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物語

或る相続の話 ~前編~

さて、今回は前回好評を博した物語風ブログの第2弾となります。
(もちろんフィクションです。)

テーマは放置してしまった相続手続についてのものです。
ある程度身近な相続手続でも、実に色々なことが起こり得ます。

あるいは既に似たような経験をされたようか方もいるのではないでしょうか?

それでは本編をご覧ください。




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これはごくごく普通の主婦に起きた相続にまつわる出来事である。

2010.2
父が死んだ。

75歳だった。

今の時代からしたら少し早過ぎるような気もしたが、父は生前から下手に長生きはしたくないと言っていたため、ある意味、思惑通りの結果になったというわけだ。

残された母はたまったものではないかもしれないが、私には何となく父の感覚が分からないわけではない。

なんとも自由な人だ。

父の葬儀はごく小規模なものにした。
それも父の希望だったからだ。

あまり目立つことを好まない父だったため、母もそれには納得していた。

ただしそこには幾人かの見知らぬ参列者の姿もあった。

私としては見知った親戚ばかりだろうと予想していたため、少しばかりの驚きはあったが、どうやら母とは面識があるようだった。

おそらく父の仕事関係の人間なのだろう。
少なくとも当時はそう思っていた。



2010.3

父の49日が無事終了する。
早い早いとは聞いていたが、父の死後ここまであっという間だったように思う。

この頃ともなると母もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
子の私から見ても仲の良い夫婦だったため、母はもっと深く落ち込んで体調でも崩すのではないかと心配していたが、それも杞憂に終わったらしい。

ただ母は少しだけ老いが進んだように思う。

父は遺言書を残してはいなかった。

まあ元々そういうタイプの人ではなかったから、期待していたわけでもない。

また、主だった遺産は自宅のみであったし、自分で言うのもなんだが、家族の仲は至って良好だったため父も遺言書をつくる必要性を感じなかったのだろう。

事実、父の死後、何ら相続人間にトラブルはなく、私も弟も母がすべて相続するものとばかり思っていた。



2011.2

父の一周忌の法要で久しぶりに家族が揃うことになった。

私も弟も個別で母に会うことはあったが、家族が一堂に会するのは父の49日以来のことだった。



私にはそこで母に話したいことがあった。

父の相続手続のことである。

どうも父の相続手続を行っている様子が何らなかったためである。
少なくとも私は何かしらの書類も提出していなければ、印鑑を押した記憶もなかった。

事実、母は父の相続手続を行ってはいなかった。
ただし、父の預金は自分で少しずつ母の口座に移したのだと言う。

父が死亡した時点で預金口座は銀行によってロックされるとばかり思っていたため、『そんなことができるのか―』という驚きがあった。

後で聞いた話だが、銀行に死亡の届出をしなければ預金口座がロックされることは少ないそうだ。
ただし、死亡の届出をしなくとも、何らかの理由で銀行が死亡の事実を知った場合はその時点で預金口座をロックするらしい。

相続人間のトラブルを防止する意味合いなのだろう。

今回は致し方ないにせよ、本来であればきっちり手続をすべきなのは間違いない。
ルールを守るという意味合いでもそうだが、余計なトラブルの芽は摘んでおくに越したことはないだろうから。

ただ、やはり自宅は父名義のままだった。

当時もそうだが、この後、ことある毎に早く名義変更の手続をするよう母を促してはいたが、一向に動く気配はなかった。

そしてそのうち私も母への催促をやめた。

自宅は父の死後も母が住み続けていたし、この時点では売却等の予定があったわけでもなかったため、母の死亡時に一緒にやればいいと判断してしまったのだ。



2017.4

母が死亡する。

本人の希望もあり、父と同じ葬儀場で、父と同じような葬儀を行った。
参列者の顔ぶれも父の時とそう大差はなかった。

同様に見知らぬ参列者の姿もあった。
ただし、もはや見知らぬ参列者とは言えないかもしれない。

なぜなら父の葬儀時に見た顔ぶれだったからだ。



2017.5

母の49日後、すぐに司法書士事務所を訪れる。
相続手続の相談のためだ。

ちなみに相談料はかからないらしい。
有難い限りだ。

弟とはまだ具体的な話はしていなかった。

とりあえずはどのような手続になるのか、どんな書類が必要になるのかを確認した上で、実家の売却も含め協議するつもりでいたからだ。


相続手続を行う際、とにもかくにも必要となるのが戸籍らしい。
具体的には、亡くなった者の出生から死亡迄の戸籍をすべて収集する必要があるそうだ。

尚、私のようなケースを『数次相続』というらしい。

父が死亡した後、相続手続をしない間に母が死亡しているため、父名義のものについては、父と母双方の出生から死亡迄の戸籍が必要となるというわけだ(被る戸籍については1部でいいらしいが―)。

実に大変な話だ。

今でこそ両親の本籍は埼玉県の川口市だが、父の生まれは九州であり、母の生まれは北海道である。

さすがに行ってはいられない。

ただしそこはすべて郵送での取得が可能だそうだ。
自分で戸籍を取得しようかどうか迷ったが、すべて司法書士に任せることにした。


おそらく1ヵ月前後で必要となる戸籍が揃うという。

その間、私は弟と具体的な話を進めておくよう指示された。
それに基づき、『遺産分割協議書』というものを作成するらしい。

尚、備忘録というわけではないが、下記が一般的に相続で必要となる書類ということだ。

<被相続人(父及び母)>
・出生~死亡迄の連続した戸籍謄本(除籍、原戸籍等含む)
・除住民票又は(原)戸籍の附票

<相続人(私及び弟)
・現在の戸籍謄本(抄本)
・住民票
・印鑑証明書



2017.6
司法書士に相談後、すぐに弟と連絡を取った。

私としては両親の遺産を平等に分ける形を想定しており、弟もそれで異論ないようだった。
そのため印鑑証明書等、必要となる書類の準備だけをお願いしていた。



2017.7
司法書士より電話で戸籍等、必要書類がすべて集まった旨と、会って話をしたい旨を告げられる。
私はそれに対し近日中に伺う旨、弟と話がついた旨を伝えた。


思いもよらなかった。

何ら想定していなかった。

その後、私は司法書士より告げられた内容に唖然とし、仲の良かった弟夫婦との関係にも小さな亀裂が入ってしまおうとは―

⇒ 或る相続の話 ~中編~
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