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その他葬儀費用は誰の負担? ~後見実務と絡めて~
いつもお読みいただきありがとうございます。
今回は葬儀費用についてお送り致します。
葬儀費用なんて縁起でもない話と思われるかもしれませんが、それでもやはり気がかりですよね。
往々にして高額になりがちなのが葬儀費用ですから。
- 葬儀費用は本来誰が支払うべきものなのか?
- 立て替えておいたけれど後に清算してくれるだろうか?
- 相続人間の仲が悪いので心配だ。
- 後見人がついている場合はどうなるのだろう?
人によって心配は様々です。
では、法律上、葬儀費用は誰の負担になるのでしょうか?
改めて考えてみましょう。
<目 次>
- 1.葬儀費用は故人(亡くなられた方)の負担ではありません
- 2.葬儀費用は喪主が負担するのが一般的
- 3.後見人が後見業務の一環として葬儀を執り行うことも認められていません
- 4.葬儀トラブルをなくすのが最大の目的
- 5.葬儀費用で揉めないためには
1.葬儀費用は故人(亡くなられた方)の負担ではありません
故人の通帳から葬儀費用を引き出して使用したというような話を聞いたことはありませんか?
おそらく、よくある話なのでしょう。
ただし、これ、安易に行うのは危険ですよ。
場合によっては、トラブルの元になりかねませんから―
では、それらの説明のため、少しばかり難しい話をします。
しばし、我慢いただければと。
まず前提として―
- 葬儀費用は故人が負担すべきものではないと言うのが法律上の見解です
なんと、そうなのです。
では、なぜそうなってしまうのでしょうか?
一つは、相続財産の考え方がその原因です。
法律上、相続財産とは、相続発生時(=故人の死亡時)に保有していたものに限られます。
言葉としては難しいかもしれませんが、趣旨は十分に伝わるのではないでしょうか?
対して、葬儀費用はと言うとー
当然ながら葬儀は生前に行うものではありません(生前葬はまたちょっと別の話になります。)。
あくまで亡くなってから、その後に行われるものなのです。
結果、葬儀費用というのは、相続財産の定義から外れてしまうのです。
お香典や戒名等についても同様の趣旨になります。
いずれも故人に関する支出(葬儀費用、戒名)や収入(香典)なのですが、相続財産にならない限り、それを負担等するのは故人以外になるという結論なわけです。
次に葬儀自体に対する考え方の問題です。
端的に言うと、葬儀を行うも行わないも、どのぐらいの費用をかけるかもすべて相続人の都合という考え方です。
後述する死後事務委任契約などで生前に葬儀についての明確な意思を示しているわけでもない限り、故人がどんな葬儀をしたかったかなど誰にも分かりません。
それを当たり前に故人の負担にするのはどうなの?と、言う考え方なわけです。
ちなみに僕自身、後見人をやっていると、いつもこの辺りの解釈をご家族に納得いただくのに苦労しています。
実際、親戚やお知り合いなんかが無条件に口座から葬儀費用を下ろしているようなケースが多いため、私だけなぜ?と思われがちなことがその理由です。
2.葬儀費用は喪主が負担するのが一般的
故人が葬儀費用を負担すべきではないとすれば、いったい誰が負担すべきと言うのでしょう?
- 葬儀費用は誰が負担すべきか?
実はこの問いに対する明確な法律上の規定はありません。
どうかと思う部分もありますが、実際にないのです―
既述のとおり、当然に故人が負担すべきものではありませんが、誰が支払うべきとも定められていないのです。
全くもって面倒な話です。
ただしそれについての判例はいくつかあります。
(相続人間で葬儀費用で揉め裁判になったわけですね...)
名古屋高裁平成24年3月29日判決がその代表例であり、東京地裁昭和61年1月28日判決、東京地裁平成6年1月17日判決などもほぼ同様の結論に至っています。
名古屋高裁の判決を例にしてみますと―
『亡くなった者があらかじめ自身の葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担するのが相当である。
なぜならば ~ 追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であるからである。』
ちょっとこのままでは言い回しが難しいと思いますので、分かり易くご説明しますと―
- 生前に葬儀費用を誰が支払うなどの取り決めをしておらず、かつ、相続人や同居者間等での合意がない限り、葬儀費用は実際に葬儀のプランなどを責任をもって決める喪主が負担すべき
ようするに、特殊な事情がなければ基本的には葬儀費用は喪主負担だという結論なのです。
3.後見人が後見業務の一環として葬儀を執り行うことも認められていません
ちなみに、原則、後見実務でも上記と同様の取り扱いになります。
葬儀費用が故人負担ではなく喪主負担であるため、後見人は親族に対し管理する財産から葬儀費用を渡すことができないのが一般的です。
- では後見人が喪主になればいいのではないか?
昔、実際にそう言われたことがあってビックリしました。
そうくるかと...
確かに辻褄が合いそうですし、逆転の発想にようにも思えなくはないです。
しかしながら、後見人は喪主にはなれません。
理由は簡単で、本人の後見人である以上、本人の死亡によって当然にその業務が終了してしまうわけです。
後見人が喪主になって、葬儀を執り行っていいわけがありません。
何の権限もないわけですから―
(親族が後見人になっている場合は、また別の話です。)
尚、後見人の死後事務については、他のブログ記事で取り上げていますので、興味がある方は次を参照ください。
「成年後見人の死後事務業務について/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_47/
4.葬儀トラブルをなくすのが最大の目的
以上のようなことから、後見実務上では、喪主となる方にいったん葬儀費用を負担してもらい、後に後見人から引き渡しを受ける相続財産の中から他の相続人との協議の上、清算してもらうような形を取ることが一般的です。
尚、仮に相続人が葬儀の費用負担をしない(経済上の理由でできない)ような場合は、後見人は裁判所の許可を得て、その管理財産から通夜や告別式は行わず火葬と読経のみの最低限の葬儀(直葬と言います。)を行います。
その趣旨は、相続トラブルを防ぐ意味合いです。
結構あるんです。
なぜそんな高額な葬儀をやったんだ!とか、葬儀なんてあげなくてもいいのに!とか言う傍から見ると残念な争いが...
ただし、あくまで案件によって異なることがありますので、この辺りは適宜判断すべきでしょう。
後見実務上はさておき、一般的なケースであれば相続人全員の合意の元、亡くなられた方の財産から葬儀費用を捻出すること自体を否定するものではありません。
ただ安易に、それが当然な如く行うものではないというお話です。
やむなく故人の財産から葬儀費用を捻出する場合は、葬儀の内容だけではなく、全体でかかるであろう費用についても、よく親族で話し合い、後の争いにならないよう十分注意しましょう。
※いまだ成年後見業務における葬儀費用問題の明確な指標は出されていません。
原則、「葬儀費用=喪主負担」という考え方がその根底にあるからなのでしょう。
ただし、葬儀を行うことに対する相続人全員の同意と、喪主を実際にその相続人が担当するのであれば、葬儀費用を被後見人名義の預金から負担してもやぶさかではないとの考え方もあるようです(その場合は、銀行窓口ではなく、キャッシュカードで下ろすべきなのでしょうね...)。
結論からすると、事案や案件によって大きく異なる部分ではありますので、家庭裁判所の担当書記官と綿密に打ち合わせた上で適宜な対応を求められる点に変わりはないようですが、少しづつ時勢にあわせて変化してきているのも事実なのでしょう。
5.葬儀費用で揉めないためには
自分の葬儀費用なんかで家族で揉めてほしくはない。
少なくとも僕はそう思います。
ではどうすべきなのか?
答えは単純です。
前もって決めておけばいいのです。
とは言え、曖昧ではあまり意味がありませんよ。
どうせやるなら法律上でも問題にならぬようしっかりと準備しておくべきです。
具体的には―
『遺言書』に書きしたためるのも手です。
例えば、他より多めに遺産を受ける相続人等に対し、条件として盛り込むのはどうでしょう?
第○条 遺言者は、長男である~に次の遺産を相続させる。その対価として、長男である~は遺言者の葬儀費用を負担させるものとする。
たったこれだけに格段に揉めにくくなります。
より確実な方法としては―
『死後事務委任契約』を活用することです。
死後事務委任契約では、委任を受けた者が亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等を行うこととなるため、相続人に負担を強いるようなことにはなりません。
しかもそれだけに留まらず、自身の望む葬儀を自身の負担で行うことができるわけです。
これ以上の『終活』はないのではないでしょうか?
興味のある方は一度お問合せください。
それではこの辺で。