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物語或る相続の話 ~後編~
さて、全3回にわたってお送りしました『或る相続の話』もこれで最後となります。
すべて読まれた方がどれくらいいるかは分かりませんが、もしいたらありがとうございます。
まだの方はよろしければこちらをどうぞ―
ともあれ後編の始まりです。
前回までのあらすじ
父の相続手続を放置してしまった結果、明らかになった兄の存在、弟との不仲、それらに嫌気がさすが相続放棄すらもできず―
もはや『私』の相続手続は暗礁に乗り上げてしまったかのように見えたが―
2017.8
司法書士からの助言あり、まずは兄と連絡を取るべく手紙を書くことにした。
住所は分かるのか?
と、言う疑問はあったが、このようなケースだと、戸籍等の情報から司法書士が職務上の権限で調べることができるらしい。
伝えられた情報は兄の氏名と住所―
住所は意外と近隣のものだった。
すぐにでも会いに行ける距離だ。
それよりも私はその氏名に目が留まった。
兄がいたという驚きばかりが先行し、これまで何ら気付けていなかったのであるが、冷静になってみるとその氏名はどこかで見覚えがあるものだった。
私はこの氏名の人物を知っている―
その確信があった。
その後
驚くほど簡単に兄と連絡を取ることが叶った。
なんてことはない。
手紙を出すまでもなく、兄の電話番号を私が知っていたのだ。
もちろん以前から面識があったわけではない。
ただ思い出したのだ。
どこかで氏名を目にしたはずのその『どこか』を。
兄は父と母の葬儀に出席していた見知らぬ参列者その人だったわけである。
連絡先は香典に記してあった。
私達には何も知らされていなかったが、母と兄は生前に多少なりとも交流があったのだろう。
でなければ、父の葬儀にさえ参列していた説明がつかない―
ただし、それも今となってはどうでもいいことのように思えた。
正直、一言ぐらい言っておいて欲しかったが、文句を言おうにももういないのだから。
ちなみに兄とは大した話ができたわけではない。
相続手続に協力して欲しいということと、大まかな父と母の財産を伝えたぐらいだ。
なんとなく母とのことは切り出せなかった。
いきなり過ぎて他に共通の話題もなかった。
結果的に兄は手続に全面的に協力してくれることになった。
しかも、自身は何も相続しない形を望むという。
私としては適正な権利の範囲内であれば、当然兄の主張を聞き入れるつもりでいた。
理由はどうであれ同じ母の相続人なのだから―
ただし、特に預金などは父と母の財産が交じり合っていたため、それをどう対処していいかを心配していたわけだ。
弟とのこともある。
それを知ってか知らでか、私が何を言っても兄は何もいらないというスタンスを通していた。
その後
これまでとは打って変わってスムーズに事は進んでいった。
遺産分割協議書も無事に完成した。
基本的な内容は私と弟で等分する形だ。
兄とは何度か話をしたが、結局、何もいらないという主張は変わらなかった。
司法書士から揉めやすいケースだと事前にくぎを刺されていたため、それ相応の覚悟はしていたが、良い意味で拍子抜けする結果となったわけだ。
棚から牡丹餅であればあるほど相続は揉めやすい。
司法書士が言っていた。
確かにそうなのだろう。
たまたま今回のケースにはそれが当てはまらなかっただけなのだと思う。
運がいいのか悪いのかは分からないが、手続が進むのであればもはやなんでもいい。
遺産分割協議書の内容に話を戻すと、基本は弟と等分で相続したが不動産については私が単独で相続し、その売却代金を等分する形をとった。
どうやら専門用語でこれを『換価分割』というらしい。
私にも弟にも既に持家があるため、実家は売りに出すことにしたためだ。
思い出のある家なので手放すのは少し寂しくはあるが、今後の使途がなく、空き家のままにしておくのは防犯上の心配もある。
とは言え、自己管理していくにも限界があるし、賃貸に出そうかとも思ったが、それには結構なリフォームが必要だろう―
そうしたことを踏まえての苦渋の決断だった。
また、単純な分割方法ではなく換価分割を選んだのは、弟の存在である。
あれから弟とは、必要最低限の事務的な会話しかしていない。
兄の件がまとまったことについても、特にあちらか何も言ってこなかった。
もはやお金さえ入ればどうでもいいのだろう。
私の苦労など知る由もない。
兄の連絡先すら聞いてこないのだから。
たしかに弟の子供はこれからお金のかかる年齢になってきた。
あくまでそれが起因してのことなのだろう。
私自身、頭ではわかっていたがそれをそのまま許容できるほど人間ができていないらしい。
そうした状況下で弟と不動産を共有することには抵抗があった。
そこで司法書士から今回の換価分割をすすめられたのである。
これではあれば私一人でゆっくり不動産の売却活動を行える。
司法書士から腕の良さそうな不動産業者も紹介してもらえた。
尚、その上でトラブルになりにくい不動産売却の進め方も教授されている。
最終的な不動産の売却金額は弟に決めさせるのだそうだ。
なるほど確かに理にかなっている。
2017.11
無事、相場相当額での不動産売却が終了する。
ひとまずはこれで手続は終了である。
尚、今回、大した財産ではなかったので相続税はかからなかったが、不動産の売却に伴う譲渡取得税というものはかかるらしい。
また、次年度だけに限るそうだが、不動産の売却益の関係で登記名義人である私の市県民税がいつもりより多くなるそうだ。
収益の分、年収が上がるのと同等だろうから、それも分からない話ではない。
司法書士が何を言わんとするのかと言うと、単に不動産の売却代金から仲介手数料等、売却にかかる諸経費を控除した金額を等分するのではなく、それらの税金を加味した上で弟と分配をしないと私が損をしてしまうということなのだろう。
そうした心配自体は有難かったが、実のところそれらすべてを私が支払うつもりでいた。
もはやその辺の調整を弟としたくはなかったからだ。
大した金額でもないのに、あれやこれや文句を言われるぐらいなら、お金で解決してしまおう。
元より私のではなく親から相続した財産なのだから―
ある意味、有用な使い方と言えるだろう。
これから不動産の売買代金を弟に振り込んで終わりにしよう。
そして少し落ち着いたら兄にお礼もかねて会いに行こう。
今度は少しだけ母の話ができるかもしれない。
そして、そう遠くない未来に夫を連れて司法書士の事務所に再訪しようと思う。
今回の件を私なり検証してみた結果、相続手続を何年も放置してしまったことが一番の要因だっただろうから(司法書士にもそう言われた。)。
私等の子供がこれと同じことをしないとは言い切れない。
なので夫婦でしっかりとした『遺言書』を残しておこうと思う。
それが無駄になることはないだろうから。
少し早すぎるような気もするが、専門家からすればそんなことはないらしい。
気がかわれば何度でも書き直せばいいとも―
『私』の遺言書作成のお話はまだべつの機会に。
ではでは。