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会社・法人登記唯一の役員(取締役)兼株主が死亡または後見開始の審判を受けた場合
いつもお読みいただきありがとうございます。
あっという間に9月ですね。
暑さもひと段落した感じがします。
例年通りなら秋を満喫できる期間は短めで、一気に寒くなってしまうようなイメージがありますが、今年はどうなのでしょうね?
できれば秋が長くあって欲しいとは思いますが...
さて、今回は株主兼取締役(唯一の株主であり、唯一の取締役)が死亡してしまった場合の手続について少し。
以前はそれ程難しくなかったのですが、最近の会社は何かと注意点が多い...
せっかくなので備忘録的な意味合いも含め、記事にしてみた次第です。
<目 次>
- 1.ひとり会社の急増
- 2.ひとり会社の問題点
2-1.相続人が役員の地位を当然に相続するわけではない
2-2.株式は相続の対象となるが
2-3.唯一の取締役(役員)兼株主が後見制度を利用した場合はどうなる?
2-4.結局のところひとり会社は避けるべきなのか? - 3.まとめ
1.ひとり会社の急増
株式会社を設立するためには―
『取締役は3名以上(取締役会を設置)』、『監査役は1名以上』の就任が必須。
これが以前の決まり事でした。
しかしながら、平成18年5月の会社法の施行以降は、取締役は最低1人いればよく、監査役の就任自体も任意になったのです。
結果―
"ひとり会社"が増えることになりました。
つまり、役員(取締役)と株主が1人、かつ、同一人物の"ひとりの会社"です。
これについての全国的な統計があるかどうかは分かりませんが、少なくとも司法書士九九法務事務所で新規設立依頼を受ける会社の多くが"ひとり会社"です。
だいたい7~8割ぐらいでしょうか―
おそらく他でもそう大差はないかと思われます。
ある意味、究極のワンマン会社ですよね。
別にそれが悪いわけではありません。
以前は数合わせをしていただけで、ほとんどの会社の実情はそんなに変わらなかったでしょうから―
下手に第三者を入れるリスクもあったことでしょう―
ただし、ある程度は状況を理解し、準備をしておくことも大事です。
もちろん、ひとり会社特有のデメリットもあるわけですから。
2.ひとり会社の問題点
ひとり会社のデメリットは大なり小なりあります。
例えば、福利厚生費の問題や、社会保険加入の問題、場合によっては厚生年金の問題なんかもそうでしょう。
ただ、この辺は僕の専門ではないですし、正直、それ程大きな問題でもないと思っています(あくまで法人化する以上はどれも当たり前のことですから。)。
むしろ、司法書士の立場から見た1人会社の問題点は、会社にとって唯一の役員であり株主である人物が死亡してしまったり、後見開始の審判を受けたしまった場合の話です。
果たして、そのような場合に会社は、残された家族は、どうなってしまうのでしょう―
2-1.相続人が役員の地位を当然に相続するわけではない
相続は基本なんでも相続人が承継します。
現金、預金、不動産等のプラスの財産はもちろんのこと、借金等のマイナスの財産もすべて相続の対象です。
ただし、中には相続の対象自体にならないようなものも―
民法第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
上記条文中の赤字部分がそれに当たります。
これを"一身専属(いっしんせんぞく)の権利義務"と呼ぶのですが(ちなみに権利の場合は一身専属権、義務の場合は一身専属義務とも呼びます。)、会社の役員たる地位はこの代表格とも言えるものなのです。
その他、せっかくなので代表的な一身専属の権利義務を紹介しますと―
- ①使用貸借契約における借主の地位
- ②代理における本人・代理人の地位
- ③雇用契約における使用者・被用者の地位
- ④委任契約における委任者・受任者の地位
これらはいずれも相続の対象にはなりません。
ちなみに取締役と会社の関係はまさに④に該当します。
ようするに、取締役が死亡したとしても、その地位は当然に相続人が相続するわけではないのです。
まあ、この辺はよく考えてみると分かると思います。
会社と役員の関係は委任契約に基づくものです。
この人だからこそ、会社は報酬を払って役員を頼んでいるわけです。
それが死亡を境に急にその相続人が役員になるのが当然だとしたらどうでしょう?
能力や経験が未知数の場合もー
会社はかなりの混乱をきたしかねませんよね...
それは、ひとり会社であっても同様なのです。
結果、ひとり会社の場合は、一時的に役員が誰もいない状態になってしまいます...
その際に取るべき手続等については次項にて後述しますが、大きなデメリットと言える点でしょう。
2-2.株式は相続の対象となるが
前述のとおり、役員の地位は相続の対象にはなりません。
対して、株主の地位はー
これについては他の財産同様、相続の対象となります。
ただし、株式の相続は少しだけ他の相続とは異なる点があるのです。
それはー
- 株式は相続が発生した時点で相続人の"準共有状態"になるとされています
ちょっと想像しにくいかもしれませんね。
そこで簡単な事例を紹介させていただきます。
例えば、対象の株式が100株あったとして、相続人が子二人だったとします。
法定相続分は2分の1ずつですので、それぞれ50株ずつの権利行使が可能なように思えますが...
株式の場合はそうもいかないのです。
状態的には100株を共有していることになり(当然にはそれぞれが何株といった感じにはならないわけです。)、個別に権利行使ができるわけではないのです。
もちろん、遺産分割協議後は権利が確定しますので、株式の個別行使は可能です。
ようは相続人全員による遺産分割協議が終了しない限り(もしくは遺言書でもない限り)、例え株式を相続したとしても諸々の問題が残ってしまうというわけなんです。
つつがなく進む相続案件であればそれも大きな問題にはならないでしょうが、仮にそうでなかったら...
その点で言うと、これも一つのデメリットになり得るわけです。
2-3.唯一の取締役(役員)兼株主が後見制度を利用した場合はどうなる?
後見開始の審判(保佐開始の審判についても同様)は取締役の欠格事由に該当します。
※補助開始の審判は取締役の欠格事由とはされていません。
家庭裁判所より決定がなされた時点で、対象となる役員はその地位を失い退任してしまうことになるのです。
これは望む望まないの問題ではありません。
法律でそう定められている以上、どうしようもない話なのです。
他に役員がいればいいですが、そうでない場合は会社経営に多大な影響を及ぼしてしまうこともあるでしょうー
では、取締役の地位はそうなってしまうとして、株主の地位はどうでしょう?
まず、欠格事由どうこうの話にはなりません。
ただし、そのような状態(判断能力が欠如している)であるということは、単に株主としての議決権を行使することができないわけです。
それはそうですよね。
契約行為ができないわけですから、株主として議決権を行使できるはずがありません。
結果、そのような場合は、後見人が代わりに議決権を行使する他ないのですが、それも一筋縄ではいきません。
保存行為ならまだしも、行使する内容によっては...
また、対象となる株式を親族や後継者に渡すとしても、それは財産の処分に該当するため、家庭裁判所の許可が必要になってくるでしょう。
どちらにせよ、状況に応じた適宜の判断を求められる困難な事態に陥ってしまうわけです。
2-4.結局のところひとり会社は避けるべきなのか?
ここまでしっかり読まれた方であれば、なるべく"ひとり会社"は避けようー
そう、思われたかもしれません。
それも一つの正解なのですが、単純にそれだけとは言い切れません。
信頼のできる共同経営者等がいればいいでしょうが、単に数合わせの役員や株主を置くことによって、また別の問題が生じかねないからです。
そうそう単純な問題でもないわけです...
重要なことはこれらを把握し、事前に可能な限りの準備をしておくことです。
会社員ではなく、経営者なのですから、できるだけその辺の意識は高く持っていて下さい。
例えば株式の問題であれば、しっかりとした内容の遺言書を残しておけば、防げるトラブルもあります。
後継者が定まっているのであれば、生前に株式の譲渡を行う方法もあるでしょう。
役員の問題も同様です。
リスクを最小限に抑えるためにも、状況に応じた適宜の準備が何より大切なわけです。
3.まとめ
今回はひとり会社の問題点についてでした。
そのような会社が設立できるようになって10年以上が経過した現在、上記のような問題を目にする機会も多くなってきました。
それはおそらく今後も続くことでしょうし、むしろ増えていくことでしょう。
該当する方も多いでしょうが、何らかの対策はされていますか??
個人の"終活"も大事ですが、会社の"終活"も同じぐらい大事です。
残された家族や取引先になるべく迷惑がかからないよう、できることを少しずつやっておきましょう。
それではこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一