ブログ
相続亡くなった時期によっては相続人や相続分が異なる?
いつもお読みいただきありがとうございます。
ようやっと猛暑も一区切りと言ったところなのでしょうか?
ただし、その代わりに台風シーズンが到来することになるので、何とも言えない気分ではあります
そして、おそらく秋を感じることも少ないまますぐに寒くなっていくのでしょう。
なんともな~といった感じです。
さて、今回はかなり古めの相続のお話しです。
該当する方は少ないとは思いますが、僕自身、少なくとも2~3年に一度は戦前の相続案件に出会っていますので、案外、埋もれたままになっているのも多いのかもしれません。
仮に該当されるようなら早めの手続をお勧め致します。
<目 次>
- 1.法定相続分の推移
1-1.家督相続制度
1-2.応急処置法
1-3.昭和23年から昭和55年迄の相続
1-4.昭和56年以降の相続 - 2.まとめ
1.法定相続分の推移
まず、法定相続分とは―
民法で定めらている相続の基準のようなものです。
現行法では、配偶者と子がいる家庭では、配偶者が2分の1、子が残りの2分の1を頭数で相続するといったあれですね。
その辺の詳細を改めて確認しておきたい方は、以下の過去ブログも参照してみてください。
「相続人になるべき者は誰か?~推定相続人を把握しておこう~/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_123/
「相続って何?/司法書士九九法務事務所HP」
https://99help.info/blog/post_35/
尚、これらはあくまで現行法に基づくものです。
例えば、何代か前の古い相続手続(曾祖父の相続等)を行うような場合には、違う法律が適用されることもあります。
その辺の法律は、これまで何度か大きく変更されてきており、結果として死亡時期がどの区分に該当するかによって、相続人や相続分が異なることとなるのです。
注意すべき死亡時期と区分は以下のとおりとなっております。
- ①明治31年7月16日~昭和22年5月2日以前に死亡した場合
- ②昭和22年5月3日~昭和22年12月31日以前に死亡した場合
- ③昭和23年1月1日~昭和55年12月31日以前に死亡した場合
- ④昭和56年1月1日以降に死亡した場合
死亡時期がどの区分に該当するのかー
詳細はこれ以降ご説明していきますが、まずは40年以上前に亡くなられた方の相続手続を行う場合には、要注意と思っておきましょう。
1-1.家督相続制度
家督相続制度とは、明治31年7月16日から昭和22年5月2日迄続いた"旧民法"のことです。
仮にこの間に亡くなられた方の相続手続をこれから行う場合には、現行法のものではなく、当時の法律(旧民法)を用いる必要が生じるというわけなのです。
いわゆる、『配偶者は2分の1~』ではありません。
法律変更の効果は、必ずしも遡及されるわけではなく、あくまで、その時代、その時代に、あわせた法律上の手続が必要になってくると...
では、当時の法律内容はいったいどういったものだったのでしょうか?
家督相続制度では、新たに戸主となった者(家督相続人)が、前戸主の一身に専属するものを除き、前戸主に属する一切の権利義務を包括的に承継(相続)することになります。
配偶者の有り無しや、子の人数等が基準になるのではなく、単に戸主が単独ですべてを相続するという趣旨です。
相続人が誰なのかでなく、"戸主"が誰なのか?、それだけだったわけです。
ある意味、かなりシンプルですよね。
家族の意思が介在する余地すらありません。
ただ、昔はこれが当然でした。
いや、当然と言うより、法律でそうなっていたのです。
今や弊害化しつつありますが、「長男がすべてを相続するもの!」と言った考えが残っているのも、この法律が多分に影響している結果でしょう。
ちなみに、戸主とは―
調べてみると、以下のような記載をされていることが多いです。
一家の主人。家長。旧民法下での家の責任者。戸主権を持ち、家族を統率する者。
これを家制度(お家制度)とも呼ばれていました。
なんとも時代を感じますよね...
ともあれ、昭和22年5月2日以前に亡くなられている方の相続人は、自動的に家督相続した新戸主のみとなるのです。
当然、相続手続上、必要となる戸籍も家督相続した際のものがあればよく、必ずしも出生~死亡迄を遡る必要はありません。
1-2.応急処置法
家督相続制度が続いたのは昭和22年5月2日迄でした。
第二次世界大戦が終結し、日本国憲法が施行されると、それに伴い家制度も廃止されることとなったのです。
(一説にはマッカーサーの占領政策だとかなんとか...)
ともあれ、新憲法の精神に反するとの理由だったそうです。
結果、それに代わる法律を制定する必要が生じました。
そこで登場したのが、民法に対する特別法である"応急処置法"だったのです。
昭和22年5月3日から昭和22年12月31日迄の短期間ですが、この間にお亡くなりなられた方はこの法律に従って相続手続を行うことになります。
尚、この応急処置法から"相続分"の概念が出てくることになるのですが、今とは少しだけその内容が異なっています。
具体的には以下のとおりです。
- 相続人が配偶者と子である場合
相続分:配偶者3分の1、子3分の2(頭数で均等に折半) - 相続人が配偶者と父母の場合(子がいない場合)
相続分:配偶者2分の1、父母2分の1(頭数で均等に折半) - 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合(子と父母がいない場合)
相続分:配偶者3分の2、兄弟姉妹3分の2(頭数で均等に折半)
現行の法定相続分に近い形ですよね。
異なるのは配偶者の権利が少ない点です。
今や相続手続上で最強の配偶者も、昔はそれほど優遇されていなかったと...
その他、この応急処置法では、兄弟姉妹の直系卑属への代襲相続は認められていませんでした。
いわゆる、現在とは異なり、甥姪が相続人になることはなかったのです。
1-3.昭和23年から昭和55年迄の相続
この間の相続の考え方は、基本的には上記の応急処置法と同じです。
法定相続分も変更なしです(配偶者の権利が今よりも少ない点も同様です。)。
応急処置から正式な形になったようなイメージでしょうか―
ただし、それとは異なる点も存在します。
応急処置法とは異なり、この時代区分での相続では、兄弟姉妹の直系卑属への代襲相続が認められるようになったのです。
しかも、なんと無制限...
ちなみに現行法では、数次相続でない限り、甥姪の下の代が相続人になることはありません。
たった、40年前でもここまで異なっていたのですね。
1-4.昭和56年以降の相続
相続人や相続分については、現行法と異なる点はありません。
いわゆる現在の民法(相続法)の基礎がここから始まったわけです。
変更された内容としては、当時の相続法の改正により、配偶者の相続分が引き上げられ、兄弟姉妹の代襲相続に制限が設けられました。
代襲相続に制限については、おそらく色々弊害が生じたのでしょう。
まあ、無制限に代襲相続が発生するわけですから、なんとなくその大変さが想像できるのではないでしょうか?
ともあれ、代襲相続は甥姪までとなったわけです。
尚、現行法と同じですが、変更された各相続人の相続分は以下のとおりです。
- 相続人が配偶者と子である場合
相続分:配偶者2分の1、子2分の1(頭数で均等に折半) - 相続人が配偶者と父母の場合(子がいない場合)
相続分:配偶者3分の2、父母3分の1(頭数で均等に折半) - 相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合(子と父母がいない場合)
相続分:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1(頭数で均等に折半)
2.まとめ
今回は古い相続手続についてのお話しでした。
なにか歴史の授業っぽい内容になってしまったようなそうでもないような...
少なくとも書いている分には楽しくもありましたが、これが有用な情報になるかどうかはその人次第ということにしておきましょう。
次回はかなり実務的な内容をお送りする予定です。
興味のある方はそちらも是非に。
それでは今回はこの辺で。
write by 司法書士尾形壮一