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遺言執行者は相続登記を申請できるのか?(改正版)


いつもお読みいただきありがとうございます。


さて、今回はじゃっかん実務家寄りかな?とは思いますが、遺言執行者が絡む相続登記についてのお話しになります。

遺言書があり遺言執行者が定められている状態で、いったい誰が相続登記の申請人になるのか?

こうした問題はシンプルにして、ときに非常に重要なものです。
知っている人も、知らない人も、改めて整理しておきましょう。

※民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴い、従前のブログ記事内容を現行法の即した内容に修正しております。
(既に修正したつもりになっておりました。。。)

2020.1.20




<目 次>



1.遺言執行者とは


メインテーマの前におさらいを少し。


当ブログでも何度か断片的にですが取り上げている"遺言執行者(いごんしっこうしゃ)"
彼等の仕事は故人の残した遺言書の内容を実現することです。


時には単純な相続手続だけではなく、遺産である不動産を売却換価したり、子の認知や、推定相続人の排除を行ったりもします。
遺言内容によっては、非常に広範囲な権限を持つことがあるわけです。


ここで遺言執行者についての民法の条文を紹介します。

ちなみに赤字部分がこの度の相続法の改正で変更となった部分になります。
これまでより遺言執行者の職務範囲が明確化された感じですね。


民法第1012条
1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる



これを読む限り、遺言の内容を実現するためならなんでもできてしまいそうな感じですよね?
であれば、遺言執行者が相続登記の申請人になることに違和感はないようにも思えますが...

果たしてその是非は??


2.遺言執行者は相続登記の申請人になれなかった?

原則、あくまでこれまでの取扱いでは、遺言執行者は相続登記の申請人になることができませんでした。
実際の法務局の手続でもそうだったのです。


それに対し、意外と捉える方も、そうでない方もいることでしょう。


ちなみに、なぜそうだったのか?
それがどうなっていったのか?


まずはそうなるに至った経緯等をご紹介させていただきます。



2-1.根拠となったとある判決

遺言執行者が相続登記を申請できない根拠になったされている有名な判決が存在します。
その名も、"香川判決"

とは言え、踏み込み過ぎると、かなり長く、かつ、かなり複雑になってしまいますので、ここでは要点のみご紹介と致します(興味がある方はググってみて下さい。)。


特定物を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言は遺産分割方法を定めた遺言であって、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該特定物が当該相続人により承継される。



尚、これが根拠となった判決文の抜粋です。
これがために遺言執行者は相続登記の申請人になれなかったわけです。

しかしながら、単にこれだけでは何が何だか分からないと思います。
仮に前提知識がない状態ならば、少なくとも僕には無理だったでしょう。

そこで、なるべく分かり易くポイントごとに検証してみることにしましょう。



2-2.「相続させる」旨の遺言と、その帰結について

まず、「相続させる」旨の遺言とは、どういったものなのでしょうか?


ちなみに、「香川判決」なんかは、まさにその典型例とも言える内容でした。
例えば、次のような遺言例が、それに該当することになります。


第○条 遺言者は末尾記載の不動産を長男である〇〇に相続させる



ごくごく一般的な遺言例ですよね。
おそらく現存する多くの遺言書がこれに該当することでしょう。

"相続人の誰か"に、"特定の何か"を相続させる旨の内容です。
僕自身、実際に実務上で活用することの多い書き方でもあります。


続いて、「何らの行為を要せずして~、直ちに~相続人に承継される。」の部分にも着目してみましょう。

噛砕いて言うと、「相続が開始すればその権利は直ちに相続人に移っているでしょ?だったら、もはやその部分の遺言を執行する必要なんてなく、ましてや遺言執行者が相続登記に関する権利や義務を持つのは変でしょ?」という感じなのです。


もっと言えば―

  • 当然のことなんだから、遺言執行者が執行する必要もなければ、その権限もない


との帰結だったわけです。

結果、原則として「相続させる」旨の遺言では、遺言執行者ではなく対象となる不動産を取得する相続人自身が相続登記の申請人となる・・・それが一つの結論になっていたわけなのです(ちなみに、遺言執行者に相続登記の申請権限がないからと言って、遺言執行者の同意なく相続人が遺言内容と異なる結果の相続登記を行ったとしましょう―、これについて当然遺言執行者は、本来の内容に是正させる義務がありますし、その裁判に基づく登記申請を単独で行うことも可能でした。)。


※と、ここまでが従前の考え方でした。そして、実際にこのような取扱いが長い間なされてきたのです。
まあ、分からなくないですが、どこかしっくりしない感じを覚える方も多くいたのではなでしょうか?
そして、この度、遺言執行者の権限強化に伴い、この部分にもついにテコ入れがなされたわけなのです(詳細は次節を参照ください。)。






3.遺言執行者からの相続登記の申請が可能に(改正点)

約40年ぶりとなる相続法の改正に伴い、令和元年7月1日以後に開始した相続については、遺言執行者のからの相続登記の申請が可能になりました。

上記でご説明した香川判決を根拠とするあれやこれやに、ようやっと終止符が打たれた感じでしょうかー
以下、対応する民法(改正民法)の条文をご紹介します。


民法1014条2項
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共有相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

内容的にはこれがすべてなのですが、相も変わらず条文と言うものは分かり難いものです。
そこで要点のみご説明するとー


まず、"特定財産承継遺言"とはなんぞや??
と、言う疑問が生じることと思われます。


尚、これは、先にご紹介した、"「相続させる」旨の遺言"がそれに該当するのです。
(例:第○条 遺言者は末尾記載の不動産を長男である〇〇に相続させる。)
なぜ、わざわざ分かり難くするのでしょうね...
ともあれ、"相続人の誰か"(上記で言う長男)に対して"特定の財産"(上記で言う不動産)を相続させる遺言だから、"特定財産承継遺言"とのことなのでしょう。


続いて、"対抗要件を備えるために必要な行為"についてです。


対抗要件とは、その権利を第三者に対しても対抗できる権利のことを指します。
いわゆる"登記"ですね。
この部分は、対抗要件(登記)を備えるために必要な行為(登記申請)を指すわけです。


結果、これらを踏まえつつ、簡易に上記の条文を表現するとー


『遺言執行者は、相続させる旨の遺言について、登記申請を行うことができる』との結論に至るわけです。


実務的にはだいぶ楽になったと思います。
従前は遺言執行者がいても、相続人から直接登記依頼を受ける必要があったわけですから。
案件によっては結構面倒になることもありましたし。

尚、もちろん、被相続人(遺言者)が遺言で別段の意思を表示した場合を除きます。

また、後述する一部の遺贈のように、特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)であるからと言って、これまでどおり相続人自らによる相続登記の手続きが禁じられたわけではありません。
あくまで遺言執行者からも登記申請が可能だという趣旨になります。




3-1.遺言内容が相続分の指定であった場合はどうなる?

いわゆる、対象となる遺言が「相続させる」旨の遺言ではなかった場合の話しです。
かなり細かいかもしれませんが、少なくとも僕自身はすごく気になるところです。


具体的には、「相続分の指定」と言われるケースがそれに該当します。


相続人に対し特定の財産を相続させるのではなく、例えば、すべての財産や一定割合の財産を相続の対象にしたケースです。
遺言例としては以下をイメージしていただければー


・第〇条 遺言者は、長男である〇〇に全財産を相続させる
・第〇条 遺言者は、長男である〇〇に遺産の2分の1を相続させる
 等々・・・

これらは、もちろん特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)には該当しません。
で、あるならば、相続分の指定のケースでは、遺言執行者が単独で相続登記の手続を行うことができるのでしょうか??

なぜなら、遺言執行者が相続登記を申請できるようになったという根拠は、あくまで先にご紹介した民法1014条2項が存在するからこそです。
そして、この条文は、既述のとおり特定財産承継遺言については登記申請可能だという条文になります。


結論は・・・
今の段階では、あくまで私見になってしまいます。


とは言え、「相続分の指定」である以上は、遺言執行者が単独で相続登記を申請することができないものと思われます。
なにせ、条文上では、あえてなのかどうかまでは分かりませんが、特定財産承継遺言に限定されていますから・・・

ようするに、従来通り遺言執行者がいても、相続登記の申請は相続人からの申請を要するのではなないかな?と言う、とりあえずの帰結です。
これについては、まだまだ実際の事例も情報も少ないため、もう少し一般化するか、新たな情報を入手次第、改めてご案内させていただきます。

繰り返しになりますが、これについてはただの私見ですので、参考程度にしていただければ・・・





4.遺言執行者が行う遺贈について

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せっかくなので、相続登記に限らず、遺言執行者が行う「遺贈」についても少しだけ―


まず「遺贈」とは、遺言によって、財産を譲り渡す行為です。
もちろん、「相続」の方は相続人のみが対象になりますが、「遺贈」は相続人以外の第三者に対しても行うことができます。
尚、相続人に対する遺贈も可能です(相続人へは「相続」にしていた方が色々無難ではありますが)。

4-1.「遺贈する」旨の遺言は遺言執行者の独壇場

遺言執行者が相続登記に関与できるできないの問題は、あくまで相続人に対する「相続させる」旨の遺言についての話です。


それ以外、例えば、相続人ではない第三者に対する「遺贈」などでは、遺言執行者は独壇場とも言える大きな権限を持ちます。
今回の相続法の改正でもそれが明確化されています。
再度、ご案内しますとー


遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。



相続人が入り込む余地すら与えていません。
ちなみにこれは遺言執行者がいる場合の話です。
仮に遺言執行者がいないのであれば、遺贈の登記は、
受遺者(遺産を受ける側)を登記権利者相続人全員を登記義務者として行われることになります。

登記の大原則に基づいた"共同申請"ですね。
登記権利者と義務者が互いに協力し合う必要があるわけです。

では仮に登記義務者となる相続人の1人が遺贈自体を不快に思い、その登記手続に協力しなかった場合はどうなるのでしょう?
相続人にしてみれば、遺言書さえなければ相続していたはずの遺産でしょうから、面白く思わない人がいても不思議はありません。



一切、登記手続には協力しない―



そうしたトラブルも容易に起こり得ることでしょう。
このままでは遺言執行者は遺言内容を実現できなくなってしまいます...


以上のようなことから、従来から遺贈は遺言執行の執行の余地が十二分にあると判断されており、「相続させる」旨の遺言とは異なり、遺言執行者がその登記手続を代行できるとの結論に至るわけです(そして、それが今回の改正により明確化されたと)。

尚、この際、遺言執行者は相続人や受贈者の関与なく、登記権利者兼義務者の立場でその登記を行うことが可能です。



4-2.清算型遺贈の場合の相続登記はどうなる?

"清算型遺贈"

文字や響きからするといかにも難しそうですが、そこまで大したものではありません。


清算型遺贈とは―
不動産等の遺産を売却換価し、その売却代金を相続人等に対し相続または遺贈させる手続です。
ようは分かり易く現金化してから遺産を分けようという趣旨ですね。

この場合、不動産の売主は遺言執行者となります。
尚、その登記の前提として相続登記(法定相続となります。)が必要となるのですが、この相続登記を行う権限は改正以前から遺言執行者にありました。

ある意味、相続人名義の相続登記を遺言執行者が行える例外だったわけです。




5.遺言執行者を定めるメリット

「わざわざ遺言執行者を定めておく必要はないのかな?」


そう思われてしまうとあれなので、少し遺言執行者のフォローをさせていただきます。
(少し難しめの話をし過ぎた感じがありますから・・・)


決して遺言執行者は無用の長物というわけではありません。
そこだけは勘違いしないようにしてください。


実際、僕のつくる遺言書にも必ずと言っていい程、遺言執行者を定めています。
理由は多くの場合において、その方が依頼者に有益であると判断しているからです。



ともあれメリットを紹介しましょう―

遺言執行者を定めておく最大のメリットとしては、一部の手続を除き、遺言執行者が多くの相続手続を単独で行う権限があるため、例えば他の相続人による遺産の処分や持ち逃げ等を阻止することが可能という点です。

  • 一部の例外を除き、その他の業務、例えば、預貯金や有価証券(株式、投資信託等)の相続手続については問題なく単独で行うことが可能

さらに手続が簡易に済み、手間と時間の短縮にもなります。
決して悪いものではなく、無いよりはあった方が良いものなのです。



5-1.遺言執行者にしかできない手続もある

最後にちょっとマニアックな話になってしまいますが、遺言執行者にしかできない手続も存在します。


本来、遺言書でできることには限界があります。
基本的には身分に関すること、相続に関すること、財産の処分に関することに限定されています。

遺言書に書くこと自体は自由なのですが、法的な効力が及ぶ事項は予め法律で定められているからです。
当ブログでも以前にその趣旨の記事を挙げてますので、興味のある方はこちらもどうぞ。

「遺言書でできることには限界があります/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_24/



もちろん遺言執行者にしてみても、遺言書に書いて法的に効力があるものがその職務となります。
そうした遺言執行者の業務の中に次のようなものがあります。


  • 子の認知
  • 推定相続人の廃除および廃除の取消


これらに関しては相続人はその手続を行うことができません。
遺言執行者のみが行う事ができる業務なのです。

そのため、遺言執行者の定めのない遺言書でこれらの記載があった場合には、相続人は家庭裁判所に遺言執行者の選任申立の手続を行う必要が生じてしまいます。
遺贈のように、「遺言執行者が定められている場合には」などと言う前置きは無いので、代わりに相続人ができる部類の手続ではないのです―




6.まとめ

聞き覚えはあっても詳細については微妙なことが多い遺言執行者。
今回は登記申請の可否を主題にお送りしましたが、まだまだお話しすべき点は多くあります。


結構、重要なんですよ遺言執行は...


世間的の「終活」の盛り上がりは、今後も続いていくことでしょうが、遺言執行者の存在を忘れてはいけません。
ある意味、「終活」の結果を体現する役割を持っているのですからー

その他の遺言執行者のあれこれにつきましては、また別の機会で。
それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一