ブログ

相続

遺言執行者は相続登記を申請できるのか?

さて、今回はじゃっかん実務家寄りかな?とは思いますが、遺言執行者が絡む相続登記についての話です。

遺言書があり遺言執行者が定められている状態で、いったい誰が相続登記の申請人になるのか?


こうした問題はシンプルにして、非常に重要なものです。
知っている人も、知らない人も、改めて整理しておきましょう。





目 次



1.遺言執行者とは

メインテーマの前におさらいを少し。


当ブログでも何度か断片的にですが取り上げている"遺言執行者(いごんしっこうしゃ)"
彼等の仕事は故人の残した遺言書の内容を実現することです。


時には単純な相続手続だけではなく、遺産である不動産を売却換価したり、子の認知や、推定相続人の排除を行ったりもします。

遺言内容によっては、非常に広範囲な権限を持つことがあるわけです。


ここで遺言執行者についての民法の条文を紹介します。

ちなみに赤字部分がこの度の相続法の改正で変更となった部分です。
より遺言執行者の職務範囲が明確化された感じですね。


民法第1012条
1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる



これだけを読む限り、遺言の内容を実現するためならなんでもできそうな感じですよね?
であれば、遺言執行者が相続登記の申請人になることに違和感はないようにも思えますが...


2.遺言執行者は相続登記の申請人になれない?

9403e2f168b1e3249db29c636e398bb8_m.jpg

上記の条文からすると矛盾するように思えるかもしれませんが、原則、遺言執行者は相続登記の申請人にはなれなません。

実際の法務局の取り扱いもそうなのです。


ちなみに、そうなる根拠になったされている"香川判決"という有名な判決があります。
要点のみ抜粋してみますと―

特定物を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は遺産分割方法を定めた遺言であって、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該特定物が当該相続人により承継される。


まあ、分かりにくいですよねこれじゃあ...
判決文なんてものはだいたいこんな感じなのです。

じっくり検証してみましょう。



2-1.「相続させる」旨の遺言では遺言執行者は相続登記の申請人になれない

上記の「香川判決」なんかは、まさに「相続させる」旨の遺言の典型例でした。

では、具体的にどういったものがそれにあたるのでしょうか?


結論からすると、だいたい該当します。
むしろ該当しないケースの方が珍しいぐらい...

例えば遺言例で言うと次のようなケースです。


  • 第○条 遺言者は末尾記載の不動産を長男である〇〇に相続させる



ごくごく普通の遺言例です。
僕自身、相続人に対する遺言では上記のような書き方をしています。
いや、むしろ、他に書き方が無いというか...

では、なぜそのような結論に至ったと言うのでしょう?

139783.jpg
先の香川判決に話を戻します。

「何らの行為を要せずして~、直ちに~相続人に承継される。」
と、あります。


この部分をもっと噛砕いて言うと、「相続が開始すればその権利は直ちに相続人に移っているでしょ?だったら、もはやその部分の遺言を執行する必要なんてなく、ましてや遺言執行者が相続登記に関する権利や義務を持つのは変でしょ?」という感じなのです。


もっと言えば―

  • 当然のことなんだから、遺言執行者が執行する必要もなければ、その権限もない

そう、言ってるのです。


そのため、原則、「相続させる」旨の遺言では、遺言執行者ではなく対象となる不動産を取得する相続人自身が相続登記の申請人となるわけです。


ちなみに、遺言執行者に相続登記の申請権限がないからと言って、遺言執行者の同意なく相続人が遺言内容と異なる結果の相続登記を行ったとしましょう―

これについて当然遺言執行者は、本来の内容に是正させる義務がありますし、その裁判に基づく登記申請を単独で行うことも可能です。



2-2.「遺贈する」旨の遺言は遺言執行者の独壇場

遺言執行者が相続登記に関与できないのは、あくまで相続人に対する「相続させる」旨の遺言についての話です。

それ以外、例えば、相続人ではない第三者に対する「遺贈」などでは、遺言執行者は独壇場とも言える大きな権限を持ちます。


先に紹介した遺言執行者の条文にもあるとおり、今回の相続法の改正でもそれが明確化されています。


  • 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。



相続人が入り込む余地すら与えていません。


ちなみに遺言執行者がいない場合の遺贈の登記は、
受遺者(遺産を受ける側)を登記権利者相続人全員を登記義務者として行われるのが通常です。

登記の大原則に基づいた"共同申請"です。

登記権利者と義務者が互いに協力し合う必要があるわけです。



では仮に登記義務者となる相続人の1人が遺贈自体を不快に思い、その登記手続に協力しなかった場合はどうなるのでしょう?

相続人にしてみれば、遺言書さえなければ相続していたはずの遺産でしょうから、面白く思わない人がいても不思議はありません。



一切、登記手続には協力しない―



そうしたトラブルも容易に起こり得ることでしょう。
このままでは遺言執行者は遺言内容を実現できなくなってしまいます...


以上のようなことから、遺贈は遺言執行の執行の余地が十二分にあると判断され、「相続させる」旨の遺言とは異なり、遺言執行者がその登記手続を代行できるとの結論に至るわけです。


尚、この際、遺言執行者は相続人や受贈者の関与なく、登記権利者兼義務者の立場でその登記を行うことができます。



2-3.清算型遺贈の場合の相続登記はどうなる?

"清算型遺贈"

見た感じいかにも難しそうですが、そこまで大したことはありません。


清算型遺贈とは―
不動産等の遺産を売却換価し、その売却代金を相続人等に対し相続または遺贈させる手続です。

ようは分かり易く現金化してから遺産を分けようという趣旨ですね。


この場合、不動産の売主は遺言執行者となります。
尚、その登記の前提として相続登記(法定相続となります。)が必要となるのですが、この相続登記を行う権限は遺言執行者にあります。


相続人名義の相続登記を遺言執行者が行える例外というわけです。




3.遺言執行者を定めるメリット

4bfc22fd35a5b83a15cdbf933395ad10_s.jpg

「なんだ、一般的な相続登記に関与できないなんて、わざわざ遺言執行者を定めておく必要はないのかな?」


単純にそう思われてしまうと大変なので、少し遺言執行者のフォローをさせていただきます。


決して遺言執行者は無用の長物というわけではありません。
そこだけは勘違いしないようにしてください。

実際、僕のつくる遺言書にも必ずと言っていい程、遺言執行者を定めています。
理由はその方が依頼者に有益であると判断しているからです。



ともあれメリットを紹介しましょう―

遺言執行者を定めておく最大のメリットとしては、上記で説明した相続登記手続を除き、遺言執行者は諸々の手続を単独で行う権限があるので、例えば他の相続人による遺産の処分や持ち逃げなどを阻止することがができるという点です。


  • 例外を除き、遺言執行者は相続人名義の相続登記を行うことができないが、他の業務、例えば、預貯金や有価証券(株式、投資信託等)の相続手続については問題なく単独で行うことが可能


さらに手続が簡易に済み、手間と時間の短縮にもなります。


決して悪いものではなく、無いよりはあった方が良いものなのです。



3-1.遺言執行者にしかできない手続もある

最後にちょっとマニアックな話になってしまいますが、遺言執行者にしかできない手続というものもあります。


本来、遺言書でできることには限界があります。
基本的には身分に関すること、相続に関すること、財産の処分に関することに限定されています。

遺言書に書くこと自体は自由なのですが、法的な効力が及ぶ事項は予め法律で定められているからです。


当ブログでも以前にその趣旨の記事を挙げてますので、興味のある方はこちらもどうぞ。


「遺言書でできることには限界があります/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_24/



もちろん遺言執行者にしてみても、遺言書に書いて法的に効力があるものがその職務となります。


そうした遺言執行者の業務の中に次のようなものがあります。


  • 子の認知
  • 推定相続人の廃除および廃除の取消


これらに関しては相続人はその手続を行うことができません。
遺言執行者のみが行う事ができる業務なのです。

そのため、遺言執行者の定めのない遺言書でこれらの記載があった場合には、相続人は家庭裁判所に遺言執行者の選任申立の手続を行う必要が生じてしまいます。

遺贈のように、「遺言執行者が定められている場合には」などと言う前置きはないので、代わりに相続人ができる部類の手続ではないのです―



4.まとめ

聞き覚えはあっても詳細については微妙なことが多い遺言執行者。
今回は登記申請の可否を主題にお送りしましたが、まだまだお話しすべき点は多くあります。

結構、重要なんですよ遺言執行は...



世間的の「終活」の盛り上がりは、今後も続いていくことでしょうが、遺言執行者の存在を忘れてはいけません。

ある意味、「終活」の結果を体現する役割を持っているのですからー



その他の遺言執行者のあれこれにつきましては、また別の機会で。


それでは今回はこの辺で。