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或る相続の話 ~中編~

さて、前回の続きとなります。

まだ前編をお読みでない場合はまずこちらをご覧ください。

・或る相続の話 ~前編~(司法書士九九法務事務所HP)
https://99help.info/blog/post_30/


相続は起きてからも大事ですが、事前の備えや正しい知識を持っておくことがより大事です。

今後の何かしらの参考になれば―

前回までのあらすじ

諸々の理由で父の相続手続を放置してしまっていた『私』。
母の死後、ようやっと相続手続を開始した『私は』予期せぬ相続トラブルに巻き込まれていく―

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2017.7
司法書士からの重要報告はごく単純なものだった。

相続人となる者の認識が異なっていたのである。

私の認識では、父の相続人は私と弟の二人だけだった。
幼少の頃からそうだったわけだから、むしろそれ以外の認識を持っている方がおかしいだろう。


ただし戸籍上では、もう一人、兄弟がいるというのだ。


私が司法書士に依頼した内容は、父名義の不動産の相続登記(名義変更)とそれに必要となる父母の戸籍の収集及び遺産分割協議書の作成だった。

その過程でもう一人の相続人の存在がわかったのだそうだ。

出生から死亡までの戸籍を取集することで、身分関係(結婚、離婚、子供の有無等)のすべてが分かるらしい。

なるほど、相続手続に戸籍が必要となる理由もうなずける。



ただあの父に愛人でもいたとでも言うのだろうか―
正直、腑に落ちなかった。



それもそのはずで、もう一人の相続人は父ではなく母の子だったのだ。

厳密に言うと、母に愛人がいたわけでもない。
単に母は父との結婚が初婚ではなく、再婚だったというわけだ。

そして、前夫との間に産まれた子が今回の相続人というからくりである。

もちろん私はそれらについて両親から何一つ伝えてられてはいなかった。

私がまだ子供ならそれも理解できる。
ただ、日頃から両親の世話をしていた私にすら隠しておくなんて―

そうした思いが渦巻いてしまい、私はそれ以上うまく思考を働かすことができなくなってしまった。
せっかく時間を割いてくれた司法書士には申し訳なかったが、その日はそれ以上の話はせず後日改めて伺う旨を告げた。



3日後
なんとか平静を保てるようになってくると、湧き上がってくる一つの疑問があった。

なぜ父名義の不動産の相続で、母とその前夫との間に産まれた子が相続人になるのだろうか?
養子縁組をしていたでも?


そうした疑問を抱えつつ、再度、司法書士事務所を訪れた。

結論からすると、養子縁組の事実などはなかった。
父の相続人ではないのではないか?という私の疑問もその通りだった。

何も間違ってはいなかったのである。


ただし、それでも彼は(種違いの相続人は年齢上、私の兄にあたる人物だった)今回の相続人になるのだという。



たしかに父の相続人ではない。
しかし、父を相続した母の相続人であると。

司法書士はそう説明した。

そして、私は自身の選択の失敗に気付いたのである。


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私なりに相続の怖さを感じた瞬間だった。
また数次相続の意味をはじめて理解した瞬間でもあった。

対象となる相続人は父死亡時のものではないのだ。
あくまで現在の、相続手続を実際に行う時点での相続人が対象となるわけだ。

確かに死者と遺産分割の協議ができるわけがない。
手続未了のうちに母が死亡した以上、本来母が行うべき協議をその相続人が行わなければならないのは道理である。

そのため私と弟は父と母双方の相続人として、兄は母のみの相続人として協議に参加することになるのだ。



父の死後、母が相続手続を行っていれば、私や弟が母に任せきりにするのではなく、率先して手続を行っていれば簡単に防ぐことのできた事態だろう。

もしくは父が母以外に相続させる旨の遺言書を書いてさえいれば―

後悔は先に立たずとはまさにこのことだろう。



その日の夜
弟に電話で経過報告をすることにした。
兄のことは触りだけ話して、詳しくは近く会った際に話すとも。

弟も兄の存在を知らなかったようだ。
電話口から驚いた様子が伝わってくるようだった―

父はどうだったのだろうか?

近く叔父や叔母に聞いてみることにしよう。



2日後
弟から電話があった。

もしかしたらそうした内容は世間ではよくある話なのかもしれない。
むしろ、もっとひどい話も多いのだろう。

ただ、それでも私には十分に耐え難いものだったのだ。

弟曰く、本来であれば父の財産は長男である自分がすべて相続すべきだ。
ただし、両親の世話を任せっきりにしていたこともあるので、自分は遺産の半分で譲歩する。
もう半分は兄と私で自由に分ければいい。
その代わり手続は引き続きそっちで進めてくれ。


要約すると、概ねそんな感じだ。


それはこれまでの弟と私の関係ではあり得ない提案だった。

私は両親の遺産を独り占めする気など毛頭ない。
むしろなんならすべて弟が相続してもいいとすら思っていた。
それは弟も分かっていたはずだ。

思わぬ兄の出現が弟を変えてしまったのだろうか?

そんなことを考えていると、相談当初に司法書士が言っていた言葉が頭をよぎった。



だいたいにおいて相続でトラブルを起こすのは当事者ではない。
その配偶者や子であると。
そしてそのうち当事者も巻き込まれそこからトラブルになると。
兄弟姉妹といえども所詮は他人だと。


はじめはどこか冷たい言葉のように聞こえたが、実際に同じような立場におかれてみると、言い得て妙だと納得してしまう。

おそらくそういうことなのだろう―

私は弟と会う予定をキャンセルし、受話器を置いた。



翌日

司法書士に弟からの提案と、それに加え、私が家庭裁判所での相続放棄を検討している旨を伝えた。

・相続放棄手続(司法書士九九法務事務所HP)
https://99help.info/service/succession/post_24/


もはやこれ以上、弟と関わり合いを持ちたくないと思ったのだ。


しかしながら、司法書士の説明ではそれも難しいようだった。

ちなみに母の相続に関して言えばそれもまだ可能らしい。
ただし、父の相続に関してはもはや時間が経ちすぎているらしく、どうやっても要件を満たすことができないとのことだった。

本来的には父の相続手続であるため、母だけを相続放棄したところであまり意味がないとも―

たしかに私が父の死亡をしってから8年近くが経過してしまっている。
新たに借金の存在が明るみになるような事実もないのだから、それも仕方のないことなのだろう。

相続を放置してしまったつけがここにきてどっと押し寄せてくるようだった。




結果、私は相続手続を続行することにした。
どうにか兄にコンタクトを取り、その結果いかんで判断すべきとの司法書士の助言を受け入れたためだ。

仮に当時の私がそう判断できていなければ、おそらく今でも手続を放置したままになっていただろう。

劇的というわけではなかったが、事態はそこから少しづつ好転していったのだ。

⇒或る相続の話 ~後編~