等に信託する仕組みのことを指します。」




どうでしょう??イメージできますでしょうか。
普段使う必要のない預金を信託化することで、財産管理者の負担を大きく軽減することが可能となるわけです。


とは言え、いきなり"信託"と言われても不安に感じる方も少なくないでしょう。


おそらく、それは投資信託(ファンド)の方をイメージしているからです。
あれは完全な投資ですし、もちろん、元金保証もありません。


対して、ここで言うところの信託は、それとは全く異なる手続です。
元金保証はもちろんのこと、預金保護制度の保護対象ですらあります。
私的には、予定配当率は低いですが、むしろ通常預金よりも安全ではないかと思っているぐらいに...

また、より安全を図る意味合いで、複数銀行で手続を行うことによってペイオフ対策を取ることも可能です。
いわゆる、信託化自体を危惧する必要はあまりないわけです。



では、なぜそれが財産管理者の負担軽減に繋がると言うのでしょうか?



これだけに着目するとイメージが悪くなりそうですが、当該手続を行うことによって、親族等が信託化された財産を自由に使うことができなくなるからです。

具体的には、後見制度支援信託を利用すると、当該信託財産を払い戻したり、信託契約を解約したりするには、家庭裁判所が発行する"指示書"が必要になります。
もちろん、相応の理由(本人のために金銭が必要な理由)がなければ、家庭裁判所が指示書を発行することはありません。


堅苦しく感じるかもしれませんが、先に説明したとおり、日常的な支払いに必要な分の金銭(案件にもよりますが、概ね100万~500万円程度)は元より後見人の財産管理下に残りますので、何か特殊な事情でもない限り払い戻しや解約が必要になるケースはそうそうありません。

実際、僕自身、後見制度支援信託に携わった経験がありますが、今のところ払い戻し等を行ってはいませんからー




このように、後見制度支援信託は、本人の財産の適切な管理・利用のための制度であり、横領等を未然に防ぐことにも繋がるわけです。
結果、後見制度支援信託手続を利用したは、専門職後見人の関与なく、親族のみでの後見業務の実現が可能となるわけです。





2-1.後見制度支援信託のメリット・デメリット

b3c177b0ce549a2e468f9a6ca861539b_s.jpg


先の説明だけでは、なかなかイメージしにくい点もあるかと思います。
そこで重複する内容もあるのですが、より理解を深めるべく、後見制度支援信託のメリット・デメリットをまとめてみることにしましょう。




<メリット>

  • ①財産管理者の負担が軽減する
  • ②本人の財産を安全確実に保護できる
  • ②後見制度支援信託の手続終了後においては、専門職後見人の関与なく親族のみの後見業務が可能



まず①についてですが、既述のとおり後見制度支援信託の手続終了後においては、親族後見人が管理すべき財産は、基本的に日常的な支払いに必要な分の金銭(100万~500万円程度)のみとなりますので、財産管理者の責任が大きく軽減することとなります。


続いて②についてですが、それ相応の保険や対策がなされており、一般的にただ単純に預金口座で管理するよりも高い安全性を保つことが可能です。


最後に③についてですが、おそらくこれが利用希望者にとって最大のメリットになるのでしょう。
当該手続の結果、親族のみの後見業務が可能となり、本人の財産から専門職後見人や後見監督人への報酬を支払わなくて済むようになります。
また、当然ながら裁判所との関係性そのものは続きますが、少なくとも後見監督人等の関与はなくなることになります。



<デメリット>

  • ①払い戻しや解約が必要になった際にひと手間必要となってしまう
  • ②現制度上、後見制度支援信託契約時には専門職後見人の関与が必須である
  • ③対応できる金融機関が限られている
  • ④保佐や補助では利用できない
  • ⑤後見制度支援信託契約に適さないケースも存在する



同様にまず①についてですが、ケースとしては少ないと思いますが、それが必要になったとしても、任意に払い戻しや解約をすることはできません。
管轄裁判所にそうした事情を報告の上、"指示書"なるものを入手、それを対象となる金融機関に提出後、諸々の手続を行う必要があるわけです。
お金を引き出すだけなのに、時間と手間がかかってしまうと...


続いて②についてですが、専門職後見人の関与がなくなるのは、あくまで手続終了後の話しです。
なぜなら契約自体は必ず専門職後見人が行う必要があるからです。
もちろん後見制度支援信託締結にかかる報酬も発生します(ただし、報酬はあくまで本人の財産から拠出されるものであり、親族負担とはなりません。)。
その金額としては、裁判所や案件によっても異なるのですが、埼玉県の場合だと概ね15万円、東京都の場合だと18~20万円ぐらいのイメージです。
尚、手続に関与した専門職後見人は、その契約終了後に辞任する流れとなります。


③についてですが、どの金融機関でも取り扱いができるというわけではなく、あくまで対象となる金融機関は限られています。
自身にとって使い勝手の良い銀行等で手続が取れるとは限らないわけです。
ちなみに現状において僕が把握している金融機関は、以下の6行です。

  • みずほ信託銀行
  • 三井住友信託銀行
  • 三菱UFJ信託銀行
  • りそな銀行
  • 千葉銀行
  • 中国銀行
    ※ただし、平成29年4月時点


当初は3行ぐらいだったと記憶していますし、今後も増えていくとは思いますが、不便に感じる部分があるかもしれません。
ただし、実際に銀行に出向く機会は極端に少ないと思うので、たいしたデメリットにはならないかもしれません。


④についてですが、そもそも後見制度支援信託は、成年後見と未成年後見にのみ認められた制度です。
そのため、被保佐人や被補助人の手続では希望したとしても、適用がないため利用できません。
ちなみに任意後見契約を結んだケースでも、同様に後見制度支援信託の適用はないとされています。
まあ、任意後見の場合は、「裁判所が関与する段階=後見監督人が選任」ですので、当然と言えば当然でしょうかー


最後に⑤についてですが、これについては説明がちょっと長くなってしまいそうなので、次項にて詳しくご説明させていただきます。




2-2.後見制度支援信託が検討される条件

13111d2f5b2a4205ac85362aafbbb31c_s.jpg

手続を希望するしない以前の問題となります。


すべてのケースに後見制度支援信託が検討されるわけではなく、あくまで向いているケースと、そうでないケースが存在します。
手続に興味があり、実際にその利用を検討する場合は、まずそこを見極めることも大事なのです。


では、どういったケースで後見制度支援信託が検討されているかと言うとー



  • 一定の流動資産(現金、預金)が存在する場合

    信託化できるのはあくまで流動資産のみです
    また、金融機関によっては最低受託金額(1円~1,000万円)なるものが設定されており、元よりそれ以上の流動資産がない場合は利用すらできません。
    各裁判所によってもその基準は異なってきますが、概ね申立時に「500万円~1,200万円以上の流動資産を保有」と言うのが一つの基準となるでしょう。
    そのため、本人の総財産は多くても、その大半を不動産が占めるような場合には、将来的に売却等により流動資産が増加でもしない限り、すぐに後見制度支援信託を利用できるわけではないのです。
    尚、株式等の有価証券については、基本的に売却や運用はせず、そのまま維持していくのが後見制度であるため、それらが財産の大半を占めるようなケースでは、より後見制度支援信託向きではないということなってしまいます。



  • 遺言書が存在しない場合

    ※本人が遺言書を残している場合、基本的に後見制度支援信託は利用できないとされています。
    本人の意思を無視してそれらを信託するのは不相当と言う判断なのでしょう。
    たしかに特定の預金口座を指定して遺言書を残している場合などには、それによって下手すれば相続できなくなってしまう人が出てくるかもしれませんから...
    ちなみに、遺言書はその内容うんぬんの話ではなく、存在しているかどうかの段階で判断するそうです。
    封印されている自筆証書遺言の場合はもちろんそうでしょうが(開封するわけにはいきませんから)、遺言内容を容易に確認できる公正証書遺言の場合はどうなんでしょうね?
    さすがにそういった経験はありませんが、遺言の内容を精査するのか否か...おそらくしないでしょうね。



  • 本人の身の上に配慮すべき点がない場合


    ※後見制度支援信託を利用した場合、無事その手続が完了した暁には、専門職後見人は辞任し、後は親族後見人のみとなるのが一連の流れです。
    そのため、親族後見人には対処が困難な事情がある場合や、もしくは、極端な話になりますが、本人に対する虐待の事実等、親族後見人側に問題がある場合には後見制度支援信託が用いられないとされています。




まず、これらに該当するか否か、そこが出発点になるわけです。
利用できるケースが限られている等、オールマイティーさに欠ける点は、一つのデメリットと言えるのではないでしょうか。




2-3.結局のところ後見制度支援信託は利用すべき制度なのか?

b06bcf20b3f8091925a4c94dd34c958a_s.jpg


ここまで制度の説明や、メリット・デメリットなどをお伝えしてきましたが、(僕の文章力の問題もあるでしょうが)なかなかどうして明確にイメージできるものでもないでしょう。



では、端的に後見制度支援信託は利用すべき制度か否かを問われたとするとー



正直なところ、長所も短所もある手続なので一律の答えは出せません。
財産の大小やその他の事情も人それぞれ異なることですし...

とは言え、制度の内容を把握できており、かつ、しっかりとした目的(親族だけで行い等々)を持って利用する分には間違いなく良い制度だと思っています。
反面、ただ単に勧められるままに利用するのはちょっとどうかな?と思う点もあります。



多くの場合において、後見制度支援信託は親族側の希望ではなく、裁判所側から提案されることがほとんどです。



「後見制度支援信託を利用するか、しないのであれば、後見監督人(もしくは財産管理のみの専門職後見人)が別に就任することになるが、どうします??」
と、言った具合ですね。



要するに、案件的にみて親族後見人のみでは厳しいと裁判所に判断されるわけです。
それ自体は仕方のないことなのですが、そのような選択を迫られたとしたらー



むしろどうしますか??



ちなみに後見監督人等の場合だと、継続的な報酬(月額にして1~3万円)や、その時点ではどのような人物が選任されるか全く分からないといった不安もあるでしょう。
場合によっては結構な期間付き合うことになりますからね...

ただ、もちろん悪い面ばかりではなく、気の利く後見監督人等が選任された場合などは、色々相談できたり、しっかりとしたアドバイス等をしてくれたりもします。
一般の方には分からないことが多い後見業務における心強い味方になってくれるという大きなメリットもあるわけです。



ともあれ、どちらを選ぶかはあなた次第なのです。



尚、何も裁判所からの提案を待つだけではなく、申立時はもちろんのこと、既に後見監督人等が選任されているケースでも、事後的に後見制度支援信託を希望することが可能です(各種要件に当てはまっている必要はありますが)。

最初から親族だけの後見業務を行いたいという目的を持って自発的に利用を希望するもいいですし、後見監督人等がいなくても自身で十分に対応できると感じるのであれば、その段階で後見制度支援信託の利用を希望することもできるのです。

もっとも、最終的な判断は裁判所が下しますので、案件によっては理想通りにはいかないこともあり得るでしょうから、その点、ご注意ください。



それらを踏まえると、後見制度支援信託は利用すべきか否かと言うよりも、後見手続の選択肢を広げてくれる便利な制度と言えるのではないでしょうか?




3.まとめ

今回は後見制度支援信託についてのお話しでした。
ある意味、シンプルな手続なのですが、なかなか分かり易く簡単に伝えることが難しくて(個別の相談承ります。)...

どこまで伝わっているかは不安ですが、ひとまずこういう制度があるという事をなんとなくでも把握しておいていただければ十分です。

わりと新しい制度ですので、今後、色々なテコ入れがされ、もっと身近で使いやすい手続になっていくものと思われます。
その際に、また、ご紹介させていただくこととします。


それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一