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自己破産保険の解約返戻金についてのあれこれ ~自己破産や個人再生手続上での取扱~
いつもお読みいただきありがとうございます。
少し前の話になってしまいますが、成人式の週の三連休を利用して故郷である福岡に帰省しました。
随分暖かくてびっくり―
薄手のコートがいるかいらないかぐらいの気温ですごく快適だったのですが、その分、関東に帰ってきてからが寒くてしょうがない...
いまだに慣れません。
幼い時分は関東よりも福岡の方がだいぶ寒かったような気もしますが(あっちは雪も結構積もりますし)、少なくとも今年はそうでもないようですね。
寒過ぎる関東もそうなってくれるといいのですが...
さて、今回のブログテーマは自己破産や個人再生の手続における"保険"の取り扱いについてです。
- 保険はどのような基準で財産とされるのか?
- 保険契約者ではなく、被保険者のみに該当する保険の取り扱いは?
- 自分以外の第三者(両親、祖父母等)が保険料を支払っていた保険の取り扱いは?
概ねこの辺りに焦点を当ててお送りさせていただきます。
<目 次>
- 1.保険が財産とみなされる基準について
1-1.積立型の保険と掛け捨て型の保険
1-2.自己破産をすると保険はすべて解約されてしまうのか? - 2.そもそも解約返戻金は誰のもの?
2-1.形式上保険契約者ではあるが全く保険料を支払っていない保険の取り扱い - 3.まとめ
1.保険が財産とみなされる基準について
保険それ自体は立派な財産です。
実態上でもそうですし、自己破産や個人再生等の手続を行う上での"財産"にも該当します。
その上で―
- すべての保険が財産となり得るのか?
- 自己破産を行うとすべて解約されてしまうのか?
気になる方も多いのではないでしょうか?
あるいはそれが心配でなかなか債務整理手続に踏み切れない部分があるのかもしれません。
そこで、ここでは保険がどのような基準で財産とみなされ、どのような場合に解約の対象となってしまうのかを検証してみることにします。
1-1.積立型の保険と掛け捨て型の保険
大別すると保険はこの二つに分かれます。
ご存知かとは思いますが、保険料掛けっぱなしの保険と、財産として積み立てていくタイプの保険ですね。
基本的に、前者は解約しても保険料は戻ってきません。
なにせその名の通り"掛け捨て"ですから―
対して、後者は解約すると保険約款等で予め定められた金額が戻ってきます。
なにせ元より保険料以上のものを支払って(積み立てて)いますから―
- なるほど、積立型の保険は財産となり、掛け捨て型の保険は財産にならないのか
ここまでの説明だとそういう理解になることでしょう。
概ねその通りで問題ありません。
ただし、自己破産や個人再生等での手続上では、これに対する例外もあるので注意が必要になります。
例えば、自宅マンションや戸建てを購入した際に加入するであろう火災保険などです。
とは言え、年契約のもの等すべての火災保険がそれに該当するわけではなく、30~35年間分の保険料を一括で払い込んでいるような火災保険を指します(銀行で住宅ローンを組む際は、概ねこの形態の火災保険になることが多いです。)。
このような一括払い込み型の火災保険の場合、途中解約すると相応の保険料が戻ってくるのです―
これは保険そのものが積立型というわけではありませんが、保険料を前払いしているためです(火災保険適用期間外の保険料の清算を受ける理解です。)。
いくら掛け捨てと言っても、適用期間外の保険料が戻ってくるのは道理と言えるでしょう。
※銀行や住宅ローンの内容によっては、対象となる不動産に設定される抵当権とは別に火災保険に対し"質権"という担保を付けられていることがあります。そのような場合には、仮に上記のような火災保険を途中解約したとしても保険料の清算金を受けることはできません。理由は、住宅ローン締結時に銀行から火災保険料すらも"質"にとられているからです(もちろん住宅ローン完済後であれば話は別となり、その時点での適正な金額を受け取ることが可能となります。)。尚、そうしたケースに該当するようであれば、当該保険料は当然ながら自己破産や個人再生上での財産にもみなされることはありません。
その他、仮に積立型の保険であったとしても、保険加入期間が短い場合は(1年未満等)、途中解約しても何ら戻ってくるお金がないこともあります。
それはシンプルにまだ積立ができていないだけです―
尚、それらの具体的な期間については、加入している保険内容によってもだいぶ異なってきますので、どうしても気になる方は保険会社に直接問い合わせてみてください(保険証券に発生する期間と概ねの金額が記載されているケースも多いです。)。
以上のように、保険は解約するとお金が戻ってくることがあります。
それを"解約返戻金(かいやくへんれいきん)"と言うのですが、結論からすると、積立型か掛け捨て型の種類ではなく、単にその解約返戻金額そのものが、財産上での保険の価値となるわけです。
積立型の保険は解約返戻金が発生し易く、掛け捨て型の保険は発生しにくいだけで、あくまで基準は解約返戻金の有無なので、勘違いしないよう注意しましょう。
1-2.自己破産をすると保険はすべて解約されてしまうのか?
そんなことはありません。
保険の解約返戻金額が財産とみなされるだけであり、イコールすべての保険を解約しなければならないわけではありません。
また、元より解約返戻金の発生しない保険であれば、財産上の価値はありませんので、解約の対象にすらなりません。
解約返戻金が発生しない保険の代表例としましては―
- 県民共済保険(都民、道民、府民共済を含む)
- 月払いの自動車保険
(年払いの自動車保険については、残存期間の保険料の清算を受けることになるます。) - 賃貸契約時に合わせて契約している火災保険
- その他、掛け捨ての生命保険や医療保険等々
これらはいずれも自己破産するからと言って、直接何かしら影響を受けるわけではないのです。
それでは、財産的に価値のある保険(解約返戻金が発生する保険)についてはどうでしょう―
仮に解約返戻金が発生するからと言って、そのすべてが解約の対象になるわけではありません。
あくまで解約しなくて済むパターンは多くあります。
ただし、ここでその詳細をご説明するとなると、それだけでかなりの容量になってしまいますし、何より案件に応じて他の財産や借金内容等々、全体のバランスをみて個別に判断すべきものなので、一概にこうと言えるものではないのです。
その上で、なるべく分かり易いポイントだけお伝えすると―
- 解約返戻金額が20万円
この"20万円"という金額が最初の判断基準となるのです。
仮にこれを超える解約返戻金額の保険は、解約の対象になってしまうという趣旨のものです。
ただし、この辺の説明が非常に難しいのですが、だからと言って即解約されるというわけでもありません。
あくまでまだ"解約の対象"になっている段階に過ぎないのです―
その他の財産とのバランスもありますが、理論上はたとえ20万円を超えていても99万円以内の解約返戻金額の保険であれば、それを守る術が全くないわけではないのです。
※僕自身に経験はありませんが、病状の進行具合等、特段の事情が認められる場合には、99万円を超える保険であっても解約の対象とされないケースもあるそうです。
そろそろ混乱してしまっている方、取り残されてしまっている方も多いのではないでしょうか...
その点は誠に申し訳ございません。
僕の文章力の問題もあるでしょうが、元より相応の前提知識がないと、完全な理解は困難な部分の話でして...
ともあれ、"自己破産=保険の解約"ではありません。
場合によって止む無くそうなってしまうこともあるだけなのです(20万円を超える解約返戻金の保険についてのご相談は、その他のご事情を伺った上で個別に対応させていただきます。)。
2.そもそも解約返戻金は誰のもの?
保険の解約返戻金が自己破産や個人再生等を行う上での"財産"とみなされるのは記述のとおりです。
では、それはいったい誰にとっての"財産"なのでしょうか?
保険の代表格とも言える、生命保険を例に考えてみることにしましょう。
ほぼすべての場合において保険金の受取人となるのは"家族"です。
生命保険は本来、死後に残された家族のために加入する保険ですから―
と、なると生命保険は保険加入者ではなく、その家族の財産になるのでしょうか?
ちなみに、保険に加入している者のことを"保険契約者"、保険の恩恵を受ける(生命保険等の受取人)者のことを"被保険者"と言います。
それを踏まえ、上記の問いに対する回答ですが―
保険は保険契約者の財産です。
被保険者の財産ではありません。
もちろん、生命保険が被保険者に支払われた後は、被保険者固有の財産となります。
ただし、あくまで保険解約時に支払われる解約返戻金については、被保険者にではなく、保険契約者に対して支払われるものです。
いわゆる解約返戻金は保険契約者のものなのです。
そのため、自己破産や個人再生等の手続を行う際は、"保険契約者"が誰なのかが最も重要であり、被保険者が誰であるかは二の次です。
逆を言うと、これから自己破産を行おうとする方が保険契約者ではなく、"被保険者のみ"になっている保険が存在したとしても、手続上、それが財産とされるわけですし、解約返戻金の大小に関わらず解約の対象になるようなこともありません。
心配な方は誰が保険契約者になっているのかを今一度ご確認されてみてはいかがでしょうか?
2-1.形式上保険契約者ではあるが全く保険料を支払っていない保険の取り扱い
解約返戻金は保険契約者のもの―
あくまでそれが原則です。
ただし、それに対する例外が全くないわけでもありません。
では、ここで改めて、なぜ解約返戻金が保険契約者のものとされるのかを考えてみましょう―
とは言いつつも理由は単純明快。
保険料を支払っているのが保険契約者だからです。
支払先にお金が戻ってくるは当然...そういう話なのです。
で、あるならば、保険契約者が実際に保険料を支払っていない場合はどうなのでしょうか?
実際、そうしたケースを目にすることがあります。
経済力の少ない孫のために祖父母が保険料を支払っていたり、両親が保険営業マンとの付き合い等で便宜子供名義の保険に入りその支払いを行っていたり等々、形態は様々ですが保険契約者以外の第三者が保険料を支払っていることが稀にあるのです。
ただし、保険会社からすれば、あくまで解約返戻金は保険契約者に支払うべきものですので、そうした事情は加味せず原則どおり解約返戻金は保険契約者に支払われることになります。
これに対する自己破産や個人再生の手続上の取り扱いはと言うと―
かなりグレーな回答にはなってしまいますが、ケースバイケースです。
原則どおり財産とみなされる場合も、みなされなくて済む場合もあります。
ポイントは、実際に保険契約者以外の人物が対象となる保険料の支払いを行っていることを(保険契約者が保険料を支払っていないことを)客観的に証明、または疎明できるかどうかという部分です。
僕の実際の経験からその例を挙げるとするならば...
保険契約者名義ではない預金口座から保険料の引き落としがされていたり、保険契約者名義の預金口座から保険料の支払いがなされていたりしとしても、その前後に第三者から毎月保険料相当の入金があるような場合です。
特に前者などは第三者による保険料の支払いであるとの連想が容易ですよね?
ただし、それらにばっちり当てはまるからと言って、絶対に安心だという結論に至るわけではありません。
あくまでそれだけではなく、その他のあらゆる事情を加味した上で、最終的な判断は事件を担当する裁判官に委ねられるからです(財産の隠匿を防ぐ立場にあるので当然の帰結と言えるでしょう。)。
そのため、うまく第三者の支払いの事実を証明できたと思っていても、実際のところはうまくいかないことも、またその逆もあり得るわけです。
ちなみに実務経験で言うと、過去に4~5件似たようなケースに遭遇してきました。
もちろん、内容に虚偽がなく、いくぶん証明がしやすいケースだったこともありますが、どの案件の保険も破産者の財産とみなされることはありませんでした。
が、そこに至るまでに結構苦労した記憶があります...
またまたはっきりしない結論になってしまいましたが、"解約返戻金は保険契約者の財産"という大原則にも例外が起こり得るという事実だけでも無駄にはなりませんし、仮に該当するようであればチャレンジする意義は十分にあると言えるでしょう。
3.まとめ
さて、今回は保険の話に終始した形でしたが、いかがだったでしょう?
ちょっと専門的な内容になり過ぎてしまい反省しています...
今後はもう少し分かり易くお伝えできるよう精進致します。
分かりにくかった部分、もしくは、もっと詳細を聞きたい部分等ございましたら、電話、メール等で直接お問い合せください。
借金相談はいつも無料で対応させていただいておりますので―
それでは、今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一