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成年後見制度後見支援預金なる制度とは?
いつもお読みいただきありがとうございます。
昨今、繁忙期がズレてきたような気がします。
二八(にっぱち)という言葉をご存じでしょうか?
1年の内、2月と8月は商売が低調で、売上げが下がるのが常だという意味の言葉ですねいわゆる。
我々司法書士業界にも少なからずその影響はあったのですが、今年はむしろ2月が平常月よりも忙しいという。。
まあ、あれです。
忙しくてブログの更新ができなかった言い訳です。
さて、今回は前回に引き続き後見手続関係についてのお話しです。
本来は一つの記事にする予定だったのですが、思っていたより前回記事が大容量になってしまったため、便宜二つに分けてみました。
あわせてお読みいただくとより理解が深まるものと思われます。
<前回記事>
「後見制度支援信託とは?~親族だけの後見業務を目指して~/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_118/
それではご案内させていただきます。
<目 次>
1.後見制度支援信託の短所を埋める手続として
ちなみに知識としては持っていますが、僕自身、"後見制度支援預金"手続に直接関与した経験はありません。
だいぶ新しい制度ということもありますが、それ以前の明白な理由がそこにあるからなのです。
では、その"後見制度支援預金"とはどういった手続なのでしょうか?
基本的な手続の流れや、制度趣旨は以前にご紹介した後見制度支援信託と大きく異なるものではありません。
日常の生活に必要な部分の現金を残し、残額を預金する点も、それを引き出す際に裁判所の"指示書"が必要になる点も同様です。
財産管理者の負担を減らし、財産の不正使用を防止するのが主な目的である点は、何ら変わらないわけですー
※その他の詳細は前回記事を参照ください。
では、いったい何が異なるのと言うのでしょうか?
後見制度支援預金は、後見制度支援信託の後にわざわざ新設された制度です。
全く同じであるはずがありません。
字面だけで判断すると、「信託する方と、預金にする方?」といった予想ができるかもしれません。
ある意味、それが正解なのですが、まだまだはっきりはしないでしょう。
そこで今回は、制度そのものの内容と言うより、何が後見制度支援信託と異なるのかを重点に後見制度支援預金手続を検証していくことに致します。
1-1.後見制度支援信託との相違点と後見制度支援預金を用いるメリットについて
おそらく、あれこれ細かい説明をするよりは、この辺りを端的にまとめる方が理解しやすいと思われます。
何がどう異なり、どのようなメリットが生じるのかー
- ①専門職後見人の関与が不要
これが後見制度支援預金の最大のメリットであり、後見制度支援信託との代表的な相違点でもあります。
後見制度支援信託は手続上、必ず専門職後見人の関与が必要になってきますが、後見制度支援預金は親族後見人が単独で行うことができるわけです。
そして、これが僕が後見制度支援預金の手続に直接関与したことがない理由なのです(関与したくてもするケースがありませんから。)。 - ②出費を最低限に抑えることができる
家族の負担ではなく、本人の財産から拠出されるとは言え、かかるお金が少なくなるのは確かなメリットと言えるでしょう。
既述のとおり専門職後見人の関与がありませんので、当然、その者に対する報酬も発生しません。
また、イメージ的には口座を新規に開設するだけですので、そこにかかる手数料なども原則かかりません(みずほ銀行等、現在はじゃっかんの手数料が発生する金融機関も中には存在する点には注意です。)。 - ③対応可能な金融機関が多い
制度が開始された当初は、以前より後見制度に関心の高かった信用金庫や信用組合等が取り扱い金融機関の中心でした。それが今や三大メガバンク(三菱、住友、みずほ)でもその取扱いが開始されたのです。そして、おそらく今後もその輪は広がり続けていくことでしょう。
尚、単に取扱金融機関数だけであれば、後見制度支援信託を上回っているため、利用者の最寄りの金融機関を利用できる機会が増えたと言えます。後見制度支援信託にも言えることなのですが、後見制度支援預金は、キャッシュカードの発行やATM利用ができず、必ず銀行窓口での手続になってしまうため、近くの金融機関で手続ができる点は大きなメリットと言えるでしょう。
どうでしょう?
それなり後見制度支援信託を行う上でのデメリットを埋められているのではないでしょうか?
ただし、流動資産が少ない等、後見制度支援信託には不向きな案件は、同様に後見制度支援預金にも向いていません。
あくまで後見制度支援信託を検討した上で、その先にあるのが後見支援預金というわけなのです。
また、どちらが優れているとか、どちらが劣っているとかの問題でもありません。
確かに後見制度支援預金は後見制度支援信託のデメリットを埋める側面があるものの、案件自体の内容や管理財産の大小によっては、後見制度支援信託が優先されるケースも多々あります。
そのため、より良い制度ができたと言うよりは、異なる選択肢が増えたと判断する方が賢明なのでしょう。
1-2.その他の注意点について
後見制度支援預金特有の注意点が他にも存在します。
ざっくり言うと、どういう預金形態にするのかの問題です。
ちなみに、僕の知る限り、そのどちらかにしなければならないと言った決まりはありません。
状況次第と言ったところでしょうかー
具体的には、後見制度支援預金の利用開始にあたって、"普通預金(有利息型)"もしくは"決済用普通預金(無利息型)"を選択することになります。
どちらを選択すべきか?
一方は預金に利息が付くものであり、もう一方は付かないものです。
尚、単にそれだけであれば、利息が付くに越したことはないないでしょう。
ただし、それとは別の問題もあります。
そう、預金保証制度の問題です。
仮に預け入れをしている金融機関が倒産してしまった場合、どの程度の保証を受けることができるのか?
自身の財産であっても気になるところでしょうが、後見人として管理している財産は、家族のものとは言え、れっきとした他者の財産です。
より一層、重い責任と管理義務が課せられています。
ちなみに、後見制度支援預金の場合では、普通預金であれば通常どおり元本1,000万円とその利息が保証の対象になり(一般的なペイオフ対策と同様です。)、決済用普通預金については、なんと、その全額について預金保険制度の対象となります。
仮に金融機関が倒産したとしても、決済用普通預金の場合はその全額が保証されるわけですー
後見制度支援信託の場合はと言うと、さすがに決済用普通預金のように全額保証とまではいきません。
しかしながら、現実問題として、預入先の金融機関と運用先の会社が同時に倒産でもしない限りそうした憂いを被ることはないため、通常の銀行預金よりは安全と言えるのです。
安全度からすると、「決済用普通預金(後見制度支援預金)」 > 「後見制度支援信託」 > 「普通預金(後見制度支援預金)」 = 「通常の普通預金」、と、言った感じでしょうか...
本来、後見人に求められているのは、安全な財産の管理であり、財産の運用が求められることはありません。
たしかに利息が付くことは良いことです。
ただ、そればかりを優先した結果、損害を出してしまっては本末転倒です。
尚、専門職後見人であれば、この辺のリスク管理は当然のことなので、各自状況に合わせて臨機応変に対応しています。
とは言え、あくまで後見制度支援預金は専門職後見人の関与のない手続であるため、利用者自身がその趣旨をしっかり把握しておくべきなのです。
結論からすると、私的には無難に決済用普通預金が良いと思っていますが、対象となる預金金額や金融機関に応じて臨機応変に対応すべき点でしょう。
ex:対象となる流動資産が1,000万円以下の場合に普通預金(有利子型)を利用する等々
その他の注意事項は後見制度支援信託と相違ありません。
例えば、取扱いできるのが、成年後見人、未成年後見人に限られる点(保佐人、補助人、任意後見人は対象ではない。)や、本人が遺言書を残しているような場合には制度自体を利用できないようなケースがある点等々です。
利用を検討の際には、あわせてご確認ください。
2.まとめ
さて、いつもに比べるとボリューム的に物足りなさを感じる部分があったかもしれませんが、後見制度支援預金につてのお話しでした。
親族単独で後見業務を行える環境が着々と進んでいる印象ですね。
実際、多くのケースで後見制度支援預金は利用されているでしょうし、今後も増え続けていくことでしょう。
ちなみに、後見制度支援信託を利用するか、後見制度支援預金にするかの明確な分水嶺みたいなものは今のところ存在しません。
ただし、体感的には管理する財産の大小で判断されるケースが多いように思えます。
既述のとおり、後見制度支援預金では専門職後見人の関与がありません。
そうなると、対象となる財産が多額である場合(例えば預金2,000万円以上)には、当該手続を終えるまでの財産管理に負担、もしくは問題が生じかねません。
結果、そのようなケースでは、裁判所は専門職後見人の関与のある後見制度支援信託を勧めがちな印象があります(あくまで僕の体感ですが)。
もちろん、それも利用者の希望いかんによって変わることもあるでしょう。
新しい情報等が入ってきましたら、また別の形でご報告させていただきます。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一