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相続養子が絡む相続手続の注意点について ~養子の基礎知識と共に~
いつもお読みいただきありがとうございます。
余談ですが、先日、司法書士試験の合格発表があったようです。
合格者の最高齢は、なんと80歳!
世の中にはいろんな意味でとんでもない方がいるもんですね...
さて、今回は養子が絡む相続手続のお話です。
それ自体はそんなに難しい話ではないのですが、状況によっては判断に迷うこともしばしばし。
自分自身への備忘録も兼ねて記事にしてみました。
1.養子とは何か?
まずは改めて養子について考えてみましょう。
家業の跡継ぎ問題や、代々伝わるお墓の維持管理、相続税対策、もしくは、身体上の理由等で子供を授かることができない夫婦が子を欲する場合等々、養子制度は現代でも様々なケースで用いられています。
よく理解し、うまく活用しさえすれば、人生の不足を埋めることができる素晴らしい制度だと思います。
では、そうした養子制度ですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
苦手な人も多いでしょうが、先ずはお馴染みの民法の条文から―
(何事も基本が大事なのです。)
(民法第809条)
養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。
さっそく見慣れない言葉が出てきました。
"嫡出子"
ちなみに、"ちゃくしゅつし"と読みます。
再び余談ですが、元々、学がなく、かつ、司法書士試験を完全な独学で行っていた僕は、他愛のない会話の中で受験仲間から指摘されるまでの間ずっと、これを誤って"てきしゅつし"と読んでいました。
取り出してどうすると言うのか...
かなり恥ずかしい思いをした記憶があります。
皆さんはどうかお気をつけください。
さて、その嫡出子ですが、法律上の婚姻関係にある男女の間に生まれた子どものことを指します。
(婚姻外の子の場合は"非嫡出子"となります。)
ようするに、養子は養子縁組の時から、一般的な夫婦との間に産まれた子と同等の権利・義務を有するわけです。
法律上、完璧な親子関係です。
当然、養子は養親を相続することもできます。
親子関係とは、必ずしも血の繋がりを必要とするわけではないのです。
1-1.養子縁組の効力について
既述のとおり、養子は嫡出子と同等の権利を得るわけですから、養親を相続するのはもちろんのこと、"遺留分"も有しています。
例えば、実子への遺言などで、養子の相続分が侵害された場合には、その権利に基づき"遺留分減殺請求"を行うことも可能なわけです。
実子にとって養子は、実の兄弟姉妹と変わらぬ権利を養子縁組によって得ているわけですから、それも当然でしょう。
(安易に養子縁組を行うと、こうしたトラブルにもなりかなません...)
また、養子が得るものは権利ばかりではありません。
もちろん義務もについても、実子と同様に負います。
分かり易いところで言うと、家族の扶養義務でしょうか―
養親と養子は互いに扶養義務を負い、互いに相続する権利を有するわけです。
その他、養親が借金を残して死亡した場合には、その支払い義務を養子が相続するのは言うまでもありません。
(権利ばかりを求め、安易に養子縁組するのも考え物かもしれませんね。)
その他、養子の効力の注意点としては―
- 養子が未成年者である場合の親権は実親ではなく養親
- 養子縁組前の養子の子と養親との間には何ら親族関係は生じない
- 養子の既存の親族関係は、縁組によって何ら影響されずに存続
と、言ったところでしょう。
2.普通養子縁組と特別養子縁組
実は養子にも種類があり、それぞれ成立要件が異なり、また、実父母との関係も異なってきます。
そのため、本題である相続の話の前に、まずそれらの違いを簡単にまとめてみることとします。
2-1.普通養子縁組
一般的な養子縁組のことを普通養子縁組と言います。
養子と養親、縁組意思の合致の元、養親もしくは、養子の本籍地または住所地を管轄する役所に養子縁組の届出を行うあれです。
尚、普通養子縁組を行っても、養子と実親との親子関係は継続し、戸籍上でも養親と並んで実親の名前が記載されることになります。
また、この際、基本的に養子の実親の同意は不要ですが、養子が15歳未満の場合は法定代理人の承諾が必要となります。
その他の普通養子縁組の成立要件としては―
<普通養子の成立要件>
- 養親が成年であること
※基本的に未成年者は養親にはなれません。ただし、婚姻擬制の場合は年齢的に未成年者であっても成年として扱われるため、養親になることが可能です。 - 養子の方が養親よりも年下であること
※理由はどうであれ年配者を養子にすることはできません。 - 夫婦の一方が養親又は養子となる場合には、もう片方の配偶者の同意が必要
- 配偶者のある者が未成年者を養子とするときは夫婦で縁組すること
※当たり前ですが、養子が配偶者の嫡出子の場合は不要となります。 - 養子が未成年者のときは家庭裁判所の許可が必要
※ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は家庭裁判所の許可は不要です。 - 後見人が被後見人を養子とするときは家庭裁判所の許可が必要
上記の要件を満たした上で、養子、養親の戸籍謄本等、必要書類を添付し役所に届出を行うことで縁組は成立します。
2-2.特別養子
特別養子縁組は、特別な状況においてのみ認められ、かつ、家庭裁判所の審判によって行われるものです。
普通養子縁組みたく、役所の戸籍科への届出だけでは済まされるものではありません。
また、普通養子縁組とは異なり、戸籍上では実親との親子関係は切断されます。
結果、養子は、実の親に対する相続権、相互扶養義務等も有しないことになるのです。
(戸籍の記載も養親が実の親として記載されることとなります。)
効果だけではなく、完全な親子関係の創立というわけです。
その成立要件も普通養子縁組よりも厳しいものになっています―
<特別養子縁組の成立要件>
-
養親は必ず配偶者のある者で、かつ、夫婦ともに養親となること
※養親は独身ではなれません。夫婦の片方だけが養親になることもできません。 -
養親は25歳以上であること
※夫婦の一方が25歳以上ならば、もう一方は成人であれば25歳未満でも足ります。 -
養子は6歳未満であること、または、養子が8歳未満であり6歳未満の時から養親となる者に監護されていること
※普通養子縁組の場合は養親の方が年配であれば、養子の年齢は問われませんが、特別養子縁組の場合はこうした厳しい規定が設けられています。 -
実父母の同意
※ただし、実態上は同意が不要と言うか、現実的に極めて困難であり、この要件を免れるケースが多いようです。本来、父母が行方不明だったり、父母による虐待や遺棄等を原因に特別養子縁組がなされるためです。 -
実父母の監護が著しく困難又は不適当であること、その他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認められること
※あくまで子の利益を最重視する制度というわけです。 -
養親が養子となる者を6ヶ月以上の期間監護すること
※お試し期間のようなものが設けられ、実際に親子関係を創出しても問題ないかどうか精査されるわけです。
上記をすべて満たし、かつ、家庭裁判所の審判さえ得れれば縁組は成立します。
3.養子が絡む相続手続
ここでようやっと本題となります。
養子についての前提知識は上記のとおりです。
ここからはそれらを踏まえ、養子が絡む相続手続について注意点を精査することに致します。
3-1.養子の子は養親の相続人になれない場合がある
養子が絡む相続の場合、まず注意すべきはこの点です。
"代襲相続"というものがあります。
簡単に言うと、子が親よりも先に死亡し、代わりに孫が相続するケースです。
既述のとおり養子も相続権を持ちますので、当然の如くその代襲相続が発生するように思えます。
しかし場合によっては、養子が養親より先に死亡したとしても、養子の子が養親を代襲相続できない場合があるのです―
ここで少しだけおさらいです。
- 養子はどの段階で養親の嫡出子たる身分を取得するのでしたでしょうか?
当ブログで言うと、前半部分の民法の条文がそれに該当します。
養子は、養子縁組の時点から嫡出子たる身分を取得します。
ようするに、養子と養親の血縁関係は、あくまで養子縁組の時点から発生するのあり、その効果は遡及しません。
そのため、仮に養子縁組以前の養子に子がいたとしても、その養子の子と養親との間には何ら血族関係が発生するわけではないのです(孫にはならないということです。)。
したがって、当然ながらそのようなケースでは、養子の子は養親を代襲相続することはできないのです。
血族関係があるからこその代襲相続なわけです。
ちなみに同じようなケースで、養子縁組後の養子の子だった場合はどうなんでしょう?
養親との間に血族関係が生じるか否か...
もちろん、生じます。
養子縁組後に産まれた子であれば、養親にとっては法律上もまがうことなく孫になりますし、代襲相続の対象にもなり得ます。
特別養子の場合とは異なり、普通養子の場合だと大人同士が養子縁組を結ぶケースが多く、こうした事例は極端に珍しいものではないのです。
もし当てはまりそうな方がいれば、ご注意ください。
3-2.実親からも養親からも相続できる?
既述のとおり、普通養子縁組の場合は実親との親子関係は消滅せずに継続します。
と、言うことは...
そうです、普通養子縁組の場合の養子は、実親、養親双方から相続する権利を有するわけです。
稀に実親からは相続できないと勘違いされて方がいますが、そんなことはありません。
対して、特別養子縁組の場合ですと実親との親子関係は消滅します。
結果、養子は双方ではなく、あくまで特別養子縁組の養親のみを相続することになるわけです。
見た感じでは普通養子縁組の方がお得なように思えますが、相続の対象は必ずしもプラスの財産だけとは限りません。
借金や義務も相続の対象になることから、場合場合と言ったところでしょうか。
3-3.再婚相手の連れ子は相続人ではありません
ちょっと養子の話からはずれてしまうかもしれませんが、勘違いからよく問題になってしまうことが多いので、ここで取り上げさせていただきます。
- 相続人だと思っていたのにそうじゃななかった...
その典型例と言えます。
子供の年齢に関わらず、再婚相手の連れ子との間に親子関係は生じません。
もちろん、養子縁組を結ばない限り"養子"にもなりません。
あくまで子からみれば、単に親の再婚相手でしかないないのです―
ようするに再婚相手の連れ子に相続財産を残すには、改めて養子縁組を行うか、もしくは遺言書を残しておく必要があるというわけです。
そのような意向があるのであれば、早めの準備をおすすめします。
4.まとめ
養子が絡む相続は何かと問題が生じることが多いです。
金銭面だけではなく、心情面も少なからず影響することが多い等、元々トラブルになりやすい要素が含まれているからです。
また、トラブルにならなくとも、相続登記手続等、手続面でも特殊な判断が求められることもしばしば―
司法書士九九法務事務所では、養子の絡む相続手続についても多くをこなしてきた実績があります。
相談はいつでも無料で行っておりますので、川口市以外にお住まいの方であっても気軽にお問い合わせください。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一