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相続兄弟を相続する場合の注意点等について
さて、今回は相続の中でも、兄弟相続についてのお話です。
相続は必ずしも配偶者や子供だけに起こるものではありません。
状況次第では兄弟やその子供(甥姪)が相続人になることだってあるのです。
色んな意味で一般的な相続よりも複雑になりがちな兄弟相続―
近頃、相談を受けることが多くなってきましたので、その注意点等を検証してみることにしましょう。
目 次
- 1.どういった場合に兄弟(姉妹)が相続人になるのか?
1-1.相続人には明確な優先順位があります
1-2.兄弟相続は意外と多い - 2.一般的な相続と兄弟相続の違い
2-1.相続手続を行う上での戸籍謄本等の必要性
2-2.兄弟相続には争いになる要素が詰まっている - 3.兄弟相続には遺言書が最も効果的
3-1.兄弟には遺留分が認められていない
3-2.遺言書があれば他の相続人との話し合いを回避できる
3-3.遺言書があれば戸籍収集の手間がだいぶ減る - 4.兄弟を相続する手続は専門家への依頼をお勧めします
1.どういった場合に兄弟(姉妹)が相続人になるのか?
まず前提として、兄弟(姉妹)は常に相続人になるわけではありません。
あくまで一定の要件を満たす場合にだけ、相続人となる資格を有するわけです。
それ自体、知らなかった方もいるのではないでしょうか?
では、どういった場合に兄弟(姉妹)が相続人となるのか、また、それにまつわるあれこれを検証してみることと致しましょう―
尚、兄弟相続に該当する民法の条文等については、以前に当ブログ内でも紹介してますので、より詳しく知ってみたいという方はこちらを参照してみてください。
「相続って何?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_35/
1-1.相続人には明確な優先順位があります
いったい誰が相続人になるのか―
難しい法律の説明をするよりかは、分かり易く順位付けを行ってみます。
その方がイメージし易いと思いますので。
(あくまで相続人になる優先順位のお話しです。)
- 殿堂入り 配偶者
- 第1位 子供
- 第2位 両親(祖父母)
- 第3位 兄弟(姉妹)
まあ、簡単に言うとこんな感じです。
では、まずは常に相続人となるグループについて―
なんと言っても配偶者が最強です。
配偶者は常に相続人となります。
元々の権利も多いですし、今のところ一夫多妻制が認められていないこの国では、頭数で取り分が減るようなこともありません。
また、約40年ぶりの相続法の改正によりその権利は盤石なものとなりそうです。
まさに殿堂入りと言っていい優遇っぷりです。
「民法(相続法)が改正されます/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_56/
続いて第1位の子供(既に死亡している場合は孫)ですが、こちらもかなり優遇されています。
配偶者と同等か、もしくはそれに近しい権利を持っていると言えるでしょう。
同様に常に相続人となります。
ただし、子供が複数いる場合は頭数で権利が等分されてしまいますので、配偶者と比べると優先順位は少しだけ落ちる傾向にあります。
続いて常に相続人になるわけではないグループについて―
まずは第2位の両親(祖父母)の登場です。
彼等は常に相続人になるわけではなく、子供や孫等、本人を基準として、それより下の世代がいない場合にのみ相続人となります。
子供がいる場合は、無条件でお役御免と言ったところなのです。
ただし、本人に子供や孫がいない限りは、たとえ配偶者がいても相続人となる資格を有します。
(「相続人=配偶者+両親」と言ったイメージです。)
とは言え、もちろん生物ですから本人に事故や病気等でもない限り、基本的には年配者である両親(祖父母)が先に亡くなるケースが多いです。
そのため、実際に彼等が相続人になるケースは少な目と言えるでしょう。
最後に本ブログの主役である、第3位の兄弟(姉妹)の登場です。
彼等の条件は最も厳しく、両親同様、常に相続人になるわけではないのはもちろんのこと、子供や孫等、本人を基準として、それより下の世代がいない、かつ、両親(祖父母)等の上の世代がいない場合にのみ相続人となります。
兄弟(姉妹)は本人からみて下の世代がいても上の世代がいても、相続人にはなれません。
その両方がいない場合のみ、横の世代である兄弟(姉妹)が相続人となるわけなのです。
そのため、一見すると兄弟相続は最も起こりにくそうであり、改めて検討するまでもないようにも思えますが―
1-2.兄弟相続は意外と多い
随分昔は少なかったと思います。
既述のとおり、兄弟相続は本人に子供がいれば起こりませんから。
でも、少子化が騒がれている現在ではどうでしょう?
ここで面白いデータがあります。
『生涯未婚率』という言葉をご存知でしょうか?
50歳になる迄の間に一度も結婚をしたことがない人の割合を示す統計です。
直近(2015年)の国勢調査の結果、生涯未婚率は男性についてはその割合が23.37%、女性については14.06%であり、いずれも過去最高を更新したそうです。
ここ5年だけを見ても、生涯未婚率は男女共に3%以上増えています―
現在と僕の生まれ年でもある1980年と比べてみるとその差は歴然です。
なんと当時は男性が2.6%であり、女性が4.45%ですからね。
時代の流れと言うかなんと言うか―
たかだか40年余りでこの変わりようです。
ここまで来ると立派な社会問題と言えるでしょうね。
これに伴い高齢化問題や少子化問題等、世間では様々な問題が騒がれていますが、相続の分野にも徐々にではありますがその影響が出始めています。
未婚であれば当然ながら子供がいない比率も多くなります。
加えて言うと、このデータには配偶者はいても子供がいない夫婦が含まれてはおりません。
子供をつくらずに離婚した夫婦などにも同じことが言えます。
それらを含めた詳細なデータについては見当たりませんでしたが、少なくとも兄弟相続の該当者が上記のデータ以上の割合になるであろうことは間違いなさそうです。
歓迎はしませんが、そう遠くない未来に兄弟相続の方がむしろ一般的になる時代が来るのかもしれませんね。
実際、僕の周りにも未婚者や子のいない夫婦は多いですし、兄弟相続の案件自体、確実に増えているように思います。
そしてそれは今後も加速度的に増えていくことでしょう。
2.一般的な相続と兄弟相続の違いについて
どちらも相続手続ですので、根本的な相違点は多くありません。
兄弟相続だからと言って、特別な何かをするわけでもありません。
ただし、細かい書類や、かかる手間は大きく異なってきます。
以下、一般的な相続と兄弟相続を簡単に比較してみました。
一般的な相続 | 兄弟相続 | |
必要となる戸籍 | ・出生~死亡迄の連続した戸籍謄本等一式 |
・出生~死亡迄の連続した戸籍謄本等一式 |
相 続 人 | ・配偶者と子供 ・配偶者がいなければ子供のみ |
・配偶者がいれば配偶者+兄弟姉妹 ・配偶者がいなければ兄弟姉妹のみ ・既に亡くなった兄弟がいる場合はその子供(甥姪) |
あくまで簡単な比較です。
これだけではありません。ありませんが、たったこれだけでも伝わってきませんか?
もちろん兄弟の数や死亡の有無にもよりますが、必要となる書類だけを見ても面倒そうです。
加えて相続関係すらも複雑になるとするならば―
2-1.相続手続で戸籍謄本等が必要になる理由について
上記の表にも在るとおり、兄弟相続は、とにかく必要となる戸籍謄本等の量が多いです。
疑問に思ってる方もいると思うので、それについて少しだけ―
一般的な相続であろうと、兄弟相続であろうと、それが相続である以上、手続に戸籍謄本等は必須となります。
その意味というか意図は―
- 誰が死んだのか?
- 誰が相続人になるのか?
この2点を戸籍という公的な書類によって証明するためなのです。
「人の死」と言う、とても重要なことですので、たとえ家族からの申し出であろうと、それを口述だけで済ませるわけにはいきません。
尚、具体的には遺言書でもない限り、被相続人(故人)の出生~死亡迄の連続した戸籍謄本等を集めることとなります。
ごく一般的な相続であってもそれは同様です。
その結果―
- 婚姻・離婚の有無
- 子供の有無
が、公的に証明されるというわけなのです。
ただし―
兄弟相続の場合にはこれだけでは済みません。
加えて次の点を証明する必要があるのです。
- 両親(その上の代についても)の死亡
- 兄弟の数
- 既に亡くなっている兄弟(姉妹)がいる場合は甥姪の有無
具体的には両親(もちろん、父、母、双方です。)の出生~死亡迄の連続した戸籍謄本等と、状況によっては更にその上の代についてのものも必要となります。
これによって上の世代に相続する人物がいないと言う事と、兄弟(姉妹)の数が証明されるわけです。
尚、既に亡くなっている兄弟(姉妹)がいる場合には、同様にその者についても出生~死亡迄の連続した戸籍謄本等が必要となりますが、これは甥姪の有無を証明するためなのです。
手間も書類も一般的な相続とは比べ物にならないと言うわけです。
2-2.兄弟相続には争いになる要素が詰まっている
両手続の相違点は書類上の手間だけではありません―
むしろそれだけであれば、面倒だな、で済む話でしょうが、なかなかそう簡単にはいきません。
相続はよくもめます。
本当に多いです。
非常にシンプルな相続であっても、もめる時はもめます。
お金の問題だけでもその要素は十分なのに、親の介護の問題等、気持ちの問題も重なることが大きな要因なのでしょう。
それが兄弟相続の場合で言うと―
一般的な相続と比べ、どちらがもめやすいかと言うよりは、兄弟相続は少し違った要因でももめる可能性があるのです。
少し語弊があるかもしれませんが、兄弟相続は棚から牡丹餅的な側面があります。
親の財産をあてにしている方は多くとも、兄弟(姉妹)の財産をあてにしている方はそう多くはないでしょう。
元よりあまり期待されていないのが通常なのです。
しがらみが少ないとも言えます。
それが甥姪の代にでもなればなおさらです。
これまで亡くなった方に一度も会ったことがないというような事例も珍しくはありません。
古き良き時代とは異なり、親族間が疎遠であることはもはや一般的ですから。
そんな関係性において遺産の話を、お金の話を、時には借金の話をするわけです。
結果、貰えるものはしっかり貰っておこうという傾向が強く生じることもありますし、関わり合いを持ちたくないからと言って手続自体に非協力的になってしまうこともあります。
その他、話し合いを行うべき人数も問題なります。
手続を放置してしまった兄弟相続などはそれが顕著に表れてしまうでしょう。
相続に甥姪が絡む案件は、相続人の数が2桁になってしまう事例も珍しくはありません―
また、異父兄弟や異母兄弟の存在も忘れてはいけませんよ。
両親のことは、意外と知っているようで知らないものです。
互いに再婚していたり、婚姻外の子がいたりすることもしばしば―
好き好んでそんな話は子供にしませんからね。
亡くなって初めてそうした事実が分かることもあります。
これらは一般的な相続の場合にも言えることですが、兄弟相続の場合はより超えるべきハードルが上がってしまうというわけです―
3.兄弟相続には遺言書が最も効果的
本人が遺言書を残さないのであれば、周りがせっつきましょう!
思わずそう言ってしまう程、兄弟相続の場合は遺言書の有る無しで色んなことが変わります。
もちろん、良い方に―
お子様のいない家庭は夫婦がそれぞれに、未婚者の兄弟がいる場合は他の兄弟が率先して、遺言書を書いてみるよう勧めてみませんか?
もちろん無理に行っていけません。
喧嘩の原因になってしまいますから。
まずは自分でメリットを把握し、それを相手に理解させるのがコツです。
遺言書があれば―
- 夫や妻の兄弟とお金の話し合いをしなくて済みます
- 甥姪等、疎遠な親族との話し合いを回避することができます
- より面倒な戸籍謄本等の収集の手間が少なくなります
その他にもメリットはあります。
ただし、むしろそうすべき根拠について理解する方がより分かり易くなるでしょう―
3-1.兄弟には遺留分が認められていない
ちょっと難しい話になってしまいますが、とても大事な話です。
少しだけ我慢して着いて来てください。
いくらしっかりとした遺言書を書いていようとも、『遺留分』という権利を原因に相続人間に争いが生じることがあります。
その遺留分とは何かを簡単に説明すると―
- 遺留分 = 法律上で認められている相続人の最低限の権利
と、なるのですが、これではまだ分かりにくいですよね?
簡単な事例を挙げてみましょう―
例えば、母は既に他界しており、父と2人の子供(仮に長男を太郎と次男を次郎にしましょうか。)がいるとします。
父は長男である太郎だけに全財産を与えるという遺言書を書きました。
もちろん遺言内容自体は有効です。
何ら問題ありません。
太郎のように特定の相続人が多く遺産をもらうのは、むしろよくある内容です。
尚、このケースでは、仮に遺言書がなければ、それぞれ半分(2分の1)ずつを相続する権利が太郎と次郎にありました。
それが遺言書の存在によって、次郎の権利のすべてなくなってしまったわけです。
こうした次郎の不利益に対する法律上の助け舟のようなものが、『遺留分』なのです。
「故人の遺志は最大限尊重するが、権利を失う相続人が不利益を主張するのであれば、最低限の権利は保証する。」
と、でも言いましょうか―
具体的には、次郎は本来貰えるはずだった権利の半分(2分の1の半分ですので、このケースだと4分の1となります。)を遺留分として太郎に請求できるわけです。
結果、ただ単純に遺言書を書いたとしても、遺留分で揉めてしまうこともあるというわけなのです。
ちなみに遺留分は法律で保障された権利ですので、それを排除することはできません。
例えば遺言書に遺留分を主張しないよう指示したところで、心情的な面は別としても法的な効果は望めません。
出来ることがあるとすれば、遺留分減殺請求を行う順序を指定するぐらいのものなのです。
(これも結構重要なことなので、いずれ他のブログでご紹介致します。)
遺留分とは、非常に強力な権利であり、反面、立場が変われば、厄介な権利にもなり得ると言うわけです。
ようやっと本題に入れます。
兄弟姉妹には、この遺留分という権利が元よりありません。
兄弟姉妹以外の相続人は皆、遺留分を主張できる権利があります。
最強の権利を持つ配偶者はもちろんのこと、それに次ぐ権利を持つ子供、両者には劣るが優先順位第2位である両親ですらこの権利を持っています。
しかし、兄弟姉妹にはこれがありません。
両親とは異なり兄弟は代襲相続の問題が絡みますので、その点も原因の一つでしょうが、やはり一番は―
兄弟姉妹の財産まであてにするな!
と、言う事なのかもしれませんね。
以上のようなことから、兄弟相続の場合では、遺留分を気にせず自由に遺言書を作ることが可能となりす。
遺言書の様式さえしっかりしていれば、争いになるケースも少なくなることでしょう。
是非、活用ください。
3-2.遺言書があれば他の相続人との話し合いを回避できる
兄弟相続の場合の相手方は、疎遠だったり、必要以上に気を使う相手だったりすることが多いです。
配偶者の絡む兄弟相続であればなおのことその傾向が高まります。
自分側の親族ならまだしも、夫や妻側の親族との協議は気が滅入って仕方ないことでしょう。
遺言書があればそうした面倒を回避することが可能となります。
皆で配分を決めるわけではなく、ただただ遺言内容を実現するだけですので、改めて相続人全員で協議する必要はありません。
例えば不動産の名義を変更するにあたって、権利を取得しない相続人の印鑑証明書や押印が要求されることもありません。
わざわざ遠方まで頭を下げて印鑑を貰いに行く必要がなくなるわけです―
十分過ぎる程のメリットと言えるのではないでしょうか。
3-3.遺言書があれば戸籍収集の手間がだいぶ減る
既述のとおり、兄弟相続に必要となる戸籍謄本等はその量が多く、大変な手間がかかってしまいがちです。
なんと、この点についても、遺言書一つで大きく改善することができるのです。
戸籍関係に限定して言えば、必要となる戸籍謄本等は、遺言者が死亡した事実がわかるもの(死亡の記載ある戸籍謄本もしくは除籍謄本)と、遺言者との関係性のわかるもの(遺言を受ける人の戸籍謄本等)だけで足ります。
少なくとも故人や両親等の出生~死亡迄の戸籍謄本等一式を取得する必要はないわけです。
実際に自力で戸籍を収集した方でないと分かりにくいかもしれませんが、兄弟相続ともなると、ほんと大変なんです―
ちなみに、この相違は戸籍取集を行う意味合いを考えると分かり易いです。
遺言書がない場合は、まず「誰が死んだ」、「誰が相続人になるのか?」を戸籍謄本等で証明する必要があります。
対して遺言書がある場合は、同様に「誰が死んだ」を証明する必要はありますが、「誰が相続人になるのか?」を証明する必要はありません。
わざわざ戸籍謄本等で確認しなくとも、遺言書にその希望が書いてありますから―
このように、遺言書は後の相続手続面においても優秀な働きをしてくれると言うわけです。
4.兄弟を相続する手続は専門家への依頼をお勧めします
まずは後々苦労しないよう、なるべく遺言書を残しておくべきです。
ただし、それが叶わなかったら―
後学のために相続手続を自分で行うことに異論はありません。
戸籍収集についても同様です。
ただし、遺言書の無い兄弟相続についてはそれをお勧めしません。
全くお勧めする気はありません。
恐らく費用対効果が合わないでしょうから―
かかる手間だけならまだしも、多種多様な法的知識を要していないと、2度手間、3度手間を踏んでしまう可能性が高いのです。
やってみれば分かると思いますが、それ自体、無駄になってしまいますよ。
司法書士九九法務事務所は、相続についての相談も随時無料で行っております。
もし、兄弟相続で困ってる、迷っているような是非一度お気軽にご連絡ください。
では今回はこの辺で。