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相続

最終の相続人が1人の場合の数次相続について ~ひとりで行う遺産分割~

いつもお読みいただきありがとうございます。


クリスマスが終わり世間はすっかり正月モードですね。
この時期のTV番組は特番だらけでどうにも苦手です(元々TVはあんまり見ませんが...)。

ただし、ラジオ番組はむしろ年末年始にかけて面白くなるのでお勧めです(ラジオ派)。

radikoのおかげで時間も関係なく、色々な地域のラジオ番組が気軽に聞けるようになったのは、個人的に本当に嬉しい限りです(携帯アプリもありますよ。)。



さて、ではそろそろ本題へ。


今回のブログも超実務的な内容にしてみました。

加えて、前回迄とは異なり、少しばかり古い情報ではあります―


そのため多少今更感は出てしまいますが、場合によっては各種手続が頓挫する決定打になりかねない大事な情報ですので、当ブログでも取り上げてみることと致します。


それでは是非最後までお付き合いください。



<目 次>



1.ひとりで行う遺産分割協議

いきなり何を言っているんだ?


そう思われる方もいるでしょう。
元々相続についての前提知識がある方や、ある程度相続について勉強された方なら尚更かもしれません。



違和感もそのはず―



相続人が1人であるならば、基本的に遺産分割協議を行う必要性はあまりありませんから。

あくまでもそれが前提です。



ただし、これまではとある理由から、たとえ最終の相続人が1人であっても、遺産分割協議を行うケースがありました(実際、僕もそうしていました。)。



ただし、それが是正(?)され、むしろ実務上の注意点になることに―



いったいそれはどういったものなのか?


まずは最低限の前提知識が必要になってきますので、ここで少しだけ"遺産分割協議"について振り返ってみることにしましょう。





1-1.遺産分割協議とは?

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遺産分割協議とは、故人の遺産(相続財産)を"誰が相続するか"、もしくは"どのように分けるか"、を相続人全員で話し合う協議のことを指します。


相続についての考え方の基礎である"法定相続"とは異なる割合で相続する際に用いることが多いと言えるでしょう(法定相続どおりの遺産分割協議が駄目だと言うわけではありません。)。

※法定相続についての詳細は、こちらのブログをご確認ください。


「相続って何?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_35/




基本的に、遺産分割協議は、遺産(相続財産)の分け方が決まっていないからこそ、わざわざ相続人全員でそれを決める協議なのです―



と、なると...

遺言書が存在する場合はどうでしょう?



そうです。
遺言内容そのままに相続手続を行う場合には、遺産分割協議は必要ありません。
(尚、遺言執行者と相続人全員の同意があれば、遺言とは異なる内容の遺産分割協議を行うことが可能です。)


なぜなら既に遺産の分け方は遺言によって決められてていますから。

わざわざ相続人が協議を行う必要がないのです。



では、相続人が1人しかいない場合はどうなのでしょう?



遺産(相続財産)をどう分けるかどうか以前の問題ですね。

なにぶん相続人が1人だけですので、遺言書があろうとなかろうとその配分は火を見るよりも明らか―



そのため、遺産分割協議など全くもって不要なように思えます。


しかし、ケースによっては例え相続人が1人であっても、遺産分割協議を行うメリットが存在するのです(正確には、かつてはあったのです。)。



では、それについての検証の前に、今度は"数次相続"についてのおさらいをしてみましょう。






1-2.数次相続とは?

数次相続とは、相続が発生した後、相続手続を行っていない間に更に相続人が死亡してしまった場合を指します。


相続手続を放置してしまった場合によく起きてしまう事態ですね。

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例えば、上記の図のように父が死亡した後に母が死亡してしまったようなケースです。



この際、子は父と母を1人で相続することとなります。

当然、相続人は1人です―



どのような手続になるのでしょうか?



尚、このようなケースで仮に母に前夫との間に子がいたような場合には、母は一度父を相続していますので、例え父単独名義の遺産であったとしても、その者(異父兄弟)が母の相続人として相続手続に関与してきてしまいます。



怖いんです数次相続は―



余談ですが、先日、埼玉県川口市で行われている夜間無料相談会に相談員として出席したのですが、相続のご相談の大半に数次相続が起きてしまっていました。


中にはなんでもないはずの相続案件が、数次相続のせいでかなり複雑な案件に変貌してしまっているような例も―


遺言書の必要性を強く感じると共に、早めの相続手続の重要性を再認識できました。
当ブログを読んでいる皆さんもご注意ください。




1-3.数次相続は相続登記を省略できる場合がある

まずは原則の話をします。
(『1-2.』のような最終の相続人が1人のケースは後述します。)



事例から―

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父が死亡した後、何も相続手続をしないうちに母も続いて死亡、子2人(A,B)が相続人となったケースです。


非常によくあるパターンと言えます。



このようなケースで父単独名義の不動産があったとしましょう―


この際、法定相続分どおりに子A及びB名義に不動産の名義を変更するには、2つの相続登記を経ることになります。


具体的には―


  • ①父についての相続登記
    亡母 2分の1
    、子A 4分の1、子B 4分の1

  • ②母についての相続登記
    子A 4分の1、子B 4分の1



違和感があるかもしれませんが、①で一度死者名義(亡母名義)の相続登記をすることになるわけです。

登記簿上にも『亡~』と記載されることになります。
(ちなみに①の相続登記の段階で登記手続を止めることはできません。あくまで②の相続登記を行う前提として①の相続登記が認められているため、必ずこれらの登記は連件で行う必要があります。登記簿上、亡~名義のままにしておけるわけではないのです。)


結果、最終的にはA及びBそれぞれ2分の1ずつ相続することになると言うわけです。


とは言え、なんともめんどくさい話ですよね。
仮に父名義の不動産が相応に高価なものであったとしたら、2回も相続登記を行うわけですから、母分のかかる必要経費(②の登記の登録免許税)もばかになりません―




もっとシンプルにできないものか?



結論からするとできちゃいます。
遺産分割協議をうまく工夫することによって、父から母を経由せず、直接最終の相続人であるA及びB名義とする相続登記が可能なのです。


戸籍収集や法務局への登記申請手続等、面倒な手続を代わりにやってくれるというのも司法書士に依頼するメリットでしょうが、手続の無駄と経費(登録免許税)の削減ができることがある点も大きなメリットと言えるでしょう。


もちろん、知らなければ使えませんので―



司法書士の宣伝はさておき、具体的にどうするのか?

  • 父の最終の相続人であるA及びBで遺産分割協議を行う
  • ただし、父の相続人としての立場だけでなく、母の相続人としての立場でも行う
  • その上で、父の遺産を一度母に相続させ、その母の遺産をA及びBが相続する内容とする

要点を箇条書きにするとこんな感じです。


ただし、まだまだ理解しにくいと思いますので、上記の事例に合わせた数次相続の遺産分割協議書の記載例をつくってみました。

尚、赤字や太字部分は脚色するためです。
(この辺と省略している各種記載内容をうまく修正すれば、同様の事案であれば数次相続遺産分割協議書の雛形としても利用可能です。ただし、事案によって異なることもあるので、あくまで参考迄にしてください。こちらで責任を取れるものではありませんので。)




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ちなみに、このような書式でなければ駄目だというものではありません。
他にも色々な書き方があります。

要点さえ外さなければいいわけです。



ともあれ、これによって亡母名義の相続登記を経ることなく、直接父から子A及びBへの相続登記が可能となるわけです。

もちろん、協議内容を変更することによって、A単独名義にしたり、B単独名義にしたりすることも可能となります。



登記が1本で済むだけではなく、合法的に亡母名義分の登録免許税を納付しなくて済みますので、お財布に優しいテクニックと言えるでしょう。


該当する方は活用してみてはどうでしょう?


1-4.数次相続で常に相続登記を省略できるわけではない

この点、要注意です。


いつでも、どの事例に対しても、相続登記が省略できというわけでは決してありません。
たしかに『1-3.』での事例では可能でしたが、それがすべてに当てはまるわけではないのです。



その可否を判断する上でのポイントがあります。



それを一言でいうと―


  • 中間の相続が単独相続の場合には、直接、最終の相続人名義に所有権移転登記をすることができる



再度、『1-3.』の事例を思い返してみてください。


ポイントの一つに、
父の遺産を母に相続させ、その母の遺産をA及びBが相続する内容とする』というものがあったかと思います。


これによって父の相続の中間の相続を単独相続にしているわけです。



一度、母に相続させるのがキモだったわけですね。



尚、当然ながら事例が複雑になればなるほどこの辺の判断は難しくなってきます。
事例を出そうにも、それこそ無数に考えられるため、適宜、検討しつつ、当てはめていくしかないわけです。


プロでも難しいんですよ、この辺は本当に...
慣れている人いない人で結構、差が出てしまう部分でもあります。


そのため、当ブログはあくまで参考としつつ、複雑な数次相続の案件は、まず司法書士へ相談することをお勧めします。




1-5.中間の相続が単独であっても相続登記を省略できない場合もある

混乱させてしまうようで誠に申し訳ないのですが、ここまで数次相続が発生している状態で、遺産分割協議において中間の相続が単独となっていれば、該当する部分の相続登記を省略できる旨の説明をしてきました。


これを例外とするならば、その例外の例外が存在するのです。


いや、存在するというか、規定が変わりこれまで普通にできていたことが、急にできなくなったと言う方が正確でしょうか―



ポイントは、最終の相続人の人数です。



ちなみに、『1-3.』の事例であれば問題なく省略可能です。
(最終の相続人の人数が複数であるため。)


ただし、最終の相続人の人数がひとりであった場合には、それができなくなってしまったのです。


ようはひとりで行う遺産分割の場合です―




2.ひとりで行う遺産分割協議の注意点

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これまでの相続登記手続では、上記図のようなケースの数次相続であっても、遺産分割協議を工夫することによって亡母名義の相続登記を省略し、直接父から子名義の相続登記を行うことが可能でした。



それが冒頭で触れた1人で行う遺産分割協議です。



しかしながら、何年か前にその前提を覆す裁判例が出されたのです―

かなり分かりにくいと思いますが根拠となった裁判例の一部をご紹介します。
(原審 東京地裁平成26年3月13日判決)

「裁判所HP」
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=84784

結果、登記手続もそれを踏襲することとなりました。

以下がその内容です。

Aの死亡により,Aの配偶者BとABの子Cが共同相続人となったが,相続登記未了の間にBが死亡した場合において,AからCに相続を原因とする所有権の移転の登記を申請するためには,Cを相続人とする遺産分割協議書又はBの特別受益証明書等を提供する必要があり,これらの提供がない場合には,まず,BCへの相続を原因とする所有権の移転の登記を申請した上で,Bの持分についてCへ相続を原因とする移転の登記をすべきである(登記研究758号P171,登記研究759号P113)。


とは言え、まだ分かりにくいと思いますので、とりあえずはそういうものだという認識でいて下さい。
ここからなるべく分かり易く説明するよう努力します。




2-1.最終の相続人の人数に注意

事例として挙げておいて言うのもなんですが、裁判例や登記研究を読んでもあまりピンとこないのではないでしょうか?


恥ずかしながら僕自身もわりとそうですので、それが普通かもしれませんね。



要約すると、これらは最終の相続人がひとりの場合の遺産分割協議を否定したものです。


遺産分割協議とは、あくまで2人以上で協議したものであり、その権利が一人に帰属してしまった場合には、その後、協議を行うことはできず、遺産共有関係を遡って解消することはできないという理屈です。

いわゆる一人で行う決定書方式では駄目だと言っているわけなんです。



理屈は分かりますし、それが当たり前かもしれません。


でも、これまでは当然にできていたことなんです―


そのため、僕としても、違和感はありつつも、それに対し大きな疑問を持つことはありませんでした...
ただ、改めてこうした記事にしてみると当然の帰結のように思える部分はあります。



結果、上記の図で言うと、遺産分割協議で省略するのではなく、原則どおり①父 ⇒ 亡母と子名義の相続登記②① ⇒ 子単独名義の相続登記を行う必要があるというわけです。



尚、あくまで駄目だと言われているのは、最終の相続人がひとりの場合の数次相続です。


最終の相続人がひとりでなければ、これを否定されることはありません。



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そのため、例えばこのようなケースでは従前どおり亡母名義の相続登記を省略し、直接最終の相続人名義の相続登記が可能というわけなんです。



難しく、ややこしいですよね...



一時期、法務局と僕らの間でもこれらの取り扱いをどうするのかで軽く混乱が生じたのを覚えています。





3.まとめ

数次相続は、相続手続を放置しさえしなければ、そうそう生じる事態ではありません。
色々、めんどくさそうな話を書いてきましたが、ほぼ事前に防げる部類の話なのです。


相続手続はお早めに―

数次相続が発生している場合の相続登記は、最終の相続人の数にご注意を―


では、今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一