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会社・法人登記

株主リストが必要になりました


いつもお読みいただきありがとうございます。



なかなか梅雨明けしませんね。
もはや日々の雨予報が当たり前のようにすら思えてきました。
今年の梅雨は例年よりもかなり長くなえいそうで、7月の後半頃を予想している専門家も...
どうにかならないものなのでしょうか。



さて、そろそろ本題です。
今更と言えば今更ですが、今回は"株主リスト"についてのお話しを少し。

昔はなかった規定なんですけどね...

良い悪いは別にしても、会社登記は年々細かくなっていく一方です。
不動産登記と比べると元が緩すぎたという面も多分にあるでしょうが...

ともあれ、興味のある方は是非ご覧ください。





<目 次>





1.株主リストについて

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正直、ほんとこの辺は慣れるまで分かりにくいです。
僕自身、うまく説明できるかどうか...


端的に言うと、法律が変更され、会社の各種変更登記申請時に"株主リスト"なるものの添付を要求されるようになったわけです。


ちなみに変更された法律は、商業登記規則61条です(覚えておく必要はないです。)。
具体的には同条第3項に次の規定が新設されました(今の時点では目を通すだけで十分です。)。


商業登記規則第61条
3 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあっては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第三百十九条第一項(同法第三百二十五条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があったものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあっては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。
一 十名
二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が三分の二に達するまでの人数

ここに書いてあることが、ある意味すべてなのですが、なにぶんこれだけだと流石に分かりにくいと思います。
僕自身、しばらくよく分かってなかったですし...


ともあれ、これにより平成28年10月1日以降の株式会社(有限会社を含む)・投資法人・特定目的会社の登記の申請にあたって、新たな添付書面として、"株主リスト"が登場するようになったものです。




1-1.そもそも株主リストとは何なのか?

似たような名称の一つに"株主名簿"なるものが存在します。
あるいは株主名簿の方が株主リストより知名度は高いのではないでしょうか?

昔からありますし...


尚、これらは同じものではありません。
類似してはいますが記載事項が異なる別物です。


早速、比較してみましょう―



株 主 リ ス ト 株 主 名 簿
  1. 株主の氏名又は名称
  2. 住所
  3. 株式数(種類株式発行会社は、種類株式の種類及び数)
  4. 議決権数
  5. 議決権数割合
  1. 株主の氏名又は名称
  2. 住所
  3. 保有する株式の数
  4. 取得日
  5. 株券番号(株券を発行している会社)



とは言え、似てますよね。

1~3はまんま同趣旨です。
ただし、4~5で明らかな違いがあります。

ちなみに、試したことはありませんが、登記申請時に株主リストの代わりに株主名簿を添付することはできないとされています。


法務局が情報として欲しいのは、株主リストで言うところの4~5部分であり、取得日や株券番号等の詳細情報を求めているわけでないからでしょう。



その上で―



株主リストとは何か?



そう、問われたとすれば、単に言葉では"会社の株主の具体的な情報を記載した書面"としか言いようがありません。

むしろ、言葉の意味自体よりも、その趣旨の方が先にくる書類だからです。


それでは株主リストの添付が必要となる理由を検証してみることにしましょう―




1-2.株主リストの添付が必要な理由とは?

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以前は必要とされていなかったものが、ここにきてわざわざ必要とされるようになった―


それにはそれ相応の理由があるはずです。


先に結論から言うと、僕が知る限り株主リストを添付すべき理由が明示されたことはありません。
法務省の発表では記述のとおり、平成28年10月1日からそれが必要になるという旨のみです。



ただ、明示されていなくとも少し考えてみれば分かりますよね?



既述のとおり、株主リストで要求されている情報は、株主自身の情報とその株式数及び議決権数です。



そこから導き出されるものと言えば―



おそらく法務局としては、「株主リスト」の添付を要求することで、ちゃんと実際に株主総会が開かれ、各株主に応じた議決権の行使がされたことを確認したいのでしょう。


流行りと言ってしまうのは語弊があるかもしれませんが、もっぱら消費者保護や犯罪防止の観点から生じたであろうことは想像に難くないです。
これにより虚偽の登記を防止し、商業登記の真実性の担保を図る趣旨であることはまず間違いないでしょう。



会社の規模が小さければ小さいほど、会社の運営や管理はずさんになりがちです。


あくまで形式だけの株主総会―


まだまだ多くの中小企業がそうなのではないでしょうか?
そうした会社を守るための新しい制度なのです。




2.株主リストが必要なケース

すべてのケースに株主リストが必要になるわけではありません。
また、合同会社、一般社団法人、NPO法人等に対しては元より株主リストは要求されません(株式という概念自体がないからです。)。



では、どのようなケースで株主リストが要求されるのでしょう?


株式会社が行う登記申請では、登記すべき事項について株主総会の決議もしくは株主全員の同意を要するケースについて必要となります。

まあ、言ってしまえばほとんどですよね。



取締役等の役員変更はもちろんのこと、会社の商号や目的の変更、資本金の増資や減資、解散の登記にも必要になってきます。


逆に株主リストが要求されないのは、株主総会の決議を要しないケースです(厳密に言うと、新株予約権行使後の資本金の変更等、株主総会を行った上で株主リストの添付を要しない例外はありますが、ちょっと趣旨が異なりますし、複雑になり過ぎるためここでは割愛させていただきます。)。


ちなみに僕がいつも利用している株主リストの書式はこんな感じです。



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たぶん分かりにくいですよね??
これだけ見ても。

僕も最初に見たときはそうでした。

諸々、検証してみましょう―




2-1.株主リスト作成時の注意点等

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まずは比較的簡単なところから―


・誰が作成し、どの印鑑で押印すべきか?

株主リストを作成すべきは、上記の参考書式にもあるとおり会社の"代表取締役"です。
株主個人ではありませんし、株主個人の印鑑は必要ありません。

注意点としましては、例えば対象となる株主総会で代表取締役を変更するとした場合、印鑑を押印すべきは"新"代表取締役です。
新旧どちらの代表取締役であっていいわけではありません。

あくまで登記申請時に必要とされる情報ですので、株主リストに押印する代表取締役と登記の申請書や司法書士への委任状に押印する代表取締役が常に同じになる理解です。

尚、株主リストに押印する印鑑は、常に会社の実印(法務局届出印)となります。




・株主リストに掲載が必要な株主とは?

この辺が特に分かりづらいかと思います。

前提として、株主リストに掲載する株主は総株主である必要はありません。
予めルールが定められているわけです。
上記の株主リストの参考書式は、その辺が分かっていないと何を言っているのかチンプンカンプンな部分が多いでしょう。


株主リストに掲載が必要な株主とは、"議決権の上位10名の株主"もしくは"議決権の割合が2/3に達するまでの株主(議決権割合の多い株主から加算)"の内、いずれか少ない方の株主を記載します。


投げやりみたくなってしまいますが、もうこれはそのまま憶えておく他ありません。
会社によっては株主全員の掲載は大変ですから、決議上有効な株主に絞った結果、表現がかなり分かりにくくなってしまったという例です。


これについての注意事項はまだまだあります。


例えば議決権第10位の株主が同順位で2人いたとしましょう―
株主リストに記載すべきは、任意ではなくその双方となります。
仮に同順位議決権10位の人の途中で3分の2に達したとしても、同順位の株主の全員を記載する必要があるわけです。


ほんと、分かりにくいですよね...


当初、僕は議決権の上位10名の株主という規定をつくった意味が分かりませんでした。
これがあるから色々分かりにくくなるとさえ思っていました。


ただし―


そのうち理解できました。
議決権の上位10名の規定は、中小企業ではなく上場企業に向けた規定なんだと...


言わずもがな上場企業の株式は公開されており、議決権の割合が2/3に達するまでの株主と言ったら―
上場企業にかかる負担は計り知れません。

該当する株主数はいったい何人になるのでしょう?

分かりにくいことに違いはありませんが、それでも諸事情をよく考慮した上での苦肉の策だったわけですね。
ですので、この辺はよく読んで頑張る他ないわけです。
分かりにくいだけで難しいわけではありませんから―





・その他、注意点

株主リストに掲載すべき株主は、株主総会に欠席し、または議決権を行使しなかった株主も含まれます。
出席や参加の有無が重要なのではなく、虚偽の決議がされていないかどうかが主となるからです。

そのため、自己株主等、議決権を行使できない株主はこれには含まれません。



最後に、株主リスト作成時に株主が死亡していた場合の注意点についてです。
原則、株主リストには株主総会開催時(基準日を定めている場合は基準日)の株主の情報を記載する必要がありますが、株主が死亡していた場合には状況に応じて次のような取り扱いになるとされています。


  • 当該株主が死亡していたことを知らなかった場合や、死亡の事実自体は知っていたが相続人が誰であるか分からない場合は死亡した株主を記載
  • 当該株主の死亡及び相続人を把握はしていたが、株式の遺産共有が解消していない場合は相続人全員を記載
  • 当該株主の死亡及び相続人を把握、株式の遺産共有状態も解消しているのであれば、対象となる相続人のみを記載(株主名簿の名義書換も済んでいる必要があるかと思われます。)


まあ、こうする他ないでしょうし、その趣旨も分かります。
ただ、簡単な役員変更のために戸籍一式を集めるのは...

まだ実務では遭遇していないケースですが、相続証明書一式の添付を要求されたるするのでしょうか?

その辺につきましては、判明次第追ってご報告致します。




3.まとめ

今回は株主リストについてのものでした。
正直、最新情報と言うわけではありませんが、僕自身、いまいち理解が浅い部分があったので、再度の確認と備忘録的な意味合いを多分に含んだ記事になっているかと思います。

とは言え、役員の任期伸長が可能となり、会社登記自体は減少の一途を辿っていることでしょうが、それでも今後一切登記を行わない会社はほぼありません。

近い将来ではないかもしれませんが、そこまで遠くない未来に皆さんに関わり合いのある会社も―
その際、きっと結構な確率で今回の株主リストに実際触れることになるでしょう。


少しは役に立つと思いますよ、たぶんきっと。


それでは今回はこの辺で。

write by 司法書士尾形壮一