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成年後見制度成年後見人の死後事務業務について
いつもお読みいただきありがとうございます。
当記事は昨年の夏頃に作成した記事なのですが、思っていたよりも反響が多くあったため(実のところ、僕が実際に行っている後見業務の備忘録的な意味合いもありました。)、より読みやすく、かつ、新たな情報も加えた再編集版をお送りさせていただきます。
皆さんも悩んでるんだな~、と、改めて思います。
2019.2.8
成年後見制度における葬儀費用問題を少しだけ加筆しました。
参考にしていただければと。
2020.3.11
さて、今回は成年後見人の死後事務業務についてのお話です。
少し難解な部分もありますが、それに関係する方にとっては高い関心と、大きな心配を感じている部分なのではないでしょうか?
また、仮に現時点では全く関係なくとも、今後、一切そうでないとは言い切れないでしょう。
高齢社会どころか超高齢社会に突入したこの国において、むしろ大なり小なりこうした問題に直面する可能性の方が高いと言えるのではないでしょうか?
※ちなみに、『高齢化社会<高齢社会<超高齢社会』の順で社会の高齢化の度合いが大きくなります。
<目 次>
- 1.成年後見人の業務は本人の死亡によって終了するのが原則
- 2.成年後見人が本人の死後事務をできなかったとしたら
- 3.成年後見人が行う死後事務の範囲の明確化
3-1.成年後見人が行う死後事務の概要
3-2.葬儀・告別式は成年後見人の権限ではありません - 4.まとめ
1.成年後見人の業務は本人の死亡によって終了するのが原則
まずは軽く法律の勉強から―
ある程度、法律に詳しい方であれば、表題の時点で違和感を持つこともあるでしょう。
- 成年後見人の死後業務?そもそもそんなものが成立するのか?、と...
なぜなら、成年後見人は本人(被後見人)にとっての"法定代理人"にあたります。
もっと言うと、家庭裁判所での手続に基づき"法律"で選ばれた"代理人"なわけです。
ちなみに任意で手続を依頼したような場合の代理人は"任意代理人"です。
いわゆる、司法書士に相続登記等を依頼したような場合ですね。
どちらも代理人であることに違いはありません―
- では、本来、代理人の権限(代理権)はいつ消滅するのでしょうか?
その旨は民法にきっちり定められています―
苦手な人も多いでしょうが、ちょっとだけでいいので確認下さい。
民法第111条(代理権の消滅事由)
1 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
(1)本人の死亡
(2)代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
他の細かい部分はさておき、そう、代理権は本人の死亡によって当然に消滅してしまうのです。
あくまでこれが代理人の代理権の原則です。
確かに死亡後もずっと成年後見人の代理権が続くのはおかしいでしょう。
代理行為の"主体"となるべき本人(被後見人)がもはや存在しないわけですから―
(もちろん、任意代理についても同様のことが言えます。)
それ自体は至極当然のことであり、これに論議の余地などないようにも思えますよね?
これが冒頭の違和感の正体です。
そもそも、成年後見人に死後業務など成立するのかという―
ただし、後見実務の現実はそうそう簡単なものではないのです。
たとえ、本人(被後見人)が亡くなったからと言って、成年後見人がそれ以降の業務を全く何もできなかった(もしくはしなかった)としたら、いったいどういう事態になってしまうでしょうか?
2.成年後見人が本人の死後事務をできなかったとしたら
例えば、お亡くなりになられた本人(被後見人)が介護老人ホーム等の施設に入所していたとしましょう―
実は霊安室が完備されているような施設なんてそうそうありません。
病院でお亡くなりになられたのであれば、ご遺体の保管場所は相応に充実していますが、基本、それでも長く置いておけるものでもありません。
まずは何につけても早急にご遺体の引き取りを行う必要があるわけです。
尚、特に施設なんかからは、うるさいぐらいに引取りを迫ってくることが多いため、僕なんかはたまにイラッとしてしまいます。
もちろん、その趣旨も、悪気が無いのも分かります。
分かりますので、それ以上トラブルにはなりませんが、もう少しご遺体のことも考えてくれよと思うこともしばしば―
また、ご遺体の引取りの他にも、火葬・埋葬などの手配も必要になりますし、もっと言えば、施設内に残した衣服等、動産類の処置や生前の療養費や施設利用料の支払い等々、やらなければならないことは山積みです。
もちろん、本来これらの業務は相続人となるご家族が対応すべきものではあります。
これを読んでいる皆さんの常識でもそうでしょう。
ただし、それを当然だと思えるのは、あなたが恵まれた環境にあるという事です。
元より全く身寄りのないケースもあれば、ご家族がいたとしても本人との関係性が悪く、何ら対応を拒否されるようなケース、もしくは家族側が貧困に窮しており、火葬等を行いたくてもできないようなケースだってあるのです。
しかも、これ、何ら珍しくもありません。
悲しいかな本当によくある話なのです。
ただし、それで済まされてしまっては施設や病院側は困るばかりです―
施設や病院としても意地悪を言っいるのではなく、それらを家族または後見人に処理してもらわないと本当に困るからなのです(勝手にできるものではありませんから。)。
そのため、そうした需要に応えるべく、現在の成年後見人には一定の範囲内ではあるものの、代理権の消滅の例外としての"死後事務業務"が認められるようになったというわけです。
尚、余談ですが、成年後見人の死後事務業務が明確化されたのはごく最近の話です。
僕自身はたまたま当時にそのような事態に接する機会がありませんでしたが、以前の成年後見人は、このような事態に対し、応急処分(民法第874条、第654条)等の規定をある意味で無理やりに活用し、適宜の対応をとっていたそうです。
おそらく、人によってはかなり微妙な判断を強いられた方もいたのではないでしょうか?
なにぶん、本人の死亡によって代理権のない状態だったわけですから―
以上のように、これまでの成年後見人は行うべき死後事務の範囲があまりにも不明確がであったため、行うにしててもそれぞれが異なる対応を取っていた(取らざるを得なかった)というわけなんです。
3.成年後見人が行う死後事務の範囲の明確化
おそらくは多方面から成年後見人に死後事務の関与を求める声が多かったのでしょう。
平成28年4月になってようやっと「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、成年後見人が行うことができる死後事務の範囲が明確化される運びとなりました。
- で、実際どうなったのか?
少なくとも曖昧だったものが明確化されただけでも、成年後見人としての業務はやり易くなりました。
それは間違いありません。
とは言え、全く問題がないかと言えば、そうでもありません。
正直、その上でもっとこうなっていればな、と、思うところも多々あります。
ただし、それはあくまで成年後見人の立場でしか、この法律改正に触れていないからでしょう。
この法律改正は、なにも成年後見人のものだけではなく、家族やその関係者のためのものでもあるからです。
では、その内容に触れてみることにしましょう。
3-1.成年後見人が行う死後事務の概要
第873条の2
成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第3号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
1 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
2 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
3 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)
この改正よって、それまでよく問題になっていた、施設利用料や税金等の支払いの問題(ただし、支払期限が到来しているものに限る)や、火葬、埋葬の問題が、法文上、明確化されたのです。
ただし、もちろん無条件ではありません―
成年後見人が上記の死後事務行為を行うことができるのは、条文にもあるとおり、あくまでその"必要があるとき"です。
本来の趣旨からすると当然のことでしょう。
望みもしないのに成年後見人にしゃしゃり出てこられても家族が困るだけです。
あくまで補助的な権限と考えておくべきです。
また、"成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなとき"も、死後事務行為を行うことはできないとあります。
おそらくは、相続人となる者が複数いる場合に、一部の相続人の見解が相違したケースを想定しているのでしょう。
その趣旨も十分理解できます。
なんだ、改正と言ってもこんなものなのか―
そう思われる方がいるかもしれませんが、私的にはこれだけでも大きな進歩だと思っています。
家族の協力が得られない場合、以前は本当にどうすればよいか判断に苦していたわけですから。
尚、条文上にもありますが、次の行為を行うにあたっては、"家庭裁判所の許可"を得る必要はあります。
- 火葬や埋葬に関する契約の締結及びその他相続財産の保存に必要な行為(前2号に掲げる行為を除く。)
その具体例としては―
- 本人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結(葬儀に関する契約は除く。)
- 債務弁済のための本人名義の預貯金の払戻し(振込により払い戻す場合を含む。)
- 本人が入所施設等に残置していた動産等に関する寄託契約の締結
- 電気・ガス・水道の供給契約の解約
などが考えられるでしょう。
許可を要する趣旨自体は理解できます。
さすがにこれらの行為は成年後見人の権限を逸脱してしまうでしょうから―
ただし、中には火葬等、急を要するものもあるので、裁判所の許可を得るまでのタイムラグが一番の問題となります。
許可を得るべく家庭裁判所にその旨の申請をしたとしても、その日のうちにどうこうなるものでは...
- となると、許可を得て火葬するまで間、ご遺体の保管はどうするのか?
できればこの辺も法文条、明確にして欲しかったものです。
霊安室のある介護施設など稀でしょうし、病院であっても長くご遺体を保管してはくれませんから―
状況に応じ、適宜適切な判断が求められそうです。
3-2.葬儀・告別式は成年後見人の権限ではありません
どうなるものかと思っていましたが、やはり今回の改正法でも葬儀は成年後見人の権限として規定されませんでした。
あくまで葬儀・告別式は成年後見人が関与できるものではないとの判断は変わらないのでしょう―
まず前提として、本人の死亡により後見業務は当然終了するため、成年後見人には葬儀をする権限も義務もないということになります。
- でも、葬儀・告別式は死後事務にあたるのでは?
そう思われるかもしれません。
確かに死後事務と言えばそうかもしれません。
ただし、他とは少し毛色が異なります―
そもそも、葬儀の契約者は被後見人(本人)ではありません(亡くなられていますから。)。
一般的にはあくまでも"喪主"が行うものです。
となれば、元々成年後見人が本人を代理して契約できる道理がない―
と、言う結論に至るわけです。
また、費用負担の問題もあります。
「葬儀費用は誰の負担?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_20/
どうやら、昨今、色々論議されているようですが、将来的に後見人が本人の財産の中から葬儀費用を拠出できるようにならない限りは、成年後見人の死後事務の範囲に葬儀・告別式が入ることはないでしょう。
尚、後見実務上、身寄りがなかったり、家族が費用負担をしない場合などには、"直葬"という簡易な火葬手続等を後見人が行うことは認められています。
直葬は葬儀や告別式ではなく、あくまで火葬費ですので、上記のような問題は生じないというわけなのです。
※いまだ成年後見業務における葬儀費用問題の明確な指標は出されていません。
原則、「葬儀費用=喪主負担」という考え方がその根底にあるからなのでしょう。
ただし、葬儀を行うことに対する相続人全員の同意と、喪主を実際にその相続人が担当するのであれば、葬儀費用を被後見人名義の預金から負担してもやぶさかではないとの考え方もあるようです(その場合は、銀行窓口ではなく、キャッシュカードで下ろすべきなのでしょうね...)。
結論からすると、事案や案件によって大きく異なる部分ではありますので、家庭裁判所の担当書記官と綿密に打ち合わせた上で適宜な対応を求められる点に変わりはないようですが、少しづつ時勢にあわせて変化してきているのも事実なのでしょう。
4.まとめ
成年後見人の死後事務の範囲が明確に規定されました。
ただし、葬儀の問題等、まだまだ納得できない方もいるでしょう。
また、この改正はなぜか成年後見人に関してだけのものなのです。
保佐人や補助人、任意後見人に適用されるものではありません―
とは言え、任意後見人の場合は、任意後見契約と併せて死後事務委任契約を締結していれば、この辺の問題で憂慮することは何らないでしょう。
むしろその部分においては、より広くカバーすることが可能です。
「専門家が行う終活です ~死後事務委任契約の活用~/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_25/
「或る終活の話(任意後見、死後事務委任契約等)/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_43/
将来的に死後事務についての不安がある方は、『終活』の一環としてこの辺りを検討されてみるのもいいかもしれませんね。
日々変わりつつある後見業務、実際にあなたが必要になった時点では、いったいどのような手続になっているのでしょうか―
ではでは。
write by 司法書士 尾形壮一