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遺言「相続させる」旨の遺言と「遺贈」
いつもお読みいただきありがとうございます。
前回に引き続き今回も遺言書の書き方をテーマにお送りさせていただきます。
ただ、ちょっと今回はマニアックな内容かもしれません...
まあ、知っていて損はない内容ですので、興味のある方は是非ご覧ください。
<目 次>
- 1.「相続させる」と「遺贈する」の違い
1-1.誰に遺産を残すのかがポイント
1-2.「遺贈する」は相続人に対しても使用できるのか? - 2.相続手続上の違いについて
2-1.不動産の登記申請について
2-2.農地や賃借権の取得について
2-3.相続税について - 3.まとめ
1.「相続させる」と「遺贈する」の違い
遺言書を作成する上で使用する文言のお話しです。
これまで遺言書を書いたことが、もしくは書こうと思って書籍等を購入したことがある方などは、きっと一度は目にしているはずです。
そうでなくとも、実際に遺言を受けた経験がある方なども同様でしょう。
例えば、以下のような文言に記憶はありませんか?
- 遺言者は次の財産を●●に『相続させる』
- 遺言者は次の財産を●●に『遺贈する』
遺言者が遺言を作成する際、誰かに何かを残す上で上記の内、いずれかの文言を使用することになります。
ちなみに、基本、この二択です。
では、何を基準にこれらを使い分けることになるのでしょうか?
1-1.誰に遺産を残すのかがポイント
「相続させる」と「遺贈する」の使い分け方は、ある意味シンプルです。
「相続させる」は相続人のみ使用可能、「遺贈する」は相続人以外の者に使用するのが一般的です。
例えば、父が長男に遺言を残すのであれば、「相続させる」という文言を用います。
当然、子供は相続人になりますから。
では、同じ事例で父が日々の介護等で世話になっている長男の妻に遺言を残す場合はどうなるでしょうか?
結論からすると、日常における関係性は近くとも、民法上、長男の妻は父にとっての相続人にはなり得ません。
結果、このような場合では、「遺言する」という文言を用いることになるのです。
言い換えるとするならば、日々身の回りの世話を献身的に行っていたとしても、長男の妻には相続権がないのです。
その点、今回の民法改正でテコ入れはありましたが、正直、万全とは思えません。
長男の妻等、世話になった方に財産を残したいと思われる方は、"誰が相続人になるのか?"を事前に把握しておき、遺言書によって"遺贈する"のも一つの選択肢なのです。
「相続人になるべき者は誰か?~推定相続人を把握しておこう~/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_123/
1-2.「遺贈する」は相続人に対しても使用できるのか?
既述のとおり、「遺贈する」旨の遺言は、相続人以外の者に対して使用されるのが一般的です。
では、あえてそれを相続人に対しても使用することは可能なのか?
結論からすると可能です。
特に遺贈の相手にこれといった決まりはありません。
相続人であっても、第三者であっても、法人であっても、いずれも遺贈可能なのです。
ただし―
相続人に対して「遺贈する」旨の遺言書が作成されることはまずありません。
少なくとも僕自身経験ありませんし、今のところ検討したことすらありません。
なぜなら依頼者にメリットが生じるとは思えないからです。
そればかりか、ケースによってはむしろデメリットにすらなることも...
その理由は後述しますが、相続人に対する遺言は、「遺言させる」ではなく、原則どおり「相続させる」を選択すべきなのです。
2.相続手続上の違いについて
「相続させる」と「遺贈する」、実際の相続手続上の違いはあるのか?
あります。しかも、結構違います。
その上で、特に注意すべき点は以下の4点と言えるでしょう。
- 不動産の登記申請
- 農地の取得
- 賃借権の取得
- 相続税
以下、簡単にご説明します。
2-1.不動産の登記申請について
「相続させる」と「遺贈する」では、不動産の登記申請手続において以下のような差異が生じます。
<相続させる>
対象となる財産が不動産の場合、その相続人が単独で登記申請可能
<遺贈する>
対象となる財産が不動産の場合、受遺者(遺贈を受けた側)は単独で登記申請ができず、他の法定相続人全員と共同でこれを行う
結構な違いですよね。
手間と労力だけならまだしも、相続人間で争いが生じているような案件だと、他の相続人からなかなか協力が得られないようなことも...
尚、これは受遺者が相続人であるかどうかで結論が変わるものではありません。
遺贈である以上、それが原則なのです(相続人であっても登記の単独申請ができなくなる)。
ちなみに、遺言書の中で遺言執行者を定めていた場合には、他の法定相続人全員に代わり、受遺者と遺言執行者のみが登記義務者として登記申請可能となります。
他の法定相続人全員の協力を仰ぐ必要がなくなるわけです。
そのため、遺贈が絡む遺言書では、必ず遺言執行者を選定するよう注意しましょう。
「遺言書に遺言執行者は必要なのか?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_94/#h23sjvrujyv9ixshzk1ev4hia1lngdq1
その他、不動産の登記申請のときにかかる登録免許税は、「相続させる」が不動産価格の0.4%であり、「遺贈する」が2%になります。
尚、遺贈は遺贈でも、対象が相続人であった場合は、「相続させる」と同様0.4%となります(以前は遺贈である限り2%でしたが、現在は変更され、この点についての有利不利はなくなっています。)。
2-2.農地や賃借権の取得について
あまり馴染みがないかもしれませんが、本来、農地や賃借権を取得するにはひと手間かかります。
例えば、農地であれば農業委員会への届出や許可、賃借権であれば賃貸人の承諾などです。
面倒ですし、それ以前に意外と大変です...
ただし、実はこれ、相続であればいずれも必要ありません。
相続によって当然にその権利を承継することになるからです。
また、これは単純な相続だけに限らず、相続させる旨の遺言でも同様です。
対して―
遺贈の場合は、原則どおりそのいずれもが必要となってきます。
農業委員会での手続も、賃貸人の承諾も得る必要があると...
尚、これは相続人が遺贈の対象者であっても変わりません。
原則どおりです。
そのため、この点においても相続人には「遺贈する」ではなく、「相続させる」を選択すべきなのです。
2-3.相続税について
この辺は税務であり、僕の専門ではないので、結論だけを簡単にご紹介します。
相続税の2割加算というものがあります。
相続、遺贈によって財産を取得した者が、被相続人の1親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)及び配偶者以外である場合に、その相続税額の2割に相当する金額が加算されるというものです。
遺贈の場合は、この点についても注意が必要になってくるでしょう。
3.まとめ
「相続させる」旨の遺言と、「遺贈」についてのお話しでした。
ちょっと分かり難かった点も多かったのではないでしょうか?
すべてを理解できなくても、今の時点ではなんとなくそうなんだでも十分かと思います。
まずは興味を関心を持つことが重要です。
遺言はこの他にも注意すべき点が多い業務と言えます。
僕自身、日々、勉強といった感じでしょうか―
どうせ作るのであれば、より良い、より使い易い、遺言書を作りましょう。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一