ブログ
成年後見制度後見人に選任されたらまずやるべき手続~財産報告編~
いつもお読みいただきありがとうございます。
超大型のゴールデンウイークが実現し、間近に迫ってきましたね。
既に予定を組まれている方も多いのではないでしょうか?
なんせ10連休ですから、いつもとは違う過ごし方ができるかもしれませんね。
ちなみに僕の予定は今のところ仕事以外は何もありません...
とは言え、いきなりなぜ超大型連休が実現したのか?
どうやら、たまたまではないようなんです―
結論からすると、新天皇の即位日となる2019年5月1日が、今年限りの祝日となったことに起因するようです
ただし、それだけだと休みは1日増えただけです。
いつもよりは休みが多くなるでしょうが、とても10連休には届かない―
そこで"祝日法"の登場です。
どうやら祝日法で、前後を祝日にはさまれた日は休日とすると規定があるそうなんです。
結果、5月1日と4月29日(昭和の日)、5月3日(憲法記念日)にそれぞれはさまれることになった、4月30日と5月2日も祝日法の規定で休日となり、驚異の10連休が実現することになったそう―
しかし、色々な法律があるものですね。
お恥ずかしながら全く知りませんでした"祝日法"...
さて、ではそろそろ本題に入らせていただきます。
今回は家庭裁判所から後見人に選任された際に、まずやるべきことを簡単にまとめた内容をお送り致します。
今後、後見制度を検討されている方や、迷って中断されている方、自分でできるか心配な方などに是非とも読んでいただきたいと思っています。
<目 次>
- 1.後見人の最初の仕事
1-1.成年後見の登記事項証明書の取得が基本
1-2.成年後見の登記事項証明書が取得できる時期について
1-3.成年後見審判の確定証明書で手続を行うことも可能
1-4.家探しも大事です
1-5.金融機関での調査及び変更手続
1-6.財産目録の作成
1-7.すべての調査が期限内に間に合わなかった場合はどうすべきか? - 2.まとめ
1.後見人の最初の仕事
後見人の最初の仕事は、家庭裁判所に対する"財産報告"と"収支報告"です。
内、今回は財産報告の部分についてお送りさせていただこうと思っております。
いずれも後見の申立の段階である程度調査がされていることが多いですが、その裏付けというか、再調査の意味合いも大きいと言えるでしょう。
これらは、その後の後見業務の基礎となる部分なので、しっかり行うようにしましょう。
ちなみに、これ、提出期限があります―
管轄裁判所や行う時期等によっても多少の誤差はありますが、概ね後見の開始決定がなされてから40日前後であることが多いです。
割とゆっくりできるな...と、思われる方もいるかもしれませんが、私的にはもうちょっと期間的に余裕持たせて欲しいと切望しています。
足りないんです意外と...
別にサボっているわけではありませんよ。
とある理由で待つ時間が多いため、最初の段階は始動がどうしても遅くなってしまうことが多いからなのです。
1-1.成年後見の登記事項証明書の取得が基本
財産調査を行うにしろ、各種変更手続を行うにしろ、基礎となるのは"成年後見の登記事項証明書"です。
以下、その実物の画像ですのでご参照ください。
簡単に言うと、これが後見人の身分証明書の代わりになります。
後見業務を行う上では欠かせない書類なんです。
極端な話、これがないと何もできません。
銀行や役所の手続においても、必ずと言っていいほど要求される書類です。
では、この書類、どこで取得できるのか―
まず、取得できる場所は法務局になります。
家庭裁判所ではありませんのでご注意を。
尚、面倒なことに、法務局であればどこでも取得できるわけでもありません。
必ずしもお近くの法務局で取得できるとは限らないわけです―
具体的には、各都道府県の法務局本庁後見窓口での取得が可能となります。
埼玉県であれば与野本町にある"さいたま地方法務局"であり、千葉県であれば千葉みなとにある"千葉地方法務局"といった具合です。
ようするに、さいたま地方法務局川口出張所では取得できないわけです。
出張所だけではなく、~支局でも結論は同じです。
あくまで取得場所は、法務局本庁の後見窓口に限られてしまうわけなんです。
ちなみに、わざわざ法務局本庁に出向くのが面倒な場合には、郵送での取得も可能ですが、その際にも注意点があります。
郵送受付を行っている法務局は、日本で一箇所だけしかないからです。
そのため、仮にさいたま地方法務局本庁に郵送申請を行ったところで、目的を達成することはできません。
郵送で成年後見登記事項証明書を取得する場合には、住所地や本籍地に関係なく、全て東京法務局後見登録課での取扱いとなります。
例えば福岡県の方が郵送で成年後見登記事項証明書を取得する場合にも、九段下にある東京法務局に郵送申請を行う必要があるわけなんです。
その他の詳細を知りたい方につきましては、次の法務局のサイトを参照してみてください。
「登記事項証明書の説明及び請求方法/東京法務局HP」
http://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/static/i_no_01.html
1-2.成年後見の登記事項証明書が取得できる時期について
では、その"成年後見の登記事項証明書"ですが、いつ、取得できるものなのでしょうか?
家庭裁判所から上記のような"後見開始の審判書"が届いた時点のようにも思えますが、実はそうではありません。
この辺が分かりにくいところなのですが、まだこの時点では後見手続は確定していません。
選任された後見人はまだ何の権限も持っていない状況なのです―
具体的には、後見開始の審判から2週間経過することによって(厳密に言うと、後見開始の審判書を受け取ってから2週間経過時点)、後見手続は確定することになります。
- なるほど、では、裁判所から書類が届いてから2週間が経過すれば、成年後見登記事項証明書を法務局で取得できるのか?
残念ながら、そうではありません。
後見手続が確定すると、後見人は正式な権限を得ます。
それ自体は間違いありません。
ただし、成年後見登記事項証明書の取得はそれとは別問題なのです。
正しくは、後見手続の確定後、家庭裁判所はその嘱託で法務局に後見の登記申請手続を行うこととなります(後見人自らがこれを登記申請を行うわけではありません。)。
いわゆる、ここから更に法務局での登記手続の完了を待つことになるわけです。
それに要する期間は、法務局の混み具合や時期によっても異なりますが、だいたい10日前後といったところでしょうか―
結果、おおよそ『2週間+10日』で、成年後見の登記事項証明書を取得できる状態になるわけです。
結構かかりますよね。
そのため、何らかの理由で手続を急ぐ必要がある場合には、次の方法も検討してみて下さい。
1-3.成年後見審判の確定証明書で手続を行うことも可能
既述のとおり、成年後見の登記事項証明書を取得できるようなるには、わりと時間が掛かります。
尚、裁判所へ行う初回の財産報告や収支報告は、後見の開始決定がなされてから40日ぐらいであることが多いため、残りの日数は約半分ぐらいになっていることも―
調査すべき財産が多いと、それに間に合わせるのも一苦労です。
とは言え、他に手がないわけでもありません。
本来、成年後見の登記事項証明書が各種手続に必要となる理由は、後見人の身分を証明するためです。
個人で言うところの運転免許証やパスポートみたいなものなんです。
ようするに、成年後見の登記事項証明書がなくとも、公的に身分が証明できさえすれば問題は解決します。
そして、その方法こそが、"成年後見審判の確定証明書"の取得なんです。
ちなみに、成年後見審判の確定証明書は申立手続を行った家庭裁判所で割と簡単に取得することができます。
これと、先に説明した"後見開始の審判書"とを併せて提出することで(あくまで単体ではなく、セットです。)、成年後見の登記事項証明書の代わりにすることが可能となるわけです。
※稀に手続に慣れていない金融機関などは、その存在を知らないため手続を拒否されることがあるので、その点、ご注意ください。
財産が多い等、調査を早急に始めたい場合は、成年後見の登記事項証明書の完成を待つのではなく、『後見開始の審判書+確定証明書』で手続を開始してみてはいかがでしょうか?
1-4.家探しも大事です
成年後見の登記事項証明書の完成を待っている間にやれることもあります。
『後見開始の審判書+確定証明書』のセットで早めに手続を開始するのもいいですが、まずは家探しを行ってみてはいかがでしょうか。
仮に本人と同居していた家族が後見人に選任されていたとしても、細かい情報までは把握できていないこともしばしば...
それが別居の家族や第三者であれば、なおさらです。
できれば、本人の家族等の立会の元、隅々まで家探しを行ってみましょう。
見知らぬ銀行のキャッシュカードや通帳、鍵、現金、貴金属等の高価品が出てくることは珍しくもありません(床下や貸金庫から多額の現金が発見されたケースもあるようです。
)。
また、プラスの財産ばかりではなく、借用書や催告書等、借金の存在が明るみになることも―
仮に借金があれば、その処理も後見人の立派な仕事です。
漏れがないよう本人の状況を把握するよう心掛けましょう。
1-5.金融機関での調査及び変更手続
成年後見の登記事項証明書等の準備が整ったら、いよいよ具体的な調査の開始です。
まずは通帳やキャッシュカードが現存する銀行回りの開始です。
尚、事前に後見人に選任された旨の電話連絡をしておくと、多少ですが銀行での待ち時間が短くなります。
銀行も事前にある程度準備しておいてくれますから。
その際の持ち物としては―
- 成年後見の登記事項証明書(もしくは、『後見開始の審判書+確定証明書』)
- 現存する通帳及びキャッシュカード
- 後見人個人の身分証(運転免許証、パスポート、マイナンバーカード等)
- 新しい銀行届出印にするための後見人の印鑑(個人の実印が無難です。)
- 後見人の印鑑証明書(たまに要求される金融機関があります。)
ぐらいなものです。
ただし、対象となる金融機関によっては多少必要となる書類が異なることがありますし、待ち時間の短縮にもなるため、事前の問い合わせをお勧めします。
そこで行う手続としては―
- 後見人就任の届出
※各金融機関に所定の書面が存在しますので、窓口担当者の指示に従って記載等するだけです。 - 既存預金口座の名義変更
※本人名義の預金口座を、本人の後見人名義の預金口座に変更します。既存預金通帳がそのまま使われることも、新たに通帳が発行されることもあります。 - キャッシュカードの作成
※本人が従前に使用していた銀行のキャッシュカードは利用できなくなります。そのため、必須の手続ではありませんが、メイン口座などに関しては新たに後見人名義のキャッシュカードを作成しておくと後々何かと便利です。 - 全店検索の依頼
※これは必ず行いましょう。手元にある通帳だけが本人の通帳とは限りません。同じ金融機関の他の支店に口座情報がないか簡単に調べることができますので、合わせて窓口担当者に依頼するようにしましょう。 - 口座取引履歴の取得
※最低でも後見人就任前1年ぐらいの口座の動きはチェックするようにしましょう。そのため、通帳が見当たらなかった場合や、一括記載になっている場合などは、口座の取引履歴を取得し、その内容に問題がないかチェックするようにしましょう。 - その他、財産の調査
※金融機関にある財産はなにも預金だけとは限りません。例えば信用金庫等であれば"出資金"があることも多いです。また、銀行のカードローンが残っていることもあり得ます。その辺りの情報も窓口で簡単に調べてくれますので、その旨、忘れなく依頼するようにしましょう。
ちなみに、メガバンク(三井住友銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行)や、本人の居住地付近に店舗のある銀行、信用金庫などは、たとえ通帳やキャッシュカードがなかったとしても、預金口座等が存在するかどうかの調査を行うことをお勧めします。
どの金融機関であっても、本人の住所と名前で口座の検索を行うことができるのです。
持ち物等も概ね一緒です。
結果、本人名義の口座情報が発見されることも多くありますから―
その他、証券会社等での手続や必要書類も概ね上記と同様になります。
まずは電話連絡を行い、先方担当者の指示に従って各種書類を提出するだけです。
その際、手元に直近のものがなければ、財産報告用に"取引報告書"を取得しておくと良いと思います。
1-6.財産目録の作成
集めた書類と情報を基に財産目録を作成しましょう。
記載例はだいたいこんな感じです。
zaisanmokurokukisairei.pdf
尚、不動産がある場合には法務局で"登記簿謄本(登記事項証明書)"を、市役所の資産税課等で"固定資産税評価証明書"を取得するようにしましょう。
財産報告時の不動産の疎明資料はその2点で十分です。
その他、本人名義の保険がある場合には、保険会社に後見人就任の連絡しさえすれば、後は細かく担当者が指示をしてくれます(後日、各種変更書類が郵送されてくるのが一般的です。)。
仮に保険証券を紛失しているようなら、証券再発行の依頼も合わせて行っておくといいでしょう。
その他、相続手続を終えていない遺産があるような場合には、それも当然、本人の財産となります。
その際は面倒でしょうが、財産目録とは別に"遺産目録"の作成も必要となります。
遺産の特定さえできていれば、疎明資料や記載方法は財産目録とそう変わりありません。
1-7.すべての調査が期限内に間に合わなかった場合はどうすべきか?
間に合わせるに越したことはありません。
ただ、諸々の事情でそれができないことも...
事実、僕も何度かそのようなケースに見舞われました。
そのような場合は、なぜそうなったのか、今後どうしていく予定なのかを"上申書"という形で裁判所に報告すればいいです。
期限はあくまで目途であり、裁判所も相応の事情さえあれば加味してくれます。
問題が解決した後、改めて財産報告をすればいいのです。
とは言え、これはやむを得ない何らかの事情があった場合の話です。
単に多忙や、忘れていたりしたことを理由にすることができるわけではありません。
そのような事態にならぬよう、早め、早めに手続を行い、極力、期限を守るようにしましょう。
2.まとめ
今回は、後見人に選任されたらまずやるべきことのうち、主に財産調査の部分を簡単にまとめてみました。
ただし、これ―
初歩の初歩なんです。
人によって異なる部分はありますが、それでもまだまだやるべきことはたくさんあります。
結構、大変なんです後見人は。
特に就任後、数カ月はなかなか落ち着きません。
今後も需要があれば、他の部分の後見人業務もご紹介していく予定ですので、興味のある方は是非ご覧ください。
ではそろそろこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一